日本は法治国家ですから、違法行為は取り締まりの対象となります。本稿では沖縄で長年続く辺野古基地移設をめぐる反対運動の問題点を指摘します。まずその基礎となる法律と、日本の公安警察の現状から説明していきます。
刑事事件とはなにか
法律には雑駁に分けて刑事と民事があります。民事は倫理的規則のようなもので「~は〇〇してはならない」というような書かれ方をしています。「民法」や「商法」がこれにあたります。
刑事は「~に反した場合は懲役3年以上、5年以下と処す」というふうに違法行為に対しての罰則が定められているものの事で、警察で取り締まるのはこの刑事事件で、民事は民事不介入の原則により警察職務外となります。
「刑法」の他「商標法」「大麻取締法」「犯罪収益防止法」のような『特別法』がこれの対象になります。
違法行為がその面前で行われた場合に、被疑者確保のために行われるのが現行犯逮捕で、これは司法警察員(警察官、労働基準監督官、麻薬取締官など)以外の私人でも行う事ができます。
職務質問による任意同行や自首など違法行為を立証するだけの証拠が司法警察員の前で認められた場合、その場で裁判所に逮捕状を請求し発行後に逮捕するのが緊急逮捕。告発や捜査により被疑者たる証拠を集め、逮捕状を請求発行後に被疑者確保に向かい逮捕するのが通常逮捕です。
司法警察員は逮捕後48時間以内に被疑者を犯罪証拠を揃え検察官送致しなければなりません。
送致を受けた検察ではその後24時間以内に被疑者の起訴・釈放を決めなければならないのですが、事実上それでは捜査不可能であることから裁判所に「勾留請求」を行います。勾留とは、捜査機関が被疑者を長期間にわたって拘束し、事件の取り調べを続けるもので期限は10日間、さらに10日間の延長を行うことができます。
この間は警察署の留置場にて勾留され警察や検察からの取り調べをし「自白証拠」を揃え、検察官はその勾留期間中に起訴、不起訴釈放を決定します。
起訴をされると身分は被疑者から被告人となり身柄は拘置所に移監されます(代用監獄として、留置場に勾留される場合もあり)。
そして、公判で裁判官から有罪判決を受けると判決後14日以内に控訴するかどうかを決め、手続きをしなければ14日後に刑が執行され、身分は受刑者になり、身柄は刑務所に移送されます。
警視庁所轄署の場合、被疑者逮捕後、取り調べは捜査1係(強行犯)、捜査2係(知能犯)、捜査3係(盗犯)、組織犯罪対策総務係(マネーロンダリング)、組対1係(不法滞在)、組対2係(国際犯)、組対3係(暴排、情報)、組対4係(暴力団)、組対5係(銃器・薬物)などによって行われます。
県警本部長ですら知らない“公安ゼロ”の作戦
こうした刑事警察以外に交通犯罪を取り締まる交通警察、機動隊や要人警護(SP)、特殊急襲部隊(SAT)などの警備警察の他、国家体制を脅かす事案に対応する公安警察などが存在します。
警察組織は都道府県に属し予算も都道府県に頼っていますが、その運営や活動の殆どを地方自治法ではなく警察法で規定され、法律上も慣行上も国家機関である警察庁が大きな権限を保持し、警察活動の全般に亘って数多くの通達を発して都道府県警察を指揮監督し、さらに個別事案についても強固な「調整機能」を発揮しています。
日本における公安警察とは警察庁と都道府県警察の公安部門を指す俗称で、正式には警備警察の一部門です。
国外的には外国政府による対日工作、国際テロリズム。国内的には、極左暴力集団、朝鮮総連、日本共産党、社会主義協会、学生運動、市民活動、新宗教団体、右翼団体などを対象に捜査・情報収集を行い、法令違反があれば事件化して違反者を逮捕することもあります。
さらに、同僚の公安警察官、一般政党、中央省庁、自衛隊、大手メディアなども情報収集の対象になっています。
警察庁警備局を頂点に、警視庁公安部・各道府県警察本部警備部・所轄警察署警備課で組織され、公安警察に関する予算は国庫支弁となっているので、都道府県警察の公安部門は警察庁の直接指揮下にあるのです。
東京都を管轄する警視庁では警備部とは別に公安部として独立しており、所属警察官約1100名を擁し、都内の所轄警察署警備課と合わせて2000人以上となり、日本の公安警察の中では最大の組織です。
全国の公安警察官の3分の1以上は、すべて警察庁警備局警備企画課 情報第二担当理事官(「キャップ」または「裏理事官」と称される)が統括し「ゼロ」と呼ばれ、スパイの獲得や運営などの協力者獲得工作を取り仕切る極秘の中央指揮命令センターの指揮下にあります。県警本部長、所属長でさえ、ゼロの任務やオペレーションを知らされていません。
これは、警察庁警備局などから発せられた特命事項を表の組織で行えば情報漏れのリスクを伴うので、ゼロが全国の公安警察に直接指示を出したほうが表沙汰になる危険が少なく、話が早いからです。
戦前に発生した五・一五事件や二・二六事件で、警察官が合計6名殉職した過去があるため、警察は自衛隊によるクーデターを警戒しており、公安警察の自衛隊監視班(マル自)が、自衛隊内部の「右翼的な思想を持つ隊員」を監視しています。そのため、8月15日に靖國神社に訪れる自衛官は、マル自によって顔写真を撮られリストアップされています。
また、自衛隊関係者や駐在武官などが頻繁に出入りする各国大使館から自衛隊内部の機密情報が軍事情報誌などを刊行する出版社を経由して流出することが多いため、公安警察はこういった出版社に出入りしている要注意人物をリストアップして、行動を徹底的に監視します。
