北海道鹿追町の陸上自衛隊然別(しかりべつ)演習場で5月23日に行われた訓練で、誤って実弾を撃ち、隊員2名が軽傷を負う事故があった。陸上自衛隊の発表では、本来は空包を用いる訓練だったが、実弾が配られていたため事故が起こったという。だが、空包と実弾を見間違えることは「絶対にありえない」(陸上自衛官)ことであり、陸自が事故の真相を隠蔽しているのではないかとの疑いが持たれた。
26日になって岩田清文陸上幕僚長は記者会見で、事故のそもそもの原因は部隊の弾薬陸曹が実弾と空包を間違えて補給所に請求したことだと説明したが、現場関係者に取材をしていくと、浮かび上がってきたのはあまりにも平和ボケした自衛隊の実情だった。
陸上自衛官は、事故の原因についてこう語る。
「事故の原因は陸幕長が発表した通りです。本来なら弾薬受領の際にも弾薬陸曹と補給所の弾薬係がお互いに『5.56ミリ空包、◯発』と確認しなければならないのですが、それも行われていませんでした。
その上、弾薬を受領した部隊は、本来は演習場や射場で弾を配布するという規則に違反して、演習場ではなく駐屯地で弾薬を配ってしまった。さらに悪いことに、弾薬を弾倉に詰める際、ぺちゃくちゃと雑談しながら装填したため、弾が実弾であることに誰も気づかなかったのです」
街中で実弾を持ち歩き
いくら空包と実弾を間違えて請求したことが原因だとはいえ、空包と実弾の写真を見れば、素人でもその見分けはつく。訓練に参加した30人余りの隊員が誰も弾種が違うことに気づかないとは、にわかに信じられない。
「誰も気づかなかったなど、信じられません。ただ、小銃弾は実弾も空包も雷管側を上にして箱詰められているので、上司の弾薬陸曹から『空包だ』と言って渡されて、先入観から疑問を持たなかったのかもしれません。
また、陸自の部隊では空包を使った訓練をしょっちゅうやっているので、実弾射撃と異なり、空包射撃についてはほとんど緊張感がありません。実弾射撃なら、射場で弾薬係、射撃幹部の立会いの下で弾倉に弾を込め、打ち終われば撃ち殻薬莢もすべて回収します。薬莢1発でも、数百人体制で見つかるまで探します。しかし、空包射撃ではそんなピリピリしたムードは一切ありません」(同)