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氷河期世代「1700万人」の絶望、データが立証…いまだ無業者、普通の生活が困難

取材・文=A4studio、協力=曽和利光/人材研究所代表
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「gettyimages」より

 1990~2000年代にかけて高校、大学を卒業した人々は、当時バブル崩壊の影響で企業が採用数を大幅に縮小させたことにより、就職が困難な世代となった。氷河期世代と呼ばれる彼らの人口は約1700万人にも及び、正規雇用で働く機会が失われた人は少なくなった。いまだに非正規雇用で働いている割合も高く、引きこもりや自殺者の増加にもつながっていると指摘されるなど、社会問題となっている。政府は20~22年の3年間で氷河期世代の正社員数を30万に増やす目標を掲げていたが、新型コロナウイルスの影響もあり、実際には3万人増という結果に終わっている。

 経済悪化のツケを押し付けられた氷河期世代の悲劇は、雇用面にとどまらない。安定した雇用ではない状況下だと、結婚や出産、マイホームを持つなど、高度成長期やバブル期に当たり前とされていた人生設計は叶わないものとなる。それまでの時代の「普通」が叶わないとなると、その上の世代、とりわけ親の理解が得られない。そんな氷河期世代の声を代弁するようなツイートが6月にTwitterに投稿され、一部で反響を呼んだ。

<氷河期世代にとっては、政府の支援が薄かったことより親世代の無理解の方がきつかったんじゃないかな 高度経済成長時代には、社会人として「一人前」とされた規範(正社員、結婚して子供、家を建てる、親より金かせいで親孝行等々)に手が届かないダメ人間扱いされるのがいちばん応える>

 続けて、このツイートの投稿主は、「そこそこの収入」「社会的尊厳」「幸福感」のうち政府が保障できるのは「そこそこの収入」のみと指摘。社会的尊厳や幸福感は失われたままであり、かつ氷河期世代の苦しみは他世代に理解されないという文意が読み取れる。氷河期世代は今もなお見捨てられた世代なのか。就活や人事に詳しい株式会社人材研究所代表の曽和利光氏に話を聞いた。

コロナ禍よりひどい…データで見る氷河期世代

「氷河期世代の不遇さは、データからもはっきりと読み取ることができます。たとえば、今年5月の内閣官房の発表によれば、不本意非正規雇用労働者、つまり正社員になれなかった非正規労働者の人口は2022年に39万人も存在しているんです。また引きこもりやニートと呼ばれる無業者の人口も42万人と少なくありません。昔に比べて現在は社会保険料、税金の負担額も増していますし、非正規雇用者の生活はさらに圧迫されているといえます」(曽和氏)

 1990年代以降、消費税率は3%から10%に引き上げとなり、国民年金保険料、健康保険料率、厚生年金保険料率も徐々に引き上げられている。支出は目に見えて増えており、生活はさらに苦しいものになっている。曽和氏によると、氷河期世代の悲惨さは他世代と比較すると捉えやすくなるとのこと。

「たとえばバブル世代の平均在職期間は、10年から20年ほどといわれておりますが、氷河期世代はそれよりも短期化しています。また大企業の採用枠も氷河期世代は冷遇されています。私も1971年生まれで氷河期初期世代なのですが、当時私が入社したリクルートの採用数はわずか50人。対して、バブル期には1000人近くも採用しており、雲泥の差です。当時はコストカットが叫ばれていた時代ですから、当然新卒ひとり当たりにかける人材コストは大幅に削減されましたし、採用数も少なかったことから退職金制度がなくなることも珍しくありませんでした。

 就職氷河期は有効求人倍率が1.0倍未満(パートタイムを含む、以下同)になることも多く、就職できれば御の字という時代。不景気で企業が採用枠を絞ったことに加え、氷河期世代初期は団塊ジュニア世代と重なるため人口も多く、自ずと非正規率は上がりました。コロナ禍の影響で酷かった2020年の有効求人倍率でさえ1.18倍だったことを考えると、どれだけ貧乏くじを引かされた世代だったかがおわかりになるでしょう」(同)

