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みんなの銀行、5周年で見えた勝算…BaaS・システム提供・ローンの3本柱で黒字化へ

2026.06.20 05:55 2026.06.19 16:13 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト
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「みんなの銀行」公式サイトより

●この記事のポイント
みんなの銀行が5周年で170万口座、BaaSパートナー36社を突破。4期連続赤字ながら2027年度黒字化を目標に掲げる背景には、MUFGが新設デジタルバンクの基幹システムに同行のフルクラウド型勘定系を採用した事実がある。口座数競争ではなくBaaS・システム外販という第三の収益軸に賭ける戦略と、出島型組織がDXを実現した経緯を解説する。

 2026年5月、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)傘下のデジタルバンク「みんなの銀行」がサービス開始5周年を迎えた。口座数は170万を突破し、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)への基幹システム提供という象徴的な案件も成立させた。一方で開業以来4期連続の赤字という厳しい現実も続いており、2027年度の黒字化達成が問われる正念場にある。

 この「赤字継続」という事実だけを切り取れば、経営上の問題と映るかもしれない。しかし、5年間の軌跡を丁寧に追うと、従来の銀行の評価軸では測れない戦略の輪郭が浮かび上がってくる。

●目次

「口座数」競争からの意図的な離脱

 みんなの銀行は2021年5月にネット専業銀行として営業を開始した。2025年5月には口座数が130万件を突破。2025年3月末時点で預金残高は331億円、貸出金は228億円で前年比約90%増加。利用者層は10〜30代が約7割を占め、デジタルネイティブ世代に強く浸透している。

 楽天銀行や住信SBIネット銀行といった先行するネット専業銀行と比較すれば、預金残高の規模は大きな開きがある。だが、ここに問いを立てる必要がある。みんなの銀行はそもそも、預金残高の規模で勝負しようとしていたのか、という点だ。

 同行が創業当初から注力してきたのは、BaaS(Banking as a Service)と呼ばれる事業モデルである。自社ブランドで顧客を直接獲得するだけでなく、パートナー企業のアプリやサービスに銀行機能をAPIで組み込み、そのエコシステムの中から収益を得る仕組みだ。

 みんなの銀行の金融機能をAPIを介して提供するBaaS事業において、提携先のパートナー企業は30社を突破。暮らしと隣接したさまざまな消費・購買と金融機能がシームレスに結び付いた新たなサービス体験の提供を目指し、パートナー企業と共創している。2026年5月時点でそのパートナー数は36社に達した。

 代表的な事例がメルカリグループとの連携だ。メルペイを通じた「メルカリバンク」支店の展開により、フリマアプリ利用者が売上金を即時かつ手数料なしでみんなの銀行口座に移せる仕組みが実現した。ユーザーはメルカリという非金融サービスの延長線上で、自然に金融機能を利用することになる。これがエンベデッド・ファイナンス(組み込み型金融)の典型的な形である。

「非金融企業のサービスに銀行機能が埋め込まれることで、ユーザーは銀行口座を意識することなく金融行動を取れるようになります。これは金融のインフラ化であり、決済や融資のフロー自体が付加価値の源泉になっていくでしょう」(金融アナリスト・川﨑一幸氏)

地銀が作ったシステムをメガバンクが採用する「逆転現象」

 2025年5月、金融業界に小さくない衝撃が走った。MUFGが新リテール戦略構想を発表し、三菱UFJ銀行のデジタルバンクを2026年度後半に開業する計画を明らかにした。その中核システムとして、みんなの銀行が提供するBaaSシステム基盤が採用され、勘定系を含むバンキングシステムをフルクラウドでGoogle Cloud上に構築することが決定した。

 これは構造的に見て、きわめて異例の出来事である。これまで日本の金融システム市場においては、大手ベンダーやメガバンク系ITが主導し、地方銀行はその下流で既製品を調達してきた。それが今回は逆転し、地方銀行発のシステムをメガバンクが採用するという前例のない事態が起きた。

 永吉健一頭取は、MUFGに採用された理由について「フルクラウドであることでスケーラビリティ・耐障害性・柔軟性を備えたアーキテクチャとなっており、アプリケーションはマイクロサービスとAPIで疎結合な設計とすることで、非常に柔軟に機能を開発・改修できることが特徴です。また、銀行システムすべてをパッケージで提供するのではなく、1つひとつの機能を個別に提供することができる点をご評価いただけたのではないかと思います」と述べている。

