毎日新聞の最新の全国世論調査(1月16日実施)で、携帯電話の回答者711人に「次の衆院選後の首相にふさわしいと思う人」の名前を1人挙げてもらったところ、1位は河野太郎行政改革担当相(12%)となった。石破茂自民党元幹事長(10%)どころか、菅義偉首相(8%)をも抑えてのトップで、河野氏がにわかに「ポスト菅」の最有力候補に躍り出たかたちだ。
もっとも、河野氏に長年目をかけてきたのは菅首相だ。講演など公の場で「将来の首相候補」と何度も明言してきた。「無駄撲滅」の行革に執着して突っ走り自民党内で煙たがられたり、核燃料サイクルに反対し「脱原発」を掲げるなどして自民党内で「奇人変人」扱いされてきた河野氏の“後ろ盾”になってきたのは菅首相だった。
政権の最重要ミッションとなった新型コロナウイルスのワクチン接種の担当大臣を河野氏に任せた際も、菅首相は起用理由に「規制改革担当大臣として、複数の役所にまたがる問題を解決してきた手腕」を挙げ、その突破力に期待を示した。
「コロナ対策の切り札として菅首相はワクチンに賭けている。だからこそ、全幅の信頼を置いている河野大臣に託した。本来ならワクチンは厚生労働省の担当だが、文書で指示するだけの通達行政しかやっていない厚労省には、省庁横断で調整する必要があるワクチン接種なんてとても無理。コロナ担当の大臣は西村康稔経済再生担当相だが、菅首相は言動が軽くて調子のいい西村氏を、まったく信用していない」(菅首相に近い自民党議員)
政権発足直後、菅首相は河野氏に目玉政策の「縦割り行政打破」を指示し、河野氏は「行革110番」や「ハンコ撲滅」に取り組んだ。その際、「菅首相は河野氏に、『進んでるか』と毎日のように連絡してハッパをかけていた」(同)という。
ワクチン接種による政権浮揚
一方、菅首相が河野氏にワクチン担当を任せたのは、河野氏を自分の「盾」として使おうとしているだけで、事実上の「河野潰し」だという冷ややかな見方もある。
「菅首相が河野氏を『将来の首相候補』と持ち上げてきたのは、世論人気が高いからで、人気者を自分の手中に収め、将来のキングメーカーを狙ってきたからにすぎない。河野氏と同様に、小泉進次郎環境相についても『将来の首相候補』と公言してきた。ワクチン接種は、医療の厚労省、保存用冷蔵庫の経産省、物流の国交省、注射針などの廃棄物を扱う環境省、自治体との連絡を担う総務省と、霞が関の主な省庁がほとんど関係する壮大な事業。各省庁の調整は、そう簡単にはいかない。河野氏は自分が試されているのをわかっているからピリピリしている」(菅首相と距離のある自民党議員)
すでに、ワクチンの供給スケジュールをめぐって、河野氏と菅首相の側近である坂井学官房副長官の発言が食い違うなど、不協和音が起きている。突破力の河野氏が、この先も軋轢を生むだろうことは想像に難くない。
「菅首相は、ワクチン接種が順調に進めば自分の手柄、失敗すれば河野氏の責任にするのだろう」(同)
これまで政府が6月までの全国民分のワクチン確保を目標としてきたのは、それが今夏の東京五輪開催の“前提条件”とみなしてきたからで、菅首相も1月7日の記者会見で、「五輪開催はワクチン接種で国民の雰囲気も変わる」と発言していた。ところが、1月21日の国会の代表質問での答弁では、ワクチン普及が五輪開催の前提ではない、との考えを示し、発言が変わってきている。
この背景を、「菅首相は五輪が中止になることを想定し、ワクチン接種による政権浮揚に舵を切ったのでは」(自民党関係者)と深読みする向きも。
菅首相が当初描いていたのは、「五輪開催のお祝いムードの延長線上で解散総選挙を行う」というシナリオだった。だが、五輪中止なら、「一般へのワクチン接種が始まり、国民の雰囲気が変わったところで解散総選挙」というシナリオになるのではないかという。
ワクチン接種が菅政権の命運を握っているのは間違いない。さて、菅首相と河野大臣のどちらが今秋笑うのか。
(文=編集部)