佐野研二郎氏がデザインした2020年東京五輪の公式エンブレムが、ベルギーにある劇場のロゴに酷似している疑惑が最初に報じられたのが7月29日。第一報から1カ月が経過し、今月1日には大会組織委員会が同エンブレムの撤回を決定した。
実は本事件は、日本の著作権に対する認識が世界から大いに遅れて孤立状態であることをグローバルに晒してしまった。
東京五輪における国内スポンサー企業は21社。そのうち13社は、8月末時点で自社HPやテレビCMなどでエンブレムを使用していた。しかし、トヨタ自動車、ブリヂストン、パナソニックなどは、最高位のスポンサー権を持ちながらエンブレムを使用していない。
その理由は、「著作権の怖さ」を理解していたためであろう。日本とは異なり海外は、著作権保護に関して極めて厳しい。もしうっかり著作権侵害を犯してしまえば、過去の使用分にまでさかのぼって損害賠償を取られてしまうのがグローバルスタンダードである。
今回模倣が指摘された件で、組織委や有識者と呼ばれる人物たちの対応は、国際的にみて最悪だった。模倣元とされているベルギーの王立劇場をバカにしたととらえられても仕方ないし、そうなれば海外の報道もベルギーに味方することだろう。
大会組織委は当初、次のような見解を示していた。
「(ベルギー側が)自らの主張を対外発信し続けたうえ、われわれの詳細な説明に耳を傾けようとせず、提訴する道を選んだ態度は受け入れがたい。われわれが権利を一切侵していないとする立場に変わりはない」
ベルギー側は「侵害を認めるまで裁判をやる」といっている。国際的には「似てれば侵害」であり、故意か偶然かは関係ない。大会組織委は事態の重大さをまったく理解できていないといえよう。
著作権とは
本件は「商標権」や「著作権」への理解を深める上で極めて興味深い出来事だが、まず簡単に事件の経緯を整理してみよう。
(1)ベルギーの劇場ロゴのデザイナー、オリビエ・ドビ氏が「東京五輪のエンブレムは盗用だ」として、IOCを提訴。提訴相手はあくまでIOCであり、東京五輪の組織委や佐野氏ではない。
(2)IOCは「劇場のロゴは商標登録されておらず、問題はない」と主張。
(3)ドビ氏は「劇場は文化施設であって、商業施設ではない。従って商標登録の必要もなく、登録は行っていなかった」「商標権ではなく、著作権侵害を訴える」と主張。
ちなみに商標権も著作権も共に知的財産権のひとつだが、成り立ちは少々異なる。