NHKの2023年度決算が発表され、事業収支差金が34年ぶりに赤字となったことが注目されている。赤字額は136億円(単体)で、受信料収入が前年度より396億円減少したことが主な要因。速いペースで事業収入減が続けば赤字が定着し、NHKという組織の維持が困難になることも予想される。番組制作費の約3割をスポーツ・ドラマ・エンターテインメント・音楽などが占めており、公共放送局が多額の制作費をかけてこうした娯楽ジャンルの番組を制作することに疑問の声もあがっている。また、NHKグループのプール金とも呼ばれる連結剰余金が5113億円に上る点も一部で注目されているが、NHKの経営はどうなっていくのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
NHKの23年度決算報告によれば、受信料収入は前年度より396億円減の6328億円、受信料を含む事業収入は前年度より433億円減の6531億円で、ともに過去最大の減少幅。一方、事業支出は0.5%減で6668億円。その結果、赤字となった。受信契約件数は4107万件と前年度比37万件減。
もっとも、受信料収入の減少はNHK自身も織り込み済だ。24~26年度の中期経営計画では26年度の受信料収入が6000億円を割り込み5655億円になるとしている。これをカバーするため、コンテンツの総量削減や設備投資の大幅削減などにより27年度の経費支出を23年度比で1000億円削減し、さらに受信料外収入を拡大する計画を立てている。だが、23年度と同程度の減少幅で毎年、受信料収入が減っていけば、経費削減を上回るペースで収入減が進行して赤字を解消できないことになる。
「昨年度に受信料収入が大きく落ち込んだのは、昨年10月に約1割、受信料を値下げしたため。その影響がなくなる25年度は前年度比80億円の減少見通しとなっており、当面は毎年これくらいずつ受信料収入が減っていくと予想される。中期経営計画では26年度も収支は赤字の見通しで、赤字が続くようにみえる。ただ、赤字の補てんに使える繰越金と還元目的積立金の残高が2500億円近くあり、さらにNHKグループのプール金とも呼ばれる連結剰余金は5113億円に上る。NHKとしては『赤字を出してまで受信料の値下げに踏み切りましたよ』『経営が苦しいので必死で経費削減していますよ』というポーズを示していたほうが、国民からの批判をかわしやすく都合が良いという面もあるのでは」(全国紙記者)
広告料収入と放送の中立性
受信料外収入の拡大策として検討が進んでいるのが、広告料収入の獲得だ。総務省の有識者会議「公共放送ワーキンググループ(WG)」では5月から、国際放送で広告料収入の制度を導入する検討が進められている。現行の放送法ではNHKは企業などの広告を放送することは禁止されている。
「企業から広告出稿してもらって収入を得ることで、放送の中立性を維持することが難しくなる、もしくは視聴者から疑問を抱かれる局面が出てくる可能性はあるでしょう。放送の中立性維持と受信料徴収制度はセットで考えられるべき問題です。もし仮に中立性が損なわれた場合、法律で国民に受信料の支払いを義務化する正当性は失われるので、受信料制度そのもののあり方が問われることになります」(民放キー局社員)
NHK受信料は組織運営のための「特殊な負担金」
赤字経営が続く見通しとなり、大幅な経費削減策の一環として中期経営計画では「コンテンツの総量削減」を掲げているが、23年度決算報告の「ジャンル別番組制作費」によれば、スポーツが503億円(16.1%)、ドラマが315億円(10.1%)、エンターテインメント・音楽が226億円(7.2%)と合計で1044億円(33.4%)にも上る。スポーツ番組の制作費には国内外のスポーツ運営団体等に支払う放映権料が含まれているとみられ、たとえば大谷翔平選手(ロサンゼルス・ドジャース)がプレイする米国メジャーリーグベースボール(MLB)に支払っている放映権料は年平均約8000 万ドル(約124.6億円)に上るとの試算も公表されている(関西大学名誉教授・宮本勝浩氏「2024 年ドジャースにおける大谷選手の経済効果」より)。ちなみに民放キー局・日本テレビの21年度の番組制作費は全ジャンル合計で845億円となっており、NHKの制作費の潤沢さがうかがえる。
「公共放送局であるNHKが国民から徴収した受信料を1000億円も使ってドラマやバラエティーなど娯楽番組をつくらなければならない理由はありません。民放放送局への事実上の民業圧迫でもある。受信料収入が落ち込むので経費削減に取り組むというのなら、まずこうしたジャンルの番組制作をやめるべきでしょう。しかし、そうすると大量の余剰人員が生まれるため、そこには手を出さない。結局NHKの最優先の目的は巨大な組織の維持なので、それに反することはやらないです」
かねてからNHKは受信料について「視聴の対価」ではなく組織運営のための「特殊な負担金」であるとの見解を示している。07年に総務省の「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する検討会」で出された中間報告書にも
<受信料は視聴の有無に関わらず国民が公共放送たるNHKの業務の維持運営のための経費を負担するもの>
と記載されている。
(文=Business Journal編集部)