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驚異のユーザー1200万人…BTSからミセスやカワラボも参入「Weverse」の実力

2025.12.14 2025.12.13 12:04 企業
驚異のユーザー1200万人…BTSからミセスやカワラボも参入「Weverse」の実力の画像1
Weverse Company代表取締役のチェ・ジュンウォン氏

●この記事のポイント
・月間アクティブユーザー1200万人、参加アーティスト170組超―Weverseは「滞在時間」ではなく「ユーザーの幸福」をKPIに置く
・チェ・ジュンウォン代表が語る成長の本質は「負の感情を排除し、没入の深化を支える」次世代型プラットフォーム設計
・Weverseは「不便の解消」「安全地帯の提供」「文化研究」で差別化に成功

 K-POPの世界的ヒットの裏側で、静かに、しかし確実に存在感を増しているプラットフォームがある。BTSやSEVENTEENを擁するグローバルの総合エンターテインメント企業・HYBEのプラットフォーム部門であるWeverse Companyが展開する「Weverse(ウィバース)」だ。

 2019年のローンチから6年。単なる「ファンコミュニティアプリ」から、コマース、ライブ配信、メンバーシップまでを統合した「グローバル・スーパーファン・プラットフォーム」へと進化を遂げた。月間アクティブユーザー(MAU)は1200万人を突破し、参加アーティストは170組を超える。

 その成長を牽引してきたのが、Weverse Company代表取締役のチェ・ジュンウォン氏だ。Nexon、NCSOFT、Pinkfongといったゲーム・コンテンツ業界で25年以上のキャリアを持ち、プラットフォームビジネスの本質を知り尽くした人物である。

 単なるファンアプリではない、「アーティストIPを核にした経済圏(エコシステム)」としてのWeverseの正体とは何か。そして、日本市場がHYBEエコシステムの中でどんな戦略的位置づけを持つのか。東京・汐留のHYBE JAPANオフィスで、チェ氏に話を聞いた。

●目次

スタートアップの「アンフェア・アドバンテージ」を活かした急成長

 Weverseは当初から「グローバル・ファンダム・プラットフォーム」を作る構想でスタートした事業だ。チェ氏は5年前、HYBEの創業者であるバン・シヒョク氏から声をかけられ、その構想に感銘を受けて合流を決めた。

「当時、BTSやTOMORROW X TOGETHER(TXT)が急成長していた時期で、『全世界のK-POPファンのためのプラットフォームを作りたい』という意気込みを聞いて、これは挑戦する価値があると思いました」

 チェ氏は、スタートアップの成長メカニズムについて、独自の視点を語った。

「世の中のスタートアップの9割はビジネス的に長続きしません。残りの5%は曖昧な状態になり、わずかな企業だけがJ字カーブを描いて成長していく。その違いを生むのが『アンフェア・アドバンテージ』――つまり、その会社だけが持つ光る価値です」

 Weverseにとってのアンフェア・アドバンテージは、BTSやTXTといった強力なIPだった。最小限の機能からスタートし、急速に市場に浸透。その後、ファンダム・プラットフォームとして定着するために、機能を拡張し、エコシステムを構築してきた。

「5年かけて、今ようやくそのエコシステムが完成したといえます」

MAU300万から1200万へ――韓国企業ではなく「グローバル企業」

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 数字はWeverseの成長を雄弁に物語ってくれる。5年前、月間アクティブユーザー(MAU)は300万人だった。それが現在は1200万人と4倍に成長している。参加アーティストは170組を超え、そのうちHYBE MUSIC GROUP所属アーティストはわずか10%に過ぎない。

「韓国、日本、ラテンアメリカなど、さまざまな国のアーティストが参画しています。実は、韓国ユーザーの割合も全体の10%しかいないんです」

 トラフィックと売上の多い国は、日本、韓国、インド、インドネシア、中国、メキシコ、アメリカの7カ国に集中する。いわば、韓国発のプラットフォームでありながら、すでに「グローバル企業」としての性質を持っているのだ。

「この事業を運営しながら驚いたのは、こんなに多くのスーパーファンが全世界に広がっているということ。このサービスの可能性を改めて実感しました」

「ファンの幸せ」をKPIに置く思想

 そんな急成長を支えたのは「ファンダムライフ」というコンセプトだ。それは、現代の世界のテック企業の中では特筆すべきものである。

 チェ氏は、ファンという存在の本質について語る。

「ファンという存在は、音楽のファンだけではありません。スポーツのファンかもしれないし、コンテンツのファンかもしれない。重要なのは、彼らの行動や心理を満たすことで、いかに没入感を引き上げるかです」

