急速に拡大する市場に落とし穴はつきものだが、介護市場における被害者は従事するヘルパーばかりとは限らない。膨張するヘルパー人口ゆえに、なかには手癖の悪いヘルパーも数多く紛れ込んできているという。
今回紹介するのは、振り込め詐欺よりも巧妙な「略奪ヘルパー」に食い物にされた、ある老婦人の悲劇である。
東京文京区・西片の閑静な住宅街で“事件”は起きた。古い家に老婦人Aさんが一人暮らしをしていたが、もともと互いの生活に干渉しない屋敷町ゆえに異変が起きても長い間気づく者はいなかった。
長らくAさんの姿は見かけないが、朝昼晩と頻繁に出入りする中年の女性がいたため、隣家の女性Bさんが「最近、Aさん見かけませんね」と声をかけると、「私はヘルパーです。Aさんは入院しています」と答えた。気になったBさんが教えてもらった病院を訪ねると、拘束帯でベッドに縛られ、動けなくされたAさんの姿があった。
AさんはBさんに「助けて。こんなにされちゃって動けないのよ」と懇願した。Bさんは病院に掛け合ったが、「認知症なので徘徊されないように固定している」と説明され、血縁関係もないBさんにはなすすべもなく、いったん引き下がった。
●腰の重い役所
それにしても、Aさんが入院しているにもかかわらず、ヘルパーと称する女性だけが屋敷に入り浸る様子に違和感を持ち、Bさんは区役所に相談したが、やはり親類縁者でないとの理由で役所は「動けない」と門前払いを受けた。
Bさんは引き続き屋敷の様子を観察していると、ヘルパーは入院しているAさんを見舞いに通う気配もなく、主不在の屋敷に毎日出入りを繰り返す。あまりの不審さにBさんは再び役所に掛け合い、民生委員が訪問することになった。
「民生委員も家の中にまで踏み込む権限はなく、出てきたヘルパーに玄関で追い返されてしまったのですが、家の中をのぞくと家財道具などはほとんど見当たらず、食べ尽くしたデパートの惣菜パックが山積みされゴミ屋敷と化していたようでした。当のヘルパーは介護保険事業を行う民間企業などから派遣されているのではなく、個人で頼む“お手伝いさん”のような立場で『Aさん本人と契約をしている』と言い張っていました」(Bさん)