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SBI、国内初の信託型ステーブルコイン発行…「送金100万円の壁」が消える

2026.06.26 05:55 2026.06.25 22:47 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト

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●この記事のポイント
SBIグループは2026年6月24日、国内初の信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」を正式発行。SBI新生信託銀行が発行体となり、法定通貨との1対1連動・100万円の送金上限なし・倒産隔離による資産保全を実現。企業間の大口B2B決済や機関投資家向け取引への活用を想定し、3メガバンクの共同発行構想より先行してのスタートとなった。

 企業が数千万円を取引先に振り込む際、手数料を支払い、15時を過ぎれば翌営業日まで待つ。このような慣行は、日本のビジネス現場では長らく当然のこととして受け入れられてきた。しかし2026年6月24日、その「当たり前」を問い直す動きが具体的な形をとった。SBIグループが、国内初となる信託型日本円ステーブルコイン「JPYSC」を正式に発行したのだ。

●目次

信託型の円建てステーブルコイン「JPYSC」

 SBIホールディングスなどSBIグループ4社とシンガポールのStartale Groupは6月24日、信託型の円建てステーブルコイン「JPYSC」を発行し、SBI VCトレードの口座内に限定した先行提供を開始した。発行元はSBI新生信託銀行で、Startale Groupがコアパートナーとして技術開発を主導している。ブロックチェーンエクスプローラー「Etherscan」のデータによれば、初日時点で約38億円相当のJPYSCが発行された。

 同日、SBIはリップルの米ドル建てステーブルコイン「RLUSD」の取り扱いも開始しており、円と米ドル、2通貨のステーブルコインを同時に展開するという戦略的な布石も打っている。

 なお、現時点での先行提供はSBI VCトレードの口座内のみで完結しており、外部ウォレットへの移転は行えない。各社によるとパブリックブロックチェーン上で流通させるための技術的・実務的な準備は完了しているが、関係法令や税務上の取り扱いの整理を経たうえで、監督当局の確認を前提に国内外での流通へ段階的に移行していく方針だ。

何が「国内初」なのか――法律の枠組みから読み解く

 JPYSCを正確に理解するには、日本のステーブルコイン規制の枠組みを把握しておく必要がある。2023年6月に施行された改正資金決済法は、ステーブルコインを「電子決済手段」として法的に定義し、発行主体によって複数の類型に分類した。

 先行して国内で流通している「JPYC」は、JPYC株式会社が資金移動業者として発行する「第1号電子決済手段」だ。2025年10月に発行が始まった先駆け的存在だが、資金移動業法上の規制により1回あたりの送金・滞留に100万円の上限が設けられている。個人利用やWeb3サービスとの連携では十分な機能を持つが、企業間の大口決済には構造的な制約があった。

 JPYSCが採用したのは「第3号電子決済手段」(信託型)と呼ばれる別のスキームだ。信託銀行が発行体となり、利用者から預かった資金は信託財産として分別管理される。決定的な違いは、この信託型には送金上限規制が適用されない点にある。数億円・数十億円規模の企業間取引にも対応できる設計となっており、B2B決済での実用性が格段に高まる。信託銀行が発行体となるこのスキームの正式発行は、国内で初の事例となる。

「信託型ステーブルコインは、倒産隔離機能によって利用者の資産が法的に保護される設計です。たとえ発行体が経営危機に陥っても信託財産は保全されるため、CFOや経理担当者が企業の財務戦略に組み込む際の心理的・制度的ハードルが、従来の暗号資産と比べて大幅に下がります」(金融アナリスト・川﨑一幸氏)

3つのプレイヤーと競争の現在地

 日本の円建てステーブルコイン市場は現在、異なるアプローチをとる3つの勢力が並走している。

第1の勢力:資金移動業型(JPYC) 個人・Web3ユーザー向けに先行流通中。100万円の送金上限があるものの、小口決済やWeb3サービスとの親和性が高い。2026年1月には羽田空港第3ターミナルで国内初の実店舗ステーブルコイン決済の実証実験が行われ、訪日外国人向け決済手段としての活用も始まっている。

第2の勢力:SBI「JPYSC」 信託型・第3号電子決済手段として国内初の正式発行。送金上限なし。機関投資家・法人向けのB2B決済を主眼に設計されており、当初はSBI VCトレード口座内での先行提供という形式をとる。将来的にはオンチェーン外国為替市場、RWA(現実資産のトークン化)決済、クロスボーダー送金などへの活用を見据える。