自衛隊でも陸上幕僚監部運用支援・情報部別班や自衛隊情報保全隊などの諜報・防諜部隊を編成しており、隊員の思想調査だけでなく反自衛隊活動を行う民間人なども監視対象としています。
形骸化する公安調査庁
なお、法務省の外局である公安調査庁とは別組織です。
公安調査庁は、公安警察に付与されているような逮捕権や強制捜査権限を有さず、あくまで情報収集による調査にとどまるのに対し、公安警察はそれに加えて、事後的な犯罪捜査も任務とする点が異なります。
破壊活動防止法や団体規制法の規制対象に該当する団体であるかどうかの調査(情報収集)と処分請求を行うお役所であり、調査活動の過程で入手した情報を分析・評価し、政府上層部に提供しています。
ただし、公安調査庁次長と、公安警察を統括する警察庁警備局長は、ともに国内の情報機関が集う合同情報会議(ほかに、内閣官房内閣情報調査室、外務省国際情報統括官組織、防衛省情報本部)の構成員であり、法律により公安調査庁と警察は協力関係にあるとされていますが、実際は法務省キャリア官僚、警察庁キャリア官僚の不仲や局長職以上はポスト争いの為、刑事、警備部門間の協力意識は皆無で縦割りのお役所仕事の悪い見本そのものを呈しています。
ですから、Twitterで反政府運動をする者などのツイに公安調査庁のアカウントにメンションをつけてRTを行う人もいますが、まったく意味がありません。
公安調査庁は破壊活動防止法対象団体組織の調査・情報収集を行う程度の組織で、情報収集能力も公安警察にはまったく及ばず形骸化し、民主党政権時の事業仕分けでは廃止候補に上がったほどですし、調査資料提供を公安警察に命じても、自分たちが足で稼いだ情報を「むざむざ渡すもんか」と公安警察では言うほどの不仲でもあります。
警視庁公安部の場合、管轄を超え全国にまたがり調査・情報収集を行います。主な調査監視対象は以下の通りです。
極左暴力集団(極左系市民団体含む)
右翼団体(行動する保守含む)
政治団体(日本第一党など)
政党(日本共産党など)
特殊組織(新宗教、セクト)
外国政府による工作活動(北朝鮮による日本人拉致など)
経済制裁が科されている国への不正輸出
軍事転用可能な物、及びその可能性のある物の密輸
公的機関やインフラ企業を狙ったサイバー攻撃
国際テロリズム
警察内部の防諜
自衛隊内部の「右翼的な思想を持つ隊員」への監視
皇族の身分を詐称する人物(有栖川宮詐欺事件など)
主な担当部署は次の通りです。
公安総務課(日本共産党、反戦デモ、市民活動、反グローバリズム運動、カルト・セクト)
公安一課(日本赤軍、極左、新左翼過激派)
公安二課(労働紛争議、革マル派)
公安三課(陸上自衛隊、右翼団体、保守系団体、日本第一党)
公安四課(資料・統計)
外事一課(欧米・ロシア・東ヨーロッパの工作活動や戦略物資の不正輸出)
外事二課(中華人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国の工作活動、戦略物資の不正輸出、日本第一党幹部)
外事三課(国際テロリストや、中東地域のスパイ)
サイバー攻撃対策センター(サイバー攻撃特別捜査隊)
公安機動捜査隊(NBC(Nuclear、Biological、Chemical)テロ捜査隊)
※令和3年4月より外事二課より北朝鮮担当が外事三課に現在の外事三課が外事四課になります。
例えば日本共産党は公安総務課担当の常時調査監視対象として所属議員のみならず党員や民青、民商、都道府県土建やその家族の動向、嗜好、交遊録をも調査、常に新たな人的接点や行動パターン把握のため「政治的活動時」における絶対的捜査権限を公安が主張し、選挙期間中における選挙違反検挙は本来、捜査二課の担当でありますが、共産党には捜査二課の捜査権限が一切ないのです。
特に公安総務課は囲い込み傾向が強く、よほどの刑事事件でない限り刑事警察にその捜査権限を与えようとはしません。
貧弱な沖縄県内の公安警察の体制
一方、沖縄県内においては、県警には独立した公安部を持たず、沖縄県警本部警備部が公安業務を受け持っており、以下のような部署があります。
警備第一課
警備第二課
外事課
機動隊
特殊部隊(SAT)
国境離島警備隊
先述のとおり、捜査指揮権は「警察庁警備局」のゼロにあり、その指示でのみ動きます。
その他、活動家や団体が沖縄入りしているために警視庁公安部、大阪府警公安部、さらに公安調査庁(那覇に公安調査事務所を持つ)までが介入し個別諜報を行っていますが、逮捕行為などにより他組織の捜査計画に抵触する事をけん制し合った結果、活動家らに対しての情報収集のみに各々が終始してしまっているのが現状です。
以前にも守備範囲の重なる公安警察からは「調査目的で警察がマークしている捜査対象者に公安調査庁が接触し、警察やマスコミの動きなど、捜査対象者を利するようなことを平気でしゃべり、結果、捜査対象者が逃亡することもしばしば起こっており、一体、誰に雇われているのか」と批判も出ています。
その公安調査庁の2017年度版「内外情勢の回顧と展望」では、中国の大学やシンクタンクが、沖縄で「琉球独立」を唱える団体との交流を行っていることについて、「中国に有利な世論を形成し、日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいる」と指摘しています。では、いったい沖縄ではどのようなことが起こっていのか。次回は警察の軋轢やマスコミの機能不全で、反対運動はもとより地方選挙までもが無法地帯化している状況をリポートします。
(文=新日本帝國/政治・社会ジャーナリスト)