令和2年11月10日、産経新聞からとんでもないニュースが飛び込んできました。
同記事『拉致被害者救出願う「ブルーリボンバッジ」法廷での着用禁止 国賠提訴』によると、大阪地裁堺支部において、北朝鮮による拉致被害者の救出を願う「ブルーリボンバッジ」の着用を法廷内で禁止し、バッジを外すよう指示された事は、表現の自由を認めた憲法に違反すると主張、計260万円の国家賠償を求めて、近く大阪地裁に提訴するというものです。
このニュースは記憶にあったのですぐに思い起こすことができました。2018年5月の審理当日、地裁堺支部内でブルーリボンバッジを着けていた者に、職員が裁判官の命令として、「メッセージ性のあるバッジは外すように」と指示したのです。
「ブルーリボンバッジ」着用はヘイトなのか?
裁判経緯を簡単に説明すると、2011年5月頃、原告がパートのサブリーダーの任を解かれたことを被告フジ住宅によるヘイトハラスメントによるものとして、15年8月31日に訴訟提起しました。原告には「ヘイトハラスメント裁判を支える会」「『つくる会』系教科書を子どもたちに渡さないために!」「部落解放同盟」などの団体が支援につき、裁判傍聴に動員を呼びかけ、社会問題化しようとする動きも見られました。
そのなかで原告女性支持者が17年12月14日第9回口頭弁論において「ヘイトハラスメントストップ」バッジをつけて法廷に押しかけ、2018年3月8日第10回口頭弁論において被告側が「富士山と太陽」を描いたバッジをつけて入廷すると裁判所が「メッセージ性がある」として外すよう指示しました。
ここまでならば原告、被告間における相互勢力の誇示が行き過ぎないよう、法廷内の秩序を維持するための「法廷警察権」発動で、両者に冷静な判断を促すためのものであったと理解はできます。 ところが、同年5月17日の第11回口頭弁論において裁判所職員が裁判官の命令として、ブルーリボンバッジに対しても「メッセージ性のあるバッジは外すように」と指示が出たのです。
この時点では、裁判官がブルーリボンバッジに対して直接、当該裁判における関係性があるとしていたのではなく、「メッセージ性のあるバッジの着用を全面的に禁止した裁判官決定」を職員が拡大解釈した結果、裁判官と職員の間に齟齬が生じた可能性もありました。
ところが、その後の同年8月2日の第12回口頭弁論、同年11月1日第13回口頭弁論、2019年5月16日の第14回口頭弁論、同年7月18日の第15回口頭弁論でもその指示は継続されました。同年10月31日の第16回証人尋問の際には、被告フジ住宅側からブルーリボンバッジ禁止の理由を尋ねると、裁判官から「法廷の指示に従うように」と言われ、2020年1月30日結審までブルーリボンバッジの着用を認めないという決定を支持したことからも、裁判官と職員の齟齬なのではなく、明らかに裁判官の意思としてブルーリボンバッジが当該裁判における「メッセージ性を含むもの」として判断されたことは間違いないでしょう。
この決定をした裁判官は裁判長裁判官 中垣内健治、裁判官 横路朋生、裁判官 山田雅秋の3名です。
そして、2020年7月2日判決公判を迎えます。この日、裁判長が中垣内氏から森木田邦裕氏に代わりましたが、ブルーリボンバッジを外さなければ傍聴を認めないという訴訟指揮も継続されたことから、森木田邦裕裁判長裁判官もブルーリボンバッジに対して同様の考えを持つか中垣内裁判官の決定に忖度した可能性があります。
この裁判の中身について云々することはここでは避けます。詳細はフジ住宅のホームページ上にあるこちらをご覧ください。
https://www.fuji-jutaku.co.jp/blog/table.html
また判決についてはこちらを参照ください。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=89711
裁判所の判断は北朝鮮人権侵害対処法の趣旨に反している
問題は、原告・被告間相互で自勢力のバッジを装着し、傍聴席を埋めようとした「アイデンティティの示威行為」が法廷内の秩序を乱すとの裁判官判断なのでしょうが、ブルーリボンバッジは北朝鮮による拉致被害者及び特定失踪者奪還、支援を願う啓発を趣旨にしたものです。在日北朝鮮人であるならばまだしも、在日韓国人である原告女性に対して「メッセージ性がある」としたのであれば、北も南も混同したヘイトハラスメント的発想を裁判官自身が持っているとも言えないでしょうか。
