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交通事故で保険会社「10対0」認定→積荷が高額と判明すると撤回…あり得る?

文=Business Journal編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士
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「Getty Images」より

 自動車同士の交通事故で、一方が横転。ぶつけた側の保険会社担当者が、過失割合を「10対0」と認定し、いざ書面を交わそうとしたタイミングで、横転したクルマの積荷が高額であることがわかると、弁護士を挟んで再交渉。10割の負担を避けようとしているとして、SNS上で関心を集めている。保険会社側の対応を非難する声や、被害者側を応援する声であふれているが、一度認定した過失割合を保険会社がひっくり返すようなことは、よくあるのだろうか。弁護士に話を聞いた。

 X上に10月17日、衝撃的な写真が投稿された。それは軽トラックが横転している様子が写されており、「ブツケられて横転しました。 やっと病院出れそうです 最悪だぁ~」とのつぶやきも添えられている。投稿主はバイクショップのオーナーで、当日納品予定だったバイクを載せていたが、それも壊れたという。

「皆さんお気遣い有り難うございます 身体の方は骨折無く全身打撲で済みました。シートベルト様様です仲間の積車に積んで店に戻ります。両車輌とも全損です。ショックなのは今日納車予定のCBXですオーナーさんすいません」

 大きなケガがなかったのは不幸中の幸いなのかもしれないが、商品であるバイクが全損となったため、お客に迷惑をかけることになったと報告している。このバイクが事態を大きく変えることになったようだ。翌日、以下のように投稿している。

「今回の横転事故、10対0で決まり変えたりしませんと担当者行ってましたが、積載していた車両が高額だと分かったらいきなり弁護士さん入れて連絡してきました。10対0は撤回しますだって保険金支払額下げるのが見え見えだょ めっちゃ体痛いのに散々だぁ~ 支払い渋い某保険屋さん」

 報告によると、事故の過失割合を「10対0」と認定していた保険会社の担当者が、急遽、前言撤回。弁護士を通して過失割合を見直すと通告してきたという。この報告を受け、SNS上は保険会社の対応を非難する声が続出。わずか数日の間にこの投稿は200万回以上表示されるほど拡散され、投稿主を応援するリプライも殺到している。

過失割合「10対0」を勝ち取るのは極めて困難

 CBXは、本田技研工業(ホンダ)がかつて製造・販売していたシリーズで、現在は生産されていない。特に今回、事故にあったバイクは「CBX1000」とのことで、シリーズの元祖といえるタイプ。製造されていたのは1978~1982年と古く、状態の良い車両は少ない。投稿主によると、車体やカスタム費用等を合わせて100万円と超えるという。この金額を知って、保険会社が“払い渋り”をしたようだ。だが、一度は10割の過失を認定しながら、ひっくり返すという対応は、あまりにも不誠実すぎないか。自動車事故の保険交渉では、よくあることなのだろうか。山岸純法律事務所の山岸純弁護士に聞いた。

「事故の状況がわからないので何とも言えませんが、そもそも、事故の態様が10:0ではなかった可能性もあるのではないでしょうか。実は、これまで(初めて日本国内に自動車が走ってから)交通事故は数千万件起きているのですが、ひとつひとつ、過失割合を議論していたらきりがないので、これまでの裁判例をまとめて『この事故の態様だったら、だいたい何対何』という過失割合をまとめた資料があります。

 我々、弁護士は、この資料を見て過失割合を考えるのですが、基本態様が10:0となるのは『停車時に後ろから衝突された場合』くらいで、そんなに例はありません。とすると、保険会社の人が、ぱっとみて『10:0』と言ったけど、後から資料を見てみたら(顧問弁護士に突っ込まれて)そうではなかったという可能性もあります」(山岸弁護士)

 つまり、少しでも自動車が動いている限り、過失割合が「10対0」になることは、ほとんどないわけだ。では、仮に保険会社の担当者が「10対0として支払う」と認定した際の交渉を録画もしくは録音していたら、それを根拠として10割分の支払いを求めることは可能だろうか。

「その場で、(担当者が)『こう言っていた』は何の役にもたたないし、実は、会話を録音してもあまり有利にはなりません(日本ではありませんが、アメリカのある州では、“事故の現場で謝ってもそれは不利にならない”という法律があるくらいです)。大切なのは、過失割合を証明するための『事故時の録画』、これだけです。

 10:0にするのは、なかなか難しいでしょう。そうであれば、弁護士に相談して休業損害などをしっかりと計算し、もともとの損害額を大きくするのが肝要です」(同)

 今回のケースで、一度は保険会社が「10対0」を認めたとしても、実際に全額を支払ってもらうのは極めて困難との見通しだ。自動車とバイクの損害額に加え、治療費や慰謝料のほか、休業補償などを最大限計上し、少しでも多く補償してもらうしかないのかもしれない。なお、バイクファンから大人気の旧車で、高額なプレミア価値が付いていたとしても、保険会社は往々にしてプレミア価値を無視して車体価格を「0円」と算定することがよくある。交渉する際には、被害を受けた側も弁護士を立てることが不可欠といえるだろう。

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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