湯浅・陸幕長、日米共同訓練に突如不参加…“パワハラ&内向き”志向、防衛省内で問題視
「直前になって毎年恒例の日米共同訓練に不参加だなんて、陸上自衛隊はどうかしているんじゃないか」――。昨年10~11月の米陸軍との沖縄での共同訓練「オリエントシールド」に陸自が突如不参加を決めたことについて、防衛省の間では批判が相次いだという。この決定は陸自トップの湯浅悟郎陸上幕僚長(2019年4月から現職)の「ワガママ」な決定によるもので、自衛隊関係者の間でも「日米同盟にひびが入る」と衝撃が走った。
米軍と同僚幹部が嫌いで、日米共同訓練に不参加
問題となった共同訓練「オリエントシールド」は毎年、陸自が米陸軍と日本各地で実施しており、中国の脅威が高まる今、有事に備えて必要不可欠な訓練であることはいうまでもない。陸上自衛隊は訓練への不参加を決めた理由として新型コロナウイルス感染拡大防止を挙げているが、ほぼ同時期に実施された統合幕僚監部と米軍との共同訓練「キーンソード」には陸海空の自衛隊員が参加しており、感染対策を施した上であれば実施に問題はなかったとみられる。内幕についての防衛省幹部の証言。
「湯浅氏の米軍嫌い、ガイジン嫌いは有名で、オリエントシールドの不参加は米陸軍に陸自施設のある奄美大島を使わせたくなかったというのが理由です。キーンソードを主催する統幕の山崎幸二統合幕僚長とはもともとそりが合っていないため、奄美大島の使用許可を出さないことで山崎氏の手柄を減らすという意味合いもありました。そんな子供じみたワガママで、と思われるかもしれませんが、湯浅氏は今回の判断が日米同盟にどういう悪影響を及ぼすかにはまったく想像力が働かない内向きの人。実際、統幕も九州地方を統括する西部方面隊も奄美大島の使用について何も言っておらず、湯浅氏が一方的に米軍側に使用不許可を通知して混乱を招いていました」
米軍側は最終的に淡々と単独で訓練を実施し、フェイスブックで情報発信をした。本来なら日米共同でやるはずだった訓練を単独でやったことは、中国に圧力をかけるために仕方なかったとはいえ、メンツをつぶされた米軍側の怒りはすさまじかった。統幕とのキーンソードでは奄美大島の近くで日米共同の上陸訓練が実施されたこともあり、米軍内では「ユアサは意味不明で信用できない」との評価が定着しているという。
陸自トップなのに末端人事に口出し
「なんでオレに相談しないんだ! やりなおせ!」―。防衛省A棟4階では連日、このような怒号が響いているという。この声の主はもちろん、湯浅陸幕長。本来陸幕長が管轄するのは将官補以上の将官人事だが、なんと2佐以下の中堅幹部以下の人事にまで口出しし、昨年の人事シーズンには人事調整の指導で連日数時間以上、担当者を絞りぬいたという。防衛省中堅幹部の話。
「大企業の社長が、係長や課長補佐クラスの人事に口出しするようなものだと考えていただければわかりやすいと思います。湯浅陸幕長は陸幕補任課長として人事畑での勤務経験があり、中途半端に実務をかじっているので、タチが悪い。自分が担当者だった時期とは制度や部隊の状況などが著しく変化しているのに、自分の思い込みだけで判断しようとする。陸幕長は本来、実戦に備えた各種法制度の改善などを考えるのが役割なのですが、それはまったくせずに人事だけでなく、各部隊の指揮にまで介入してくる。湯浅氏に取り入るのがうまい男芸者ばかりが出世して、有能な人材ほど早く退職するか、閑職に追いやられている。精神を病む隊員も多く、悪循環が生まれています」
この男芸者の代表格が、筆者が「文春オンライン」で「陸自内のパワハラの権化」として報じた「ハカイダー」こと、運用支援訓練部長の戒田重雄陸将補だ。戒田氏は前任の第一空挺団長だった際、部下の隊員の預金やローンの状況を管理したり、恫喝したりして、退職者を出すなどの問題を起こしていた。この戒田氏、湯浅氏の大のお気に入りなのだという。別の防衛省幹部が言う。
「湯浅氏はとにかく体育会系の働き方が大好きで、長時間、根性を見せる部下には甘い。効率的に業務をこなすような人間は『サボっている』というふうな見方をするのは常で、戒田氏が以前報じられたように、『土日も含めて部下が自分より先に帰宅するのは許さない』などの悪い昭和的な働き方を肯定しています」
戒⽥⽒はパワハラが報じられた後も、部下に夜どおし仕事させ、朝6時に⾃ら指導して、湯浅⽒に朝イチで⾃分の部の案件を報告できるようにし、「担当部署の平均残業時間は100時間を超えている」(陸幕幹部)という。暴力を伴ってはいないが、部下に長時間労働を強いるという点ではパワハラであることには変わりなく、湯浅氏の監督任命責任が問われることになりそうだ。
