この元幹部とはすでに定年退官しているA元陸将(仮名)だが、なぜロシアのスパイ容疑がかけられているのだろうか。公安記者は語る。
「A氏は退職後、ロシア軍情報機関の大佐と都内のホテルで面談し、陸自の内部資料を手渡していたところを、警視庁外事1課のスパイハンターに目撃されたようです」
ホテルで堂々とスパイと面談するとは、随分と間の抜けた話に思える。スパイ同士の連絡は通常、すれ違った瞬間に情報を手渡す「フラッシュコンタクト」、秘密の連絡場所に情報を隠して後からそれを取り出す「デッドコンタクト」が用いられ、現在ではこれらにeメールやレンタルサーバーも加わり、どんどん目立たなくなっているからだ。
「防衛省サイドとしては、『手渡した資料は基地の売店で誰でも購入できるもので機密性はない。かつ白昼堂々と手渡しているのだから、スパイではなく単なる社交的な関係』と主張しているようです。一方の警視庁は、『スパイは誰でも入手できる情報を要求し、次第に要求を高めていく。A氏もこのようなかたちで狙われていた』との姿勢を崩していません」(同)
別の政治記者は、「地盤沈下の警察庁が安倍政権で力をつけてきた防衛省を攻撃しているだけ」という見方を示す。
「安倍首相は4月、首相や官房長官に直結する次官級ポストである官房副長官補佐官の安全保障担当に、初めて自衛官を起用する方針を固めました。これは警察庁と防衛省から任用されることになっていたものの、防衛省が独占していたポストです。これによって、これまで防衛省の“背広組”が持っていた官房副長官補のポストが自衛官にかわるため、背広組のための新たなポストとして国家安全保障局(NSC)局長が用意されるという話があります。NSC設置のポスト争いで外務省・防衛省に完敗した警察庁の地盤沈下は、これでさらに加速するでしょう。そんな背景もあって、安保法制審議が佳境を迎えた今、元大物自衛官を逮捕することで、“自衛官はワキが甘い”ということを官邸にアピールしたいのではないでしょうか」
いずれにしても、もし警視庁がA氏を逮捕すれば、安倍政権の足元を揺らがせる事態になることは間違いないだろう。
(文=編集部)