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日本初「現金化できるデジタル円」爆誕…金融鎖国ニッポンの“開国”とAI時代の決済革命

2025.12.25 2025.12.24 23:36 企業

日本初「現金化できるデジタル円」爆誕…金融鎖国ニッポンの開国とAI時代の決済革命の画像1

●この記事のポイント
・JPYCが金融庁から日本初のステーブルコイン発行ライセンスを取得。円と相互交換できる「真のデジタル円」が誕生し、決済・送金・投資の在り方が大きく変わろうとしている。
・前払い式電子マネーとは異なり、ステーブルコインは円に戻せる「電子決済手段」。USDCなど世界標準と接続することで、日本円が国際金融ネットワークに参加する道が開かれた。
・外為手数料の削減、即時決済、AIエージェントによる自動支払い、給与払いへの応用まで──岡部社長は「ステーブルコインを使わない企業は生き残れない」と語る。

 日本の金融インフラに、いわば“黒船”が到来した。JPYC株式会社が金融庁のライセンスを取得し、日本初の「償還可能なデジタル円(ステーブルコイン)」を発行できるようになった。

 従来のプリペイドとは異なり、日本円とデジタル円の双方向交換が可能。さらに、世界で巨大シェアを持つ米ドルステーブルコイン「USDC」と同規格での発行を実現し、国際的な資金移動の世界に日本円が“参戦”する。

 それが、どれほどの意味を持つのか。ステーブルコインとは何か。銀行送金や越境ECはどう変わるのか。なぜスタートアップのJPYCが最初の許可を得られたのか。

 本稿では、岡部典孝社長へのインタビューを交えながら、決済の未来を読み解く。

●目次

ステーブルコインとは何か、電子マネーと何が違うのか

 インタビューに入る前に、最低限押さえておくべき基礎だけ簡潔に整理したい。

(1)「現金に戻せるか」で“法的に別物”

前払い式電子マネー(Suica、PayPayなど)
→ 一度チャージすると原則現金に戻せない。閉じたプラットフォームでのみ使用可能。

ステーブルコイン(電子決済手段)
→ 円やドルと価値を1:1で維持しつつ、いつでも法定通貨へ償還できることが法律で義務付けられている。
つまり、“デジタルで動く現金”という位置づけだ。岡部氏は「“デジタル円”という表現が一番的を射ている」と語る。

(2)「閉じた世界」か「国境をまたぐ世界」か

 既存の電子マネーは国内の加盟店ネットワークに依存するが、ステーブルコインはブロックチェーンを介して国境を超えた即時送金が可能。

 越境EC、貿易、投資、AIエージェントの自動支払い——。新しい経済活動のインフラになり得る。

インタビュー:デジタル円の誕生と、銀行ではできない“開国”の理由

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●日本に本当のデジタル円が誕生した瞬間

――まずは金融庁ライセンス取得、おめでとうございます。何が最も大きく変わりますか?

岡部氏:「ありがとうございます。最大の変化は、『真の意味でのデジタル円』が日本で初めて発行されるようになったことです。これまでの前払い式JPYCは日本円に戻せませんでしたが、今回のライセンスでいつでも円に戻せる“電子決済手段”としてのJPYCが使えるようになりました」

 さらに、世界規格との接続も大きいという。

岡部氏:「私たちは米サークル社(USDC発行体)から世界で最初に出資を受けました。今回のJPYCはサークルと同じ規格で発行しています。つまり、日本円・米ドル・ユーロのステーブルコインが、ブロックチェーン上でシームレスに交換できる世界が開くんです」

●USDCとの連携は“日本の鎖国を終わらせる”

――USDCなど海外コインの取扱いも広がると聞きました。自社発行と競合しませんか?

