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NHK「国が教員を定額働かせ放題」に文科省が抗議→教員から文科省に批判続出

文=Business Journal編集部
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文部科学省が入居するビル(「Wikipedia」より/Rs1421

 公立校教員に残業代は支給されないが、その代わりに月給の4%相当を上乗せして支給する制度「教職調整額」。これをめぐり13日放送のNHKのニュース番組が「定額働かせ放題、どれだけ残業しても一定の上乗せ分しか支払われない」と報道したことについて、文部科学省は17日付で「中教審の議論の内容に触れない一面的な報道」とする抗議文をHP上に掲載。現場の教員からは文科省の見解に対し「そもそも文科省は現場の教員の労働実態を把握していない」「事実として教師は働かされ放題になっている」などと批判の声が寄せられている。

 教員給与特別措置法(給特法)では、公立校教員の給与について月給の4%相当の「教職調整額」を上乗せして支給すること、残業時間の上限について月45時間、年360時間とすることが定められている。30代の公立中学校教員はいう。

「毎週土日に部活動の指導を1日3~4時間ずつやると、それだけで少なくみてもひと月に24時間。平日は朝7時30分には勤務を開始して、部活動の指導と校務分掌(教師間で分担する校内の各種業務)、クラス担任業務、校内行事の準備などをこなして夜8時にいったん学校を出るので、朝と夕方以降を合わせて一日あたり約4時間の残業、月間で計80時間。さらに帰宅後に取り組む授業の準備の時間が加わる。なので実質的な月の残業時間は100時間を超えます。

 土日の部活動指導については、わずかな日当が出るものの事実上のタダ働きで、地区や学校によっては日当を請求しないようにしているところもある。勤務時間についても超過が目立つと教育委員会から問題視されて報告書を提出しなければならなくなるので、過少報告するという行為は広く行われています。その結果、表面上は『教員は長時間残業をしていない』ことにされてしまうため、文科省は実態を把握できていません。自治体は給特法があるおかげで教員をいくら働かせても残業代を払う必要がないので、教員は働かされ放題になっているのです」

低下する公立学校教員採用選考試験の採用倍率

 公立小学校・中学校の教員の長時間労働は深刻だ。2021年に名古屋大学の内田良教授らが全国の公立小学校の教員466名、公立中学校の教員458名を対象に行った調査によれば、1カ月の平均残業時間は100時間以上におよぶという。また連合総研が22年に発表した報告によれば、教員の勤務日の労働時間は平均12時間7分で、週休日の労働時間を合わせると1カ月の労働時間は293時間46分であり、時間外勤務は上限時間の月45時間を上回り、さらに過労死ラインを超えているとしている。

 こうした実態は教員志望者、なり手の減少を招いている。23年度の公立学校教員採用選考試験では小学校教員の競争率(採用倍率)は2.3倍と過去最低を更新、中学校は4.3倍で1991年度の過去最低倍率と0.1ポイントの差となった。採用倍率には地域差もみられるが、東京都教育委員会が実施した24年度の小学校の教員採用選考は1.1倍と過去最低。受験者数は10年前より半減しており、教員を志望する人の減少は顕著だ。

 昨年には東京都内の公立小学校で教員が育休を取得することになり、副校長が代わりの教員を探すために教員免許を持つ人など400人以上に電話をかけ続けたが、代わりの教員を確保できず、結局、非正規の教員にお願いして契約を延長してもらったものの、その直後に別の教員が体調不良で休職になったという出来事がニュースにも取り上げられ注目された(5月6日付読売新聞記事より)。

教員「非常に絶望的な気分」

 深刻な教員不足を受け処遇改善策や残業削減策などを検討していた文科省の中央教育審議会は13日、教職調整額を現行の4%から10%以上に引き上げることや、11時間程度の勤務間インターバル(終業から次の勤務開始まで一定の時間を空ける制度)の導入などを盛り込んだ提言をまとめ、盛山正仁文科相に提出。文科省は来年の通常国会に給特法改正案を提出する方針だが、NHK番組は一連の動きをめぐる報道のなかで公立校教員の給与体系について「定額働かせ放題」だと表現。これに文科省が抗議するという事態が生じている。