 ここで注目すべきは、チェ氏が「没入感」という言葉を使っていることだ。多くのテック企業が「滞在時間」や「DAU(デイリーアクティブユーザー)」をKPIに置き、アルゴリズムで負の感情を煽って中毒化を狙うのに対し、Weverseは「感情的満足」そのものを最終目標としている。

 チェ氏は、自身が「釣りのファンになるかもしれないし、自動車にはまるかもしれない」と語り、あらゆる「はまっている人たち」の行動パターンを分析することに興味があると明かした。

「1人の人がファンになっていく段階には、グラデーションがあります。番組やSNSでスターを発見し、興味を持ち、動画プラットフォームなどで検索する。そこからさらに没入して、グッズを買ったり、コンサートに行ったり、最終的には自分が主体となってコンテンツやグッズを作り上げたりする。我々は、このファンたちの一連の没入行動に着目しています」

 この「没入行動」がアルゴリズムで強制的にエスカレートさせるものではない。ファン自身が「主体」となって自然に深まっていく構造だということだ。行動心理学と文化研究をベースに、「熱量が自然に深まる」環境を整える。これこそが、Weverseの設計思想である。

 この「没入行動」を支えるため、Weverseには数十のサービスが実装されている。中でも特に重要なのが、2つの機能だ。

Weverse LIVE――「安全地帯」でのリアルタイムコミュニケーション

 1つ目は「Weverse LIVE」だ。チェ氏は、この機能がWeverseの中核をなすと語る。

「Weverseにはコマース機能もありますが、最も愛されているのは、アーティストとファンが直接コミュニケーションを取れるコミュニティです。その中で最も密にコミュニケーションできるのがWeverse LIVEです」

 アーティストにとって、Weverseは「自分を愛してくれる人たちが集まる安全地帯」だという。SNSのように不特定多数ではなく、確実に自分のファンが集まる場所だからこそ、リラックスしてコミュニケーションが取れる。

 この機能を強化するため、WeverseはNaverの「V LIVE」を5年前に統合した。結果、ファンの滞在時間が飛躍的に増加した。

「顔を見せながらビデオでコミュニケーションを取ることが、ファンにとって非常に重要だったんです」

テック企業が放置する「不便」を徹底的に排除する

 2つ目は、ECサービスとの連携だ。ここにも、Big Techとは異なる思想が表れている。

 チェ氏は、ファンの推し活におけるクライマックスはコンサートや公演だと語る。

「でも、会場で最も不便なのは、グッズを買うために2〜3時間も列に並ばなければならないこと。それを解決したかったんです」

 Weverseのオンラインストアで事前購入し、現場でピックアップできるシステムを、サービス開始初期から導入。ファンの不便を解消するだけでなく、アーティストやレーベルにとっても売上増加につながった。

 現代では多くのテック企業が「不便さ」や「ストレス」を放置し、むしろそれを利用してエンゲージメントを高めようとするのに対し、Weverseは「1つでも不便を減らす」ことに注力している。

 チェ氏の言葉からは、Weverseが建前ではなく本当に「ファンの幸せ」を起点に設計されていることが見えてくる。

日本市場の可能性とカスタマイズ戦略

 日本市場について、チェ氏は戦略的な重要性を語る。現在、香取慎吾、YOASOBI、Mrs. GREEN APPLE、KAWAII LAB.など、多くの日本のアーティストがすでにWeverseを利用している。

 チェ氏によれば、日本のアーティストには特徴的な傾向があるという。K-POPアーティストと比較すると、ファンとのコミュニケーションに慎重で、なかにはシャイな一面をつアーティストもいる。そのため、Weverseはいきなりハードルの高いライブ配信を提案するのではなく、その特性を深く理解した上での「スモールスタート」を提供している。

「例えば香取慎吾さんの事例が象徴的です。最初からリアルタイムの『Weverse LIVE』を行ったわけではありません。まずは『Weverse Albums』でのリリースに合わせたプロモーションの一環として、テキスト・画像コンテンツの発信といった、アーティストにとっても利用しやすい機能のサポートからスタートしました。そこでファンの熱い反応に触れていただきながら、段階的により深いコミュニケーションであるライブ配信の活用をサポートさせていただきました。

