「このコロナ禍で、50億円かけてツタヤ図書館を建てるんですか?」
ある自治体関係者がそう言って絶句したのは、パナソニックの”企業城下町”として有名な大阪府門真市でのこと。門真市議会は昨年12月17日、2025年度に完成予定の新図書館(生涯学習複合施設)の指定管理者に、全国でレンタル店TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を選定する議案を可決した。
新型コロナウイルス感染者が激増している大阪府では、1月の死者数が347人と全国最多を記録。今後、コロナ禍でどこの自治体も危機的な財政状況に陥りそうななか、門真市は50億円もかけて複合施設を建設するという。その施設の目玉が、中身が空っぽのダミー本をうず高く飾ることで有名なCCC運営の「ツタヤ図書館」だというのだから、いったいどうなっているのだろうか。
門真市では、中心市街地にある中学校跡地と、その周辺3ヘクタールに高層マンションや商業施設を建設する再開発計画を、2009年から進めてきた。その再開発計画のなかで、賑わい創出の切り札と位置付けられているのが、図書館と市民文化センターが同居する生涯学習複合施設。ここにカフェや書店も併設して、年間100万人が訪れる賑わい拠点にする計画だ。CCCは、建物の基本設計や施設の内装からかかわって、トータルに空間プロデュースを手掛けるとされている。また、それに先立ち新館開館1年前の2024年4月から、現在の市立図書館の運営も委託されるという。
CCCが運営するツタヤ図書館といえば、昨年6月に同社運営で全面開館した和歌山県和歌山市で噴出した”出来レース疑惑”を、当サイトでは繰り返し取り上げてきた。一昨年2月、同社の基幹事業であるTSUTAYA(現蔦屋書店)が、広告内容に虚偽表現があったとして消費者庁から景品表示法違反として1億1753万円の課徴金を課せられたのも、まだ記憶に新しい。
そうしたスキャンダルまみれのCCCを、なぜ門真市は「優れた事業者」として選定したのだろうか。プロセスを詳しく追っていくと、総額47億円ともいわれる国の巨額補助金目当てに、ツタヤ図書館を建設した和歌山市と驚くほど共通項が多いことがわかった。以下、そのポイントを挙げてみよう。
和歌山市と酷似した経緯、不透明すぎる選考経緯
第一に、門真市の計画は京阪電鉄古川橋駅の再開発事業に組み込まれており、「賑わい創出」に力点が置かれていること。寂れつつある古川橋駅北口に賑わいを取り戻すために、廃校になった中学校跡地を活用しようということから始まったプロジェクトだった。
和歌山市が百貨店撤退後の南海市駅前再開発の一貫として、新市民図書館を建設移転したのとよく似た経緯である。再開発の総事業費は127億円(うち複合施設建設費は50億円)で、和歌山市の123億円とほぼ同規模。複合施設の基本構想を担当したコンサルタントについて問い合わせてみると、これも和歌山市と同じくCCCのフラッグシップ・代官山蔦屋書店を手掛けたール・アイ・エー(RIA)というから、二度びっくりした。
2012年に行われた門真市複合施設の基本構想・基本計画の立案業務の指名競争入札には2社が応札した結果、RIAが380万円で落札していたことが判明。これについて、建築業界に詳しい関係者に聞いてみると、こんな感想を漏らした。
「タダみたいな価格です。いわゆる1円入札と同じ(構造)です」
ダンピング価格で調査業務に入り込み、その後、プロジェクト全体の設計業務も受託しようというもくろみなのだろうか。和歌山市では国の補助金が47億円(うち図書館建設への補助は15億円)も投入されたが、門真市でも複合施設建設にかかわる50億円のうち4割(約20億円)を補助金でまかなう計画だという。
第二に、事業プロセスが不透明なこと。上の写真は2019年12月、門真市の福田英彦市議が市当局に開示請求して、翌年2月に開示された再開発事業の提案資料である。