 同行自身が口座や預金を集めるB2C事業、銀行機能をパートナーに提供するBaaS事業に続く「システム提供」事業という第3の収益柱が実績として形成されており、MUFGの採用発表以降、国内外からの問い合わせが増加しているという。

「銀行が自ら構築したシステムを外部へライセンス提供するモデルは、日本では先例が少ない。みんなの銀行の場合、自前でゼロから開発したフルクラウドの勘定系システムがそのまま商品になりました。これはクラウドネイティブでシステムを内製化した強みが、外部競争力に直結した好例といえます」(同)

なぜ既存大手のDXは「同じシステム」を生み出せなかったのか

 MUFGがなぜ自前でこのシステムを作れなかったのか、あるいは作らなかったのか。この問いは、日本の組織論として深い示唆を持つ。

 多くの既存金融機関が「DX推進部」を設置し、数百億円規模の投資を行ってきたにもかかわらず、デジタル化の成果が限定的にとどまる背景には、レガシーシステムの制約と組織慣性という二重の障壁がある。数十年にわたって積み上げられたメインフレームベースの勘定系は、モジュール単位での改修が難しく、新たなAPIとの連携にも多くのコストと時間を要する。加えて、既存の承認プロセスや前例踏襲の文化は、抜本的な設計変更の意思決定を遅らせる。

 FFGがとった戦略は、こうした制約を「内部から変える」のではなく、「外部に新設する」ことで回避するものだった。みんなの銀行は、既存の福岡銀行の外側に置かれた完全に独立した法人である。Google Cloudを基盤とする勘定系システムはゼロから内製化され、マイクロサービスとAPIによる疎結合の設計が採用された。これにより、既存組織のしがらみなく、最新のアーキテクチャを採用できた。

「『出島型』の組織設計は、大企業がイノベーションを起こすための有力な手法の一つ。重要なのは、外部に設置したからといって親組織の論理が入り込まないよう、人事・意思決定・評価体系を明確に切り離す点にあります。みんなの銀行の場合、それが機能した事例といえます」(同)

2027年度黒字化へのロードマップと残された課題

 みんなの銀行は、開業以来4期連続の赤字という状況から脱却すべく、2027年度の黒字化を目標に掲げている。

 収益化の柱として期待されるのは、三つの事業軸だ。一つ目は直接消費者向けのローン事業。貸出金は2025年3月末時点で228億円と、前年比で約90%増加しており、このトレンドが持続すれば金利収入の拡大につながる。二つ目はBaaS事業からの手数料収入であり、パートナー企業の増加に伴い経済圏が広がるほど収益も積み上がる構造を持つ。三つ目は前述のシステム提供事業で、ライセンス料やSaaS型の保守・運用収入が見込める。

 ただし、現在のシステム提供事業は既存の銀行システムをリプレイスするよりも、MUFGのように新規で銀行を立ち上げる際に適した枠組みになっているため、国内で頻繁に需要が生まれるものではない。それでも、MUFG採用という「実績」が国内外の引き合いを喚起しているのは確かで、今後の展開が注目される。

 黒字化を実現するためには、三つの事業がそれぞれ規模を拡大しながら、固定費との逆転を起こすタイミングを見極めることが不可欠となる。特にBaaS事業においては、パートナー数の拡大だけでなく、各パートナー経由の取引量(トランザクション量)の増加が収益の鍵を握る。

「見えない銀行」という新しい競争軸

 みんなの銀行の5年間は、日本の金融業界が問われてきた問いへの一つの実証実験でもある。デジタルバンクは、口座数や預金残高という従来の指標ではなく、「どれだけ多くの非金融サービスに組み込まれているか」「どれだけ多くの企業のシステムを動かしているか」という新しい軸で評価されるべき段階に入りつつある。

 エンベデッド・ファイナンスの進展は、銀行を「目的地」から「インフラ」へと変質させる。その世界において、店舗網の大きさや歴史的ブランドが持つ優位性は相対的に低下し、APIの品質・柔軟性・信頼性が競争力の核になっていく。

 みんなの銀行がこれから乗り越えなければならない課題は少なくない。しかし、5年間の赤字期間に構築したシステムとパートナーシップの積み上げは、後から参入する競合が簡単に模倣できる性質のものではない。これはスタートアップ投資における「ランウェイ(滑走路)コスト」と同質の考え方であり、いまを収益化フェーズの入口と見るならば、5年間の投資期間としての意味合いが変わってくる。

 2027年度の黒字化が実現するかどうか。その結果は、日本型デジタルバンクが世界に通用するモデルを持てるかどうかを測る、一つの重要な試金石となるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト)

公開:2026.06.20 05:55