自衛隊、基地で幹部が高須院長をVIP級接待…原資は税金、動員される自衛官から批判も
「単なる一民間人にすぎない、高須クリニックの高須克弥院長の自衛隊訪問が超VIP待遇でおかしい」――。筆者に情報提供したある自衛隊関係者はこう憤る。
高須院長といえば、論客として国防や自衛隊に関する発言をすることで有名だ。具体的にどのような待遇を受けているのだろうか。提供された資料に沿って話を進めよう。
資料によると、昨年7月25日に神奈川県の海上自衛隊厚木航空基地で、高須院長、高須クリニックの秘書と看護師、それに高須克弥記念財団理事長で作家の西原理恵子氏が参加した。
午前10時に基地のターミナルに集合し、海上自衛隊の航空部隊ナンバー2の空団幕僚長らが出迎え、自衛隊機に搭乗する前に必要な説明を受けた。その後10時45分にVIP専用の搭乗口から空団幕僚長らが見送り、海自航空機に搭乗。11時15分から20分間、江ノ島、初島、小田原を周遊した後、11時45分に基地に到着した。その後、高須氏らにおしぼりが出された後、昼食のカレーのために食堂に移動し、空団幕僚長らがVIPルームで接待した。
午後には高須院長は再びターミナルに移動し、高校生が参加するサマースクールの入校式を見学し訓示した。その後、整備隊の研修などに参加し、自衛隊員の前でお立ち台に上った高須院長がさらに激励。15時の見送りの際には、空団幕僚長など幹部はもちろん、なんと海上自衛隊トップの海上幕僚長夫人がわざわざ列席した。先の自衛隊関係者はこう解説する。
「このレベルの実施要領は超VIPレベルで、国際水準だと政府高官以上のレベルです。海上自衛隊空団幕僚長という最高幹部の一人に加え、厚木基地幹部が総動員されている。隊員を数千、数万単位で勧誘してくるならまだしも、ただファンというだけで自衛隊に実質的な貢献をしていない高須院長をもてなすのはバランス的に明らかにおかしい。この日の訪問だけでなく、高須院長は陸海空のすべての自衛隊の全国の基地に頻繁に訪問しており、単なる観光でありえないVIP待遇を受けています」(先の自衛隊関係者)
この訪問に限っても、高須氏のために航空機を飛ばし、わざわざ隊員に整備もさせている上、サマースクールに参加する高校生相手に訓示させるとは民間人に対する対応としては明らかに度が過ぎているといわざるを得ない。当たり前だが、この原資はすべて税金である。
高須氏は今年4月の入隊式で激励のメッセージを寄せており、自衛隊を「間違いなく世界一優秀な組織」で「我が国の誇り」と持ち上げている。前出とは別の自衛隊関係者によると、この激励のメッセージに対して「感謝のメッセージ」を書くように指示されたという。
さらに、9月には愛知県の陸上自衛隊守山駐屯地の第10音楽隊が高須氏の目の前で高須クリニックのテーマを演奏するという「おもてなし」まで行っているから驚きだ。なお、ツイッターで調べるだけでも、統合幕僚長や陸上自衛隊中部方面総監など幹部への訪問が目立ち、密接な関係を築いていることがうかがえるが、著名人とはいえ単なる民間人への扱いとしてはやはり過剰といわざるを得ない。
自衛隊を取り巻く「認められたい病」
高須氏に限らず、評論家の櫻井よし子氏、竹田恒泰氏など自衛隊の“著名人”への厚遇ぶりは際立っている。自衛隊内部からは、この件について筆者に抗議のメッセージが相次いでおり、「VIP扱いするのだったら、地元の子供や家族を航空機や護衛艦に乗せてあげたほうがいい」「明らかに時間と税金のムダ」などとする厳しい声が寄せられた。防衛省のある幹部はこう明かす。
「自衛隊には保守派の言論人だけでなく、各種協力団体の有力者が我が物顔でのさばっているのが現実です。地方の師団の記念行事に東京から来た協力者の女性は、スナックのママでしたが、やたらと態度デカかった。自衛官のほうも自衛官のほうで、媚びへつらうもんだから、ますます増長させてしまう構造があります。
基本的に自衛隊はこれまで日の目を見る機会が少なかったため、一般人でもVIP扱いは当たり前。少しでも有名になると日常業務を放り出して超VIP待遇に走るという『誰かに認められたい病』の症状ですね。特に高須院長のように、河野太郎前防衛相とつながりの深い著名人は余計です。このようなこびへつらうイベントに付き合わされるたびに若手を中心とした自衛官の士気が落ち、離職につながっているのは誠に残念です」
このように自衛隊から税金を使った接待を受ける“著名人”の見識はもちろんとして、自衛隊も身内のアラを改善しないまま、外面をよくするために著名人の接待に精を出すのは本末転倒だろう。
高須氏は先に書いた入隊式での挨拶で、地震など災害や豚コレラ、新型コロナウイルスへの対応などに対する自衛隊の貢献ぶりについて激賞している。しかし、筆者は豚コレラについて慣れない任務でメンタルを病む隊員がいることや、無茶苦茶なパワハラで多くのエリート部隊員を退職に追いやってきた「ハカイダー」の存在、自衛隊を鯨肉の処分先として考える自民党議員の存在について書いてきた。現在の防衛省幹部にとって、今の「便利屋としての自衛隊」を手放しで肯定してくれる著名人の存在はさぞありがたいことだろう。
筆者は繰り返し書いてきたが、自衛隊の本当の問題は「なんのための集団かわからない」という目的意識の欠如にある。高須氏のような著名人に依存して自己肯定してもらっている限り、高須氏が入隊式で話しているような「軍人は海外では尊敬されている」というような状況にはなりそうもない。
防衛省は今回取り上げた昨年の厚木基地訪問について、当サイトの取材に対して「事実関係を確認の上、回答させていただきます」としている。また、高須クリニックの広報担当者は「本人(編註:高須克弥氏)に確認します」としている。回答があり次第、追って追記する。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)