緑風薫る5月は、同時に「五月病」の季節でもあるが、本当に深刻なのは「生徒」よりも「先生」の健康状態かもしれない。
文部科学省は4月28日、2016年度の公立小中学校の勤務実態調査の速報値を公表。その結果は、教員の勤務の過酷さを、データとしても裏付けるものだった。
「精神疾患」による休職者は5000人以上
その結果によると、教諭の平日1日当たりの平均勤務時間は、小学校で前回調査から43分増の11時間15分、中学で32分増の11時間32分だった。小学校では33.3%、中学では57.6%の教諭が週に60時間以上勤務し、20時間以上残業していた。
これは厚生労働省が過労死の労災認定の目安としている月80時間の残業に相当するという。だが、実際の現場は、さらに過酷だ。
今回の調査を取り上げた4月29日の朝日新聞によると、中学校では土日の部活動の指導時間が1日あたり130分で、10年前から倍増。この記事では「部活があって今月は土曜日と日曜日に休みがなかった。教師になって13年目。こんな生活がずっと続いている」というバレーボール部の顧問をする公立中学校の教諭の話を取り上げている。
同記事によれば、そもそも教員は一般の公務員と異なり残業代が支払われず、基本給の4%を全員に支給する仕組みが1970年代から続いているのだという。「教師は聖職だから、身を粉にして働くのが当たり前」という考えがベースになって、際限のない残業が常態化しているのなら、教師が疲弊するのも当然だといえよう。
実際に、うつ病などの精神疾患にかかる教師は増え続けている。『ブラック化する学校 少子化なのになぜ先生は忙しくなったのか?』(前屋毅・青春出版社)によれば、公立学校(小学・中学・高校)の教員の病気のための休職者数は増え続け、最近では年間8000人以上を超えているという。
文科省の調査によれば、2014年度は8277人で、その内訳は小学校教員が3899人、中学校が2366人。
そのなかでも多くの割合を占めている原因は「精神疾患」で、2008年度以降は毎年5000人台の水準が続いており、病気休職者が8669人になった2010年度では、精神疾患による休職者数は62%を占めているという。
人生の危機「バーンアウト」とは?
折しも、現在BSプレミアムで放映中のドラマ『この世にたやすい仕事はない』も、熱意がありながらバーンアウト、つまり燃え尽きてしまって退職した元小学校教師を主人公にしている。
ドラマは仕事に対する熱意をなくした主人公・霧中かすみ(真野恵里菜)が、不思議な職業紹介所の職員・正門(浅野温子)と出会い、いろいろな仕事を経験していくというストーリーだ。
『バーンアウト 仕事とうまくつきあうための6つの戦略』(マイケル・P・ライター/クリスチーナ・マスラック・金子書房)という本によれば、「バーンアウト」とはたんに仕事で燃え尽きてしまうというだけのことではなく、仕事とかみあっていないという慢性状態であり、人生における重大な危機になりうるという。同書はバーンアウトを次のように定義している。
●バーンアウトはエネルギーの枯渇である。
あなたはいつもストレスで消耗していて、押しつぶされそうになっている。夜はよく眠れないし、すぐにまた疲れてしまう。
●バーンアウトは熱意の喪失である。
あなたにもともとあった情熱は消え去り、消極的でしらけた態度へと変わる。そして仕事に関して様々な誤った見方をすることになる。
●バーンアウトは自信の喪失である。
エネルギーがなくなって、仕事に積極的に関わらなくなると、仕事を続ける理由が見つからなくなる。うまくやれないと感じれば感じるほど、自分の価値に疑問を持つようになる。
先日放送された『この世にたやすい仕事はない』の第4話では、主人公のかすみがおかきの外装をデザインする仕事をし、一言アドバイスを入れることで商品をヒットさせる。だが、がんばりすぎて空回りした結果、結局また仕事をやめてしまうという内容だった。
それでも、行く先々でそれなりに評価されるのもドラマならではで、現実に「燃えつきた教師」のその後は、健康を害したまま新しい仕事も見つからず、もっと厳しい生活を強いられるケースも多いだろう。
教師の仕事量を軽減させ、疲弊しない環境をつくることは、もはや教育現場において急務となっている。
(文=ヘルスプレス編集部)