「孫の顔も見れない」、親の無理解という苦痛

 普通が叶わなかった氷河期世代。曽和氏は、氷河期世代の親世代にあたる高度成長期の状況について、次のように語る。

「高度成長期はとにかく人手が足りない時代でして、有効求人倍率も高く、成長期末期の1973年にはパートタイムを除くと1.76倍にまで上りました。つまり人材が希少価値になるので、給料も上がりやすいですし、役職などのポジションも得やすかったのです。それを象徴するかのように、高度成長期には部下を持たない名ばかりの役職が量産され、給与面でもキャリア面でも優遇されていました。

 したがって、高度成長期を経験した世代からすると、氷河期世代のそもそも就職できない、人材として重宝されない、昇進できないといったといった現実は、感覚的に理解しがたい現象だったのではないでしょうか。また不景気であることが重なり、バブル期に見られた数億円規模の大きい仕事が受注できなくなり、成果を出しづらくなった環境に変貌したこともさらにギャップを増大させた要因でしょう。

 そして就職氷河期の影響は、雇用のみならず、結婚やマイホームといった従来常識とされていた人生設計の部分まで波及します。氷河期世代は、就職も満足にいかなかった世代なので、当然未婚率も高くなりました。一昔前は『いつ頃結婚するんだ』『孫の顔を見せてくれ』としつこく聞かれることも少なくなく、精神的につらい思いをした人も多くいたはず」(同)

死ぬまで働かされる? 恐るべき未来予想図

 氷河期世代の不幸はまだ終わらないという。

「氷河期世代の登場後に現れたミレニアル世代、Z世代は、デジタルネイティブ世代となるので、生まれたときからIT機器を扱うことが当たり前だった世代です。氷河期世代はここでも取り残されておりまして、深刻なデジタルデバイド(情報通信技術格差)が起きてしまいました。ミレニアル世代、Z世代は、ITイノベーションの波に乗り、若くして起業した方が多かったのですが、残念ながら氷河期世代からは、そのような人材はいまいち現れていないという印象です。

 重ねて申し上げれば、ミレニアム世代以降は、若者の人口が減少し始めた時代になります。したがって人材の希少化が進み、高度成長期のように人材重宝の時代となりました。就活も売り手市場になり、就職率も徐々に回復したので、やはり氷河期世代だけがガランと取り残される形になってしまったのです」(同)

 氷河期世代を「スキップされた世代」と言い表す曽和氏。70年代前半生まれの人ならば現在アラフィフだが、安心して老後も迎えられないそうだ。

「これからの時代は人手不足がさらに深刻化し、若者だけではなく、外国人人材を登用しようと政府は考えていますが、即座に問題が解消されることはありません。そこで白羽の矢が立ったのが、氷河期世代です。彼らは30代後半から50代前半となっており、まだまだ労働人口として数えられる年代なので、政府は最後の労働者マーケットとして捉えているのです。政府が必死に氷河期世代の雇用促進やリスキリング(新しく知識やスキルを学び直すこと)を強く求めるのはそのためでしょう。

 しかも、氷河期世代の定年はさらに引き上げられ、年金給付時期も遅くなる可能性も否めません。死ぬ寸前まで働かせられる、というのは大げさですが、ハッピーリタイアなんて夢のまた夢という人が非常に多くなるでしょう。少なくともそれ以前の世代よりは働くことを求められるようになると思います。このように現状から、氷河期世代は最初から最後まで見捨てられた世代になる、本当の意味でのロストジェネレーションとなる可能性があると言えるのです」(同)

 氷河期世代に本当の意味で安心が訪れる日は来るのだろうか。

曽和利光/人材研究所代表

曽和利光/人材研究所代表

京都大学教育学部教育心理学科卒。新卒でリクルートに入社、2009年まで人事や人事コンサルティングを行う。人事GMとして、最終面接や人事担当者トレーニングなども担当。その後、ライフネット生命などのベンチャー企業の人事責任者を経て、現職。現在は、日系大手から外資、ベンチャー、中小企業様に至るまで、様々な会社の、人事や採用に関するコンサルティング、トレーニング、アウトソーシングの事業を推進中。
日本採用力検定協会理事/日本ビジネス心理学会理事/情報経営イノベーション専門職大学客員教授
株式会社人材研究所

Twitter:@toshimitsu_sowa

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