第3の勢力:3メガバンク連合(Progmat基盤) 三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行は2025年11月から金融庁の「Fintech実証実験ハブ(PIP)」の支援を受けて実証実験を進め、2026年6月10日には2026年度中の実取引開始を目指すと正式発表した。三菱UFJ信託銀行が発行体となり、三菱UFJ信託銀行がスピンアウトして設立したフィンテック企業Progmatが技術基盤を担う。まずは三菱商事のグローバル決済から実用化を進める計画だ。

 SBIが単独のグループ内で意思決定を完結させて先行発行した一方、3メガバンクは「単一ブランド・統一規格」での共同発行を目指しており、業界全体の相互運用性という観点では異なる価値を持ちうる。どちらが「勝る」かという単純な比較よりも、それぞれが異なる強みと顧客基盤を持つ、並走する競争と見るのが実態に近い。

B2B決済の構造変化――何が変わりうるのか

 JPYSCが本格普及した先に何が起きるか。現時点で想定される主な変化を整理すると、以下のような論点が浮かぶ。

(1)決済コストと時間の圧縮

 現行の国内銀行振込は、金額・タイミング・手数料の点で制約が存在する。ステーブルコイン決済では、ブロックチェーン上で資産が直接移転するため、原理的には24時間365日、低コストでの即時決済が可能だ。特に国際送金においては、従来のSWIFT経由では数日かかっていた処理が大幅に短縮される可能性がある。企業が抱える資金繰り上の「時間の摩擦」を軽減するインフラとなりうる。

(2)法人の資金活用の新たな選択肢(レンディング)

 SBI VCトレードは保有JPYSCを貸し出して運用できるレンディングサービスを近日中に開始する予定だ。当面使わない事業資金をJPYSCとして運用に回すという選択肢は、超低金利環境下で法人財務担当者の関心を集める可能性がある。ただし具体的な利回りや条件、リスク設計の詳細は現時点では未公表であり、実際のサービス内容については今後の情報公開を待つ必要がある。

(3)将来的な小口・消費者決済への展開

 各社の構想にはQRコード決済との連携を通じた、飲食店や小売店での利用も含まれている。現時点では法人・機関投資家向けに特化した設計だが、将来的には個人の日常決済へ広がる可能性もある。

課題と展望――整理しておくべき制約

 期待が高まる一方で、現時点での制約も率直に整理しておく必要がある。

 JPYSCのパブリックブロックチェーンへの展開は、規制・税務面の明確化を待っている段階だ。現在はSBI VCトレードの口座内に限定された先行提供であり、一般企業が自社の決済インフラとして全面導入するまでには実務的な壁がある。マネーロンダリング対策(AML)やコンプライアンス体制の整備も引き続き重要な課題だ。

「信託型ステーブルコインは法的な安全弁を備えており、B2B決済の文脈では合理的な選択肢です。ただし実際の普及には、受け取り側の企業がどれだけ対応できるか、税務・会計処理の標準化が進むかという実務面での整備が鍵を握ります。2026年度は”実験から実用へ”の移行期として位置づけるのが現実的でしょう」(同)

 市場の成長余地については、矢野経済研究所がトークン化預金を含む広義のステーブルコイン市場の残高が2030年度に30兆円規模に達すると予測している。日本はG7の中でいち早くステーブルコインの包括的な法規制を整備した国として、グローバルな競争において出発点として有利な立場にある。

企業が今、問われていること

 6月24日のJPYSC正式発行は、国内の円建てステーブルコインが「実証実験」の段階を超え、実際の決済インフラとしての第一歩を踏み出した出来事として記録される。信託型というスキームによる法的安全性の担保と送金上限の撤廃は、これまで法人が暗号資産領域に踏み込む際に抱えていた最大の障壁を取り除くものだ。

 3メガバンクによる共同発行が実現すれば、競争と選択肢はさらに広がる。2026年度は、円建てステーブルコインが一部の先進的な企業だけのものから、日本の法人決済全体に問われる選択肢へと変わりはじめる転換点になるかもしれない。

 財務・経理担当者にとって今求められるのは、技術の詳細を把握することよりも先に、「自社のどの決済課題がこの仕組みで解決できるか」という問いを立てることだ。インフラが整うスピードより、企業側の準備が遅れるリスクが、この先より現実的な課題になりうる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト)

公開:2026.06.26 05:55