 この文科省の抗議に対し、SNS上では“抗議”の声が続出しているが30代・公立中学校教師はいう。

「もし仮に日本中の学校が教員の勤務時間を正確に報告したら大変なことになるでしょうが、各自治体の公立校教員の世界は教育委員会をトップとする狭い村社会。校長以下、現場の教師たちは混乱を招いたり問題を起こして教育委員会から目をつけられたりするとやっていけなくなるので、多くの学校が横並びの精神で教員の残業時間を過少報告しています。その“公式”データだけに基づけば『働かせ放題ではない』ということになるので、文科省はそう言っているのでしょうが、非常に絶望的な気分にさせられます。この文科省の基本的な姿勢こそが教育現場の疲弊と深刻な教員不足を招いています」

 40代・公立中学校教師はいう。

「教職調整額が10%ということは、これを残業代とみなすと一日8時間勤務で月20日、計160時間のうちの10%なので単純計算で16時間分ということになりますが、これでは土日の部活指導分を除いた1週間分の残業代にも及びません。また、事実上、残業代が定額制のままであれば、実際の残業時間が給与に反映されず、その一方で、やらならければならない業務量が減るわけでもないので従来どおり長時間の残業をせざるを得ず、まったく意味がありません。現場の感覚からすると、文科省は現在の教師の過酷な労働環境という問題に対して何もしていない、というのが実態です。

 業務量が変わらないなか、かつて大量に採用された教員が毎年、大量に定年退職し、さらに心身不調による休職者や退職者が相次ぐ一方、新たな教員の志望者は減っているわけなので、いつかは火を噴くでしょう。いきつくところまでいきついて大きな問題が続出するような事態にならない限り、文科省が本気になって動くことはないかもしれません。教師が授業もやり、各種行事の準備や校内の細々とした業務もやり、生徒同士のトラブル対応や保護者対応もやり、部活動指導もやり、さらに教育委員会への報告書類も作成するというのは無理があります。国が法律で教師の仕事内容を限定して、部活動指導などをはじめとする授業以外の業務を極力、他の担当者がやるように業務分担を進めるという抜本的な改革をしない限り、労働環境の改善は無理だと思います」

修学旅行に際し事前に教員が7~8万円を徴収される

 教育現場の独特な慣習も教員の負荷を増長させている。少し前にはある学校教師がSNS上に「1年目で担任ってやっぱしんどすぎる…大学卒業して何もわからないのに、生徒指導、電話対応、事務作業、教材研究、会議、保護者対応ともうすることがたくさんすぎる」と投稿し、大きな反響を呼んだ。

 このほか、修学旅行に際し事前に教員が7~8万円を徴収されるケースもある。当サイトは23年6月10日付け記事でその実態を報じていたが、以下に再掲載する。

――以下、再掲載――

 中学校の修学旅行に随行する教員が個人で一人当たり8万円もの支払いを余儀なくされる――。そんなTwitter投稿が議論を呼んでいる。業務としての出張、しかも修学旅行の随行ともなれば早朝から深夜の対応に至るまで、教員は連日にわたり事実上24時間勤務が強いられるといっても過言ではないが、果たして個人の費用負担となっているというのは事実なのか――。関係者に取材した。

 一般的には小学校では6年生時、中学校では3年生時に行われる修学旅行。生徒にとっては学校生活の思い出の1ページに残る一大行事だが、教員にとっては大変な労力を強いられる「過酷な業務」でもある。

「数十人から100人規模の子どもの集団を一切のトラブルなく遠方へ旅行させなければならないというのが、どれだけ大変なことか、想像を超えるものがある。修学旅行中は普段温和な先生でも険悪になるなんてことも珍しくないが、基本的には連日睡眠がとれない状況が続き、少しでもトラブルが起きれば全体のスケジュールに支障が生じかねないので、そのピリつきぶりは半端ではない。加えて、旅行中に限らず、事前の準備や事後の処理など、やらなければならない業務が膨大で、それを日々の授業の準備や部活動指導の合間にこなさなければならず、そうしたことが重なった結果、旅行中に何気ない行動をした生徒にブチぎれしてしまう羽目になる。

 今の時代、国内に限らず海外への旅行経験が豊富な子も珍しくなく、また家庭にのしかかる出費もバカにならないので、はっきりいって、もう修学旅行はなくしてもよいと思う。

 ちなみに土日に部活の試合や大会などで遠征する場合、さすがに交通費は支給されるが、食事代は自腹どころか、わずかながらの日当は出るものの休日出勤分の残業代はしっかりとは出ず、タダ働きとなる」(中学校教員)