「門真市旧第一中学校跡地整備活用事業」に関する提案を民間企業から「サウンディング型市場調査」という方式で募集。サウンディングとは、民間事業者との対話形式で自由な提案をしてもらう方式のこと。気楽に参加してもらえる半面、提案した企業名や詳しい提案内容は公表しなくてもよいとされており、昨年CCCによる賑わい施設を検討していた山口県宇部市でも、この方式が採用された(CCC提案を基にした施設条例は、その後の議会で否決)。
開示結果は、見ての通り約120ページのほとんどが真っ黒の”のり弁”状態。提案内容はもちろん、提案企業名も”企業秘密”扱いで不開示。2018年に和歌山市が、筆者の情報開示請求に対して、関係者会議資料1400枚の97%を黒塗りで開示してきたのと、これまたソックリだ。
すでに同地域に生涯学習施設や交流広場を整備し、その周辺に高層共同住宅や商業ゾーンを配置する基本計画は確定。その具体的な手法についての提案を覆面方式で募るという珍妙な公募で、募集期間は2週間足らず。専門チームによる検討も、たった1カ月。その結果、新図書館の指定管理者が施設の基本設計から関与していくデザインビルド方式を採用する方向が示されたという。運営者が設計段階から関与して独自の空間演出をしていく”ツタヤ図書館方式”へのレールが、この段階できれいに敷かれたかのようだ。
CCCの公共施設運営受託、なぜか毎回、選考過程が不透明
CCCを誘致した決め手は、指定管理者の選考委員の人選だった。下のリストは昨年10月30日、門真市生涯学習施設の指定管理者選考会で、応募二者のうちCCCが選定された際の審査委員の顔触れである。
5人のうち図書館の専門家は、追手門大学国際教養学部の湯浅俊彦教授しかいない。湯浅教授といえば、2013年に佐賀県武雄市でCCCが既存図書館をリニューアルして最初のツタヤ図書館をオープンしたときから、同社の図書館運営を高く評価していることで有名な人物だ。図書館界でもっとも権威のあるイベントとして知られる図書館総合展では、2012年から5年連続でCCCが運営する、公共図書館についてのディスカッションのコーディネイターを務めている。
門真市によるこのときの審査は、まちづくりに関する項目が多く、賑わい創出を得意とするCCCが有利なだけに、図書館運営の面でもCCCを高く評価する湯浅教授のような委員がいれば”鬼に金棒”だったに違いない。
かくして、応募二者のうちCCCが”もっとも優れた事業者”として選定された。ちなみに、もう一者は、全国で500館を受託して”図書館界のガリバー”であるTRC(図書館流通センター)を代表企業とするグループ(KADOMAニュー・ライフプロジェクトチーム)だった。
2017年11月に和歌山市がCCCを選定したときの一騎打ちの相手も、TRCだった。そのときの和歌山市は、CCC対TRCによる公開プレゼンまで開催。それを見た図書館関係者のほとんどが「TRCの勝ち」と予想したが、それを見事に覆すかたちでCCCが選定されたことから、極端にCCCびいきの点数をつけていた、ある審査委員の採点に疑惑の目が向けられた。のちに筆者が独自入手した資料では、選定の1年以上前にCCCが単独で市長プレゼンを予定していたり、RIAがCCCを密かに推薦していたことが判明している。そのように和歌山市では”出来レース”疑惑が今もくすぶりつづけているのだが、果たして門真市も、その二の舞いになるのだろうか。
なお、CCCがこれまでに図書館や市民センターの公共施設を受託してきた9つの自治体のうち、透明性高く公平・公正な選考プロセスを経たと認められるケースは、筆者が知る限り、ただの1件もない。
コロナ禍で市民生活の緊急課題が山積するなか、こんな市民無視の不透明なプロセスによって50億円もかけたツタヤ図書館を建設する大義は、いったいどこにあるというのだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)