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鷲尾香一「“鷲”の目で斬る」

休日がない…小中学校教員、異常な長時間残業&理不尽な保護者対応で精神疾患続出

文=鷲尾香一/ジャーナリスト
休日がない…小中学校教員、異常な長時間残業&理不尽な保護者対応で精神疾患続出の画像1「Thinkstock」より

 女性新入社員の過労自殺問題などで昨年11月、電通に対し労働基準法違反の疑いで厚生労働省の強制捜査が行われたことから社会問題化している、企業の違法な時間外労働。電通以外にもエイチ・アイ・エス、ヤマト運輸など大手企業の不当な実態が明るみに出るなど問題は拡大し、この問題を追及していた日本経済新聞社までもが、違法時間外労働による労働基準法違反で是正勧告を受ける事態となった。

 安倍晋三政権は「働き方改革」を高らかに打ち上げたが、企業の時間外労働が蔓延しているのが実態であり、問題企業には労働基準監督署などの手が入らないと改善されることはない。

 こうした状況のなかで注目されているのが、教員長時間労働問題だ。文部科学省が4月28日に発表した教員勤務実態調査(2016年度/以下、同調査)では、教諭の平均勤務時間が小学校、中学校とも1日平均11時間を超え、過労死リスクが高まるといわれる月平均80時間以上の時間外労働にある教諭が、中学校で約6割、小学校で約3割となった。

 安倍首相は6月9日に閣議決定した今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」において、「長時間勤務の早急な是正へ年末までに緊急対策をまとめる」とし、教員の働き方改善を盛り込んだ。これを受け、松野博一文部科学相は6月22日の中央教育審議会(中教審)総会で、小中学校教員の長時間労働解消に向けた負担軽減策を検討するよう諮問した。

 同調査によると、教員は家での持ち帰り仕事が30分~1時間程度(平日)あり、特に中学校の教員で部活動の顧問などを務めているケースでは、土日に3時間程度の仕事時間がある。30歳代後半の中学校教員は語る。

「学校の先生は夏休みがあり楽な職業だと思っている人が多いようだが、実態はまったく違う。休日や夏休みは部活動で潰れ、加えて教育研修などもあり、家族サービスをする暇もない」

 同調査によると、教員の1週間当たりの学校内勤務時間数は以下のようになっている。

       <小学校>    <中学校>
校長     54時間59分  55時間57分
副校長・教頭 63時間34分  63時間36分
教諭     57時間25分  63時間18分
講師     55時間18分  61時間43分

 総じて中学校のほうが長時間労働となっているが、これは中学校では部活動が積極的に行われているため。前出・教員は語る。

「現場の監督責任者である副校長や教頭の勤務時間が長くなっているが、もっとも勤務時間が長いのは、30歳代の若手の教諭だろう。この層が部活動でも中心的な役割を担っている」

 1日8時間労働なら週5日で40時間となるところだが、60時間を超える勤務時間では20時間以上の時間外労働になる。加えて、持ち帰り仕事もあるとなれば、月80時以上の時間外労働もうなずけるところだ。

「加えて、問題児の教育指導や学校などに対して自己中心的かつ理不尽な要求をするモンスターペアレント問題など、教員には精神的なストレスがかかる問題も多い」(同)

精神疾患になる教員たち

 こうした実態を反映して、教員には精神疾患が多い。若干古いデータだが、文科省の14年度の調査によれば、うつ病などの精神疾患で休職した全国の公立学校の教員は5045人(全教員の0.55%)に上る。在職者に占める精神疾患の割合を学校別でみると、中学が0.65%(1548人)で最も高く、小学校0.56%(2283人)、高校0.36%(675人)と続く。

「本当にうつ病になる先生は多い。それだけ責任感も強く、精神的な負担が多いのだと思う」(同)

 では、月平均80時間以上の時間外労働に対して、きちんと賃金は支払われているのか。

「公立学校の教員には時間外手当は支払われない。その代わりに一律に給料の4%の金額が教職調整額として支給されている」(同)

 つまり、時間外労働が多くても少なくても給料の4%が支払われるという不透明さもさることながら、結局は“サービス残業”が罷り通っているのだ。子供たちに「公平さ」「正しさ」を教える教員に、公平で正当な勤務制度を取り入れることが必要だろう。

「ときどき、なぜ教師という職業を選んでしまったのかと思うことがある」という前出・教員の言葉に、なんともやりきれない思いが滲んでいた。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)

鷲尾香一/ジャーナリスト

鷲尾香一/ジャーナリスト

本名は鈴木透。元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。

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