<教員の立て替えで、「来週7万円徴収」といわれ、驚いた>

 そんな修学旅行だが、教員はあくまで業務として随行するため、交通費や食費、宿泊費などの旅費は経費として公立校であれば自治体などから支出されるのが当然と思われるが、前述のとおり教員個人が負担を強いられるという情報が投稿され、注目されているのだ。中学校教員であるこの投稿者の話によれば、いったん学校側から8万円を徴収され、後日、全額ではないものの払い戻しがなされるというが、このツイートを受けてSNS上では以下のような声が寄せられている。

<小学校教諭ですが、全額は返ってきません ホテル代や交通費はでますが、食事代(決められた店の決められたメニューでも)などは実費なので修学旅行は行くとマイナスです ほんとありえないですよね…朝早くから夜遅くまで時間外してるのに なんなら深夜でも何かあったら対応するのにマイナスなんて>

<教員1年目で、修学旅行が5月にあり、いきなり8万持ってきてと言われ、かなりキツくて親に借りた>

<私も今度ありますが、約3万>

<以前勤務した自治体は、事務(教委?)が教員分を支払い、あとから過不足の精算がありました。現在勤務する自治体は、教員の立て替えで、「来週7万円徴収」といわれ、驚いたことがあります>

<ウチの県は食費は戻ってきません。夜はほとんど寝れなくて実質24時間勤務だけど、時間外勤務は、確か一泊で4時間で、別日に休んでいいよ~で終わりです>

 参考までに東京都の公立学校ではどのようになっているのかを、東京都教育庁に聞いた。

「都内公立学校の修学旅行に係る経費のうち交通費、宿泊料については、その全額を公費で支給しております。都立学校の修学旅行に係る交通費、宿泊料は、事前に事務手続を行っており、個人で立て替えることはありません。区市町村立学校については、それぞれの区市町村の事務手続によって処理されています」

「今の時代に修学旅行が必要かどうかは疑問を感じています」

 他の県の実態はどうなっているのか。ある県の中学校教員に話を聞いた。

「自治体によって異なりますが、私の県では、事前に教員がお金を徴収されるということはなく、後日、実質上、食費代のみを請求されるというかたちです。ホテルなどの食事なので2泊・6食分で計1万円以上になり、『自分で食べたのだから仕方ない』と思う一方、ちょっと高いなとは感じます。生徒たちがおとなしい学校であれば夜10時くらいには自分の部屋に戻れますが、何かあればすぐに対応しなければならず、当然ながら飲酒などは厳禁ですし、休息というか待機という感じです。修学旅行にトラブルはつきもので、以前勤めていた学校では見学先で生徒が別の学校の生徒とケンカになり、夜に先方の学校に謝罪行ったこともありました。子どもたちも多様化しており、生徒のなかには過去に行ったことがある観光地を再び訪問するかたちになる子もおり、はたして今の時代に修学旅行が必要かどうかは疑問を感じています」

 別の県の公立校教員はいう。

「以前勤めていた県では事前徴収はなかったのですが、今の県の学校に赴任して初めての修学旅行の前に、学校側から『来週7万●千円を徴収するので持ってきてください』と言われ、慌てて定期預金口座を解約したことがあります。もちろん後日、各教員の口座にお金が戻ってくるのですが、2~3カ月ほどタイムラグあるので、1年目などの若い先生は大変みたいです。交通費や宿泊代、施設の入場料などベースとなる部分は教員負担は発生しませんが、食費は一日当たりの支給額に上限があるので、超過分は教員の自腹となります。一方、日当が支給されるのでトータルで見ると大きな損はないですが、多少の過不足は発生しているように思います。教員は業務で行くにもかかわらず、事前に数万円単位のお金を徴収されるという仕組みには、やはり疑問を感じざるを得ません」

 また、別の公立校教員はいう。

「生徒によっては、夜中に外に出てしまわないように見守ったり、寝返りのサポートが必要であったり、寝るまで付き添いが必要なケースがあります。そうした夜間対応に費やした時間は、たとえば別の日に『その分1時間休める』というかたちで調整できる自治体もありますが、自治体によってまちまち。また、夜に自室に戻っても休息というよりも待機というのが実情で、日当は出るものの事実上24時間勤務を強いられます」

 事実上残業代なしでの長時間労働など、教員の労働環境の悪さによる離職率の高さや休職者の増加が社会問題化するなか、修学旅行をめぐる現状にも問題が顕在化しているといえよう。

(文=Business Journal編集部)

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