岡部氏:「むしろ逆です。相互運用(インターオペラビリティ)が鍵なんです。
サークル社は機関投資家向けに“ステーブルコイン中心の新しい金融インフラ”を構築しています。ここに円のステーブルコインが入ることで、ブロックチェーン上で“ゼロ秒決済のFX”が可能になる」

 従来のSWIFT送金は着金まで1〜2日。ステーブルコインならほぼ瞬時だ。これが貿易や投資の実務を大きく変える。

●JPYCの強みは「銀行がやりたくてもやれないモデル」

――Progmatなど信託銀行系もステーブルコインを準備しています。JPYCの優位性は?

岡部氏:「金融機関には“イノベーションのジレンマ”があります。ステーブルコインが普及すると、銀行収益の柱である為替手数料や送金手数料が減る可能性があるからです。一方、私たちは手数料ビジネスではありません」

――では、収益源はどこに?

岡部氏:「裏付け資産(国債等)の利息です。例えば、1兆円発行すれば裏付け資産1兆100億円程度が生まれ、その1%の利回りで100億円の収益になります。“手数料ゼロで成立するビジネス”なので、普及させやすいモデルなんです」

 銀行ではなくスタートアップが第1号を取れた理由が、ここにある。

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●AIが支払う時代に必須の“プログラマブルマネー”

――どんな企業がステーブルコインを強く求めていますか?

岡部氏:「貿易・投資の世界がまず大きいですね。外為手数料が高く、着金が遅いという悩みは共通しています。また最近はAIエージェントが自動で支払う世界が視野に入ってきています」

 AIが判断し、必要な瞬間に自動で決済する——従来の銀行振込やハンコ文化では到底対応できない世界だ。

●「規制は壁ではない」金融庁との“正面突破”の6年

――最初は前払い式からのスタートでしたが、金融ライセンス取得までの道のりは平坦ではなかったはずです。

岡部氏:「極意はシンプルで、『正面から行く』ことです。多くの企業は規制を前にすると引き返してしまう。でも私たちは金融庁のドアを何度もノックし続けました。私自身が電話し、足を運び、“なぜダメなのか”を徹底的に聞き、論点を一つずつ潰す」

――心が折れそうになった瞬間は?

岡部氏:「一番危なかったのは2022年の法改正です。『ステーブルコインは銀行だけが発行すべき』という議論も強く、もしそう決まっていたら私たちは道を断たれていました。“スタートアップにも挑戦の余地を”と訴え続け、ギリギリで道が残った。まさに首の皮一枚でした」

 ここで道が閉ざされていれば、JPYCは銀行の下請けになるか、安価に買収されて終わっていた可能性がある。

●給与払いも“デジタル円”へ。普及は一気に加速する

――今後、ステーブルコインはどこまで浸透すると見ていますか?

岡部氏:「労働法上、一定の条件を満たせばステーブルコインでの給与払いも可能です。外国人が多い企業、フリーランスへの即時支払いなどで広がるでしょう。グローバル市場はすでに49兆円規模で、今後10倍になるとも言われています。AIが当たり前になったように、『ステーブルコインを使わない企業は存在しない』という時代が必ず来ます」

 最後に、読者へのメッセージを求めると、こう返ってきた。

岡部氏:「日本円のステーブルコインが広がらないと、日本は大きく国益を損ないます。
JPYCはすでに誰でも使えます。“お金のデジタル化”の波に、どうか乗り遅れないでほしい」

日本の“決済インフラの形”が変わる

 銀行送金に頼ってきた日本企業の資金移動は、ここから数年で急激に変わる。

 ・海外送金は“数日→ゼロ秒”へ
 ・AIが自動で決済する世界が本格化
 ・越境EC・貿易のキャッシュフローが改善
 ・給与、報酬、投資、あらゆるお金の流れがデジタル化
 ・世界のドル・ユーロと日本円が同じレイヤーでつながる

 今回の第1号ライセンス取得は、その転換点だ。「金融鎖国の終わり」と言っていい。JPYCは、その幕を開ける最初のプレイヤーとなった。

(構成=BUSINESS JOURNAL編集部)