防衛大学少林寺拳法部はパワハラ幹部養成所
湯浅氏と戒田氏は、防衛大学少林寺拳法部の出身であることも関係を近くしたが、この部はパワハラ幹部の養成所になっているのは陸自内でも有名だ。代表格は教育訓練研究本部副本部長を務める藤岡登志樹陸将補だ。藤岡氏は前任の第14旅団長(四国4県を統括)時代の昨年5月にコロナの感染拡大防止のために宴会自粛を要請されていたにもかかわらず、「問題ない」として自宅官舎宴会を開き処分されている。この処分があったことがきっかけとなり、旅団長着任からわずか8カ月経った昨年8月に現職に異動になっている。
旅団長時代も「激昂して部下にファイルを投げつけたり、罵倒したりする」「2時間正座をさせる」など藤岡氏を知る自衛隊関係者から数多くの証言が寄せられており、パワハラ幹部であることは間違いない。藤岡氏はパワハラについての処分は受けていない上、現職は陸自内では左遷とはほど遠いポスト。湯浅陸幕長など陸自幹部の情実人事が働いたというのがもっぱらの見方で、若手幹部を中心として反感を買っているという。
ハカイダーの後任は「瞬間湯沸かし器」
戒田氏の後任の第一空挺団長に就任した堺一夫陸将補も少林寺拳法部出身で、「瞬間湯沸かし器」の異名を持つ。空挺団長に就任してからは戒田氏のパワハラ報道が影響しているのか、「噂よりも普通」(現役空挺団員)との評判だ。
しかし、富士学校普通科部長だった18年5月、報告が遅れたとして当時の部下に図版を投げつけ、右手に全治一週間の怪我をさせた。その際、「俺に恥をかかせやがって、馬鹿か」「事前に資料をもらって自分で勉強していたんだぞ」などと罵倒した。この件について、防衛省から注意処分を受けるなど、かなりのパワハラ気質がある人物として知られている。
ただ、注意処分は勤務歴には残るものの直近のボーナスに影響するくらいで、人事上は事実上お咎めなし。そのため、陸自きってのエリート部隊の空挺団長に出世できたというわけだ。当時の事情に詳しい防衛省幹部の証言。
「堺氏は部下に対して『俺は将官だからそれなりのことをやってくれ』と常に言っていました。自衛隊全体に言えることなのですが、課長以下がすべて業務をこなすのが当然になっていて、幹部になると仕事をとにかくやらなくなる。この処分された件で堺氏が激高したのは、『オレに何か仕事をさせてる時点で無能だ』という一般常識からすれば相当ズレた感覚が防衛省内部で広がっている証拠なのです」
戒田氏のパワハラ報道の直後にこのような人物を空挺団長につけること自体、湯浅氏の人事に対する感覚がズレていると言わざるを得ない。
法律違反の幹部天下りを「悪くない」
湯浅陸幕長が約15万人の隊員を抱える陸自トップを務めるには問題のある人物であることはここまで詳述してきたが、先輩やOBの覚えはめでたいという。これも昭和型の体育会系的な人間関係を引きずる陸自に根強い文化だが、湯浅氏の場合、それだけではない。
昨年7月、将官級の高給幹部自衛官の再就職を違法にあっせんしたとして、防衛省が陸幕の募集・援護課の職員らを停職などの懲戒処分にした。元将官級や現役将官級の複数人の経歴を民間企業に提供していたといい、これが自衛隊法違反となった格好だ。自衛隊法では、将官級より下の佐官以下は56歳までと比較的若く定年を迎えるため、再就職のあっせんは認められているが、60歳が定年の将官級には禁じられている。
この処分が発覚した際、湯浅氏が処分を受けた職員に「君たちは悪くない」とかばったとされる。とても法律順守が前提の公務員とは思えない発言だが、「出世競争では負け組の佐官の処遇は基本的に対応しないが、自分や自分の先輩が関係する高級幹部の特権についての配慮は欠かさない」(陸自幹部)ことが湯浅氏を陸幕長にまで押し上げたことは想像に難くない。
そんな湯浅氏だが、今春の人事で引退に追い込まれる可能性があるという。現行の中期防衛力整備計画で輸送力強化のために陸自が輸送艦艇を取得することになっていたところ、「陸幕長の個人的な意向」で取得を拒否し、予算要求すらしなかったためだ。「事態を問題視した防衛省上層部からの責任追及が本格化する前に引退して幕引きを図る魂胆だ。遅くとも夏の人事までに結論が出るだろう」(同省幹部)。今後の湯浅氏の去就に注目が集まりそうだ。
軍隊は国を象徴する。組織全体をよくする戦略を持たず、組織内の優劣に固執する内向きな湯浅氏の姿勢は、陸自、防衛省にとどまらず、多くの企業など日本社会に蔓延している。この連載では自衛隊が抱える問題を通し、日本の組織の課題に光を当てる。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)