 他の日本アーティストも同様に、それぞれのペースで活用いただいています。日本のアーティストがWeverseに共感してくださった最大の理由は、『グローバルファンとの絆を深化させたい』という想いがあったから。単に市場を広げるのではなく、遠く離れたファンとも心理的に繋がりたいというニーズが、Weverseの提供する価値と合致しているのです」

 こうした日本市場での経験を踏まえ、チェ氏はグローバル展開におけるWeverseの独自性についてこう語った。

「我々は『グローバル展開』といっても、1つの方針がすべての国に適用されるべきだとは思っていません。それぞれの国に合わせた方法があるべきで、文化の違いは内部でも熱心に研究しています」

 Weverseは、各国の文化差を「研究対象」として扱い、それぞれに最適化されたサービスを提供する。興味深いのは、各国のファンダム文化が「徐々に似てきている」というチェ氏の指摘だ。以前は1つのグループだけを推す傾向があったが、今は複数のアーティストを掛け持ちするファンが増えているという。ただし、そのタイミングは国によって異なる。

 だからこそWeverseが力を入れているのが「カスタマイズ型サービス」だ。

「音楽ジャンルやアーティストごとに、Weverseの活用方法も様々です。例えばKAWAII LAB.は、Weverse DMを活用していただいています。狭い範囲で深く没入するファンが多く、DMのエンゲージメント数が非常に高い」

 一方、Mrs. GREEN APPLEは、初の韓国単独公演に合わせてWeverseでコミュニティをオープンした。

「アーティストによって使い方が全然違うので、我々はアーティストに合わせたカスタム型サービスを提供したいと考えています」

Spotifyとは「競合」ではなく「協業」――エコシステムの完成形

 ここまでの話を聞いていると、Weverseは音楽配信を中心としたプラットフォームとして、SpotifyやApple Musicと競合関係にあるように思える。しかし、Weverseと音楽配信サービスの関係について、チェ氏は明確な立場を示した。

「Weverseのリスニングパーティー機能は、Apple MusicやSpotifyとの連動性を図って作ったサービスです」

 つまり、Weverseは音楽配信サービスと競合するのではなく、むしろ協業しながら「ファンダム体験全体」を提供するプラットフォームとして位置づけられている。ゆえに、目指すべきWeverseの将来像も独特だ。

「最初はアーティストのニーズに合わせてカスタムし、選ばれた機能だけを利用するとしても、究極的にはWeverseのすべての機能を活用していただき、エコシステムの中でサイクルが回ることがベストです」

 新しいアルバムが出たとき、リスニングパーティーで同じファン同士が楽しみ、グッズを購入し、コンサートではアプリの機能を使って不便なく楽しみ、その後ライブストリーミングで見返すこともできる。そんなライフスタイルが定着する日も遠くはない。

「すべてのファンに1つの旅路を作ってあげる、というイメージです。ファンの推し活が、ライフスタイル全般の幸せにつながると信じています」

 最後に、Weverseを通じて世界のファンとアーティストにどんな価値を届けたいのかを尋ねると、チェ氏は、少し間を置いてから、こう語った。

「私が本当に心から思っているのは、Weverseを通じて、自分が好きなアーティストや同じようにそのアーティストを愛しているファンたちと繋がり、より没入感を経験できて、連帯感を経験すること。そして、ファンの方の推し活が、ライフスタイル全般における幸せ感につながることです。それが全世界のファンたちに広がってほしいと、切に願っています」

 このインタビューを通じて浮かび上がるのは、Weverseが単なる「ファンアプリ」ではなく、Big Techが見落としてきた「ユーザーの幸福」を最優先に設計された、次世代型プラットフォームであるという事実だ。

 滞在時間ではなく感情的満足をKPIに置き、ユーザーを「消費者」ではなく「創造の主体」として扱い、既存プラットフォームとは競合ではなく協業する。そんな新しい発想によって、HYBEは音楽レーベルであると同時に、NexonやNCSOFTのように「コンテンツ×プラットフォーム×コマース」を一気通貫させるエコシステム企業へと進化している。

 Big Techがアルゴリズムによる囲い込みを強化する中、Weverseの「人間中心」のアプローチがどこまでスケーラビリティ(拡張性)を維持できるか。日本市場でのローカライズとその成否が、その重要な試金石となるだろう。

(取材・文=昼間たかし/ルポライター、著作家)

昼間たかし/ルポライター、著作家

昼間たかし/ルポライター、著作家

 1975年岡山県生まれ。ルポライター、著作家。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。

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