東京・中野区のシンボルだった「中野サンプラザ」の跡地に建設予定の超高層ビルについて、工事費が900億円以上増加する見込みで、今年度中に着工して2029年度中に完成としていたが、いずれも困難になっていると報じられている。今後、中野サンプラザや中野駅前の再開発事業はどうなるのか。中野区に聞いた。
中野区は2021年、中野区役所および中野サンプラザを含むJR中野駅新北口駅前エリアの拠点施設を整備する「NAKANOサンプラザシティ計画」を発表。野村不動産を代表事業者とし、収容人員最大7000人の大ホールやホテルを含む棟と、オフィスやマンション、商業施設を含む地上61階、高さ約250メートルの高層ビルで構成され、中野駅とデッキでつなぎ、周辺地区の回遊性を高める狙いがある。
区は当初、この再開発の事業費を1810億円と見込んでいたが、今年1月の時点で2639億円へと見直されていたが、9月に代表事業者である野村不動産から人件費や原料費の高騰を理由として、「工事費が900億円以上増える」と伝えられたという。工事を請け負う清水建設が野村不動産に増額した見積もりを出し、野村不動産から区へその旨を連絡しつつ、今年度中の着工についても困難との見方を示した。着工も完成も見通しが立たなくなり、事業自体を根本から見直さなければならなくなる可能性もある。
中野区も対応に苦慮
そこで、NAKANOサンプラザシティ計画を担当する、中野区まちづくり推進部 中野駅周辺まちづくり課に話を聞いた。
――工事費が900億円以上増えるとのことで、今後の見通しはまったくの白紙なのでしょうか。
「9月中旬に工事費が900億円超上振れるとの話が来たので、今後のことは検討中です」
――当面は工事を中止し、計画自体が保留という状況になるのでしょうか。
「当初、今年度中に(中野サンプラザの)解体に着手し、事業が始まる予定でしたが、新たな予算の見積もりを受けて、施工予定者の野村不動産グループから、今年度には着手できないという連絡をもらったところです。そのため、現時点で決まっているのは、今年度中は事業をスタートできないということだけです」
――東京都の事業認可申請は降りていないという段階なのでしょうか。
「そうですね」
――一部の専門家からは、当初の見積もり自体が安かったとの声もありますが、いかがでしょうか。
「これは民間事業の再開発ですので、施工予定者のグループが実現可能な資金計画と判断したものと認識しています」
――現在の建築資材の高騰やエネルギー問題、人件費などを勘案してみると、工事費が下がる見込みがないなかで、企画自体を練り直しとなる可能性が高いのでしょうか。
「そこについても野村不動産に聞いているところなのですが、そもそも新たに出てきた見積額も検証しなければならず、全額が現在の事業計画に上乗せされるものとも考えていません。野村不動産としては、従来の計画と現状での見積額に大きな乖離があるので、企画を見直さないと、このままでは計画を進められない、との見解のようです」
――今年4月に区役所の新庁舎が完成しましたが、その際の借入金についても、転出保証金として400億円を見込んでいたわけで、返済計画に誤算が生じるのではないでしょうか。
「確かに、再開発に着手し、中野区が地権者でもあるので転出保証金400億円を権利返還をしてもらい、それを新庁舎の整備費用に工面していくという計画であったので、それが今年度に入ってこないということであれば、それについての対応は今後、区として考えていかなければなりません」
中野区は、中野サンプラザに隣接する土地にあった区役所を移転させ、新庁舎を建設。今年4月から新庁舎の落成式を行った。計画では、旧庁舎跡地と、中野サンプラザの跡地を含めてNAKANOサンプラザシティ(仮称)とする予定。旧庁舎の土地の地権者である中野区は、転出保証金を受け取る権利を保有しており、NAKANOサンプラザシティが完成した際に、事業者が販売するマンションなどの代金から400億円を受け取り、新庁舎整備費用に充てる算段だ。だが、NAKANOサンプラザシティ計画が進まなくなると、新庁舎の建築費はどこから調達するのか。返済を延ばすとしても、延滞金等が発生する可能性はある。
計画の見直しは簡単ではない。
(文=Business Journal編集部)