また、この裁判官判断によりブルーリボンバッジが在日コリアンに対して差別的かつ攻撃的であるといった意味を与えてしまうことともなりかねず、遺憾極まりないことです。当該裁判期間中において「原告・被告側の象徴」とされるものの一切の排除を目的とし、諮らずもブルーリボンバッジが被告側だけが装着しているものであったが故に排除理由となったのであれば、裁判所はその排除理由とブルーリボンバッジに対しての所見を国民に対して説明をする義務を負うのではないのでしょうか。
しかしながら大阪地裁堺支部は「個別の裁判体の訴訟指揮に関するもので、コメントすることはない」と回答しています。 司法行政権の一環である法廷警察権行使が裁量逸脱し「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律(北朝鮮人権侵害対処法)」の趣旨に違背している可能性をどのように考えるのでしょうか。
少なくとも、法の趣旨に反するだけでなく、表現の自由を不当に制約し国民意識とも乖離した法廷警察権行使は司法に対する国民の信頼を揺るがしかねません。今回、国家賠償請求訴訟を提訴するのはフジ住宅会長の今井光郎会長(74)と支援者の南木隆治さん(67)の二人。 今井会長は「ブルーリボンバッジに政治的な意図などなく、禁止するのはおかしい」と主張しています。
代理人の稲田龍示弁護士も、裁判官の判断は国家機関に対し拉致問題解決への尽力を求めると定めた北朝鮮人権侵害対処法にも抵触すると指摘し、「バッジは拉致被害者を救う国民共通の思いの象徴。裁判所が着用を禁じるのは違法かつ違憲だ」としています。このニュースに憤る人は多く、私のツイートにも多くの方から反応がありました。
なかには裁判所に直接抗議の電話やメールを試みた方や国会議員に対応を願う方もいられました。ですが、こういった感情的な行動は意味をなさないことを承知していただきたいと思います。
裁判所に異議を申し立てることはできないのか
司法、立法、行政という三権分立の中で、裁判所に対して議員や政府からそのやり方に口を挟めば越権行為となります。国民の抗議の電話で判断を変えるような組織でないこともわかり切ったことであります。むしろ、それで判断が変わるような司法では困ります。
司法の判断を覆すには司法によるものでなければならず、国家賠償請求訴訟はそのために行われます。しかし、国賠訴訟に加えて、こうした裁判所の過剰と思える規制に対し、正しく抗議する方法もあります。
裁判所のホームページに下記のようにあります。
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/siryo_gyosei_jinjigaiyo/index.html
裁判官の人事評価に関する規則(平成16年最高裁判所規則第1号。以下「規則」といいます。)に基づき、裁判官について新しい人事評価制度が実施されました。
今回の人事評価制度の整備は、裁判官の資質・能力を高め、かつ国民の裁判官に対する信頼を高めるとの観点に立って、制度全体を通じて人事評価の透明性・客観性を確保しようとするものです。
裁判所外部からの情報の取扱い評価権者は、評価情報の把握の一環として、裁判所外部からの情報についても配慮するものとされています(規則3条2項後段)。 裁判所外部からの裁判官の人事評価に関する情報については、その裁判官が所属する庁(簡易裁判所である場合は、その所在地を管轄する地方裁判所)の総務課において受け付けます。この場合においては、情報の的確性を検証できるようにするという観点から、原則として、当該情報を提供した者の氏名及び連絡先を記載した書面であって具体的な根拠となる事実を記載したものによって、情報の提供を受けるものとされています。もっとも、個々の裁判の結論の当否を問題とするものなど、裁判官の独立への影響が懸念される情報については、考慮することができません。
裁判官の人事評価に関する情報を提供する場合には、その性質にかんがみ、上記の内容を記載した書面をその裁判官が所属する庁の総務課長あてに親展で送ります。つまり、この人事評価制度を用いて、今回の規制に対して抗議の意を示すことはできるのです。
稲田弁護士には今回の件に関して見解を聞いていますが、まだ回答はありません。回答があり次第、追記したいと思います。
(文=新日本帝國/政治社会ジャーナリスト)