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トヨタ系列で下請けイジメ横行、国が違法認定…無償協力を強要で多額損失与える

文=Business Journal編集部、協力=桜井遼/ジャーナリスト
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トヨタカスタマイジング&ディベロップメントの社屋(同社の公式サイトより)

 トヨタ自動車が9割以上の株式を保有する子会社・トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(トヨタC&D)は1日、公正取引委員会から下請法違反に関して指摘を受けていると公表した。自社保有の金型などを下請け企業に無償で保管させるほか、下請け企業から納品され検品した部品を不当に返品し、約60社に5000万円以上の損害を与えていた疑いがある。30日付「読売新聞」記事によれば、被害は数億円に上る可能性もあり、公取委が下請法違反を認定する方針だという。なぜ同社はこのような行為を行っていたのか。また、同様の行為はトヨタグループ内で広く行われているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 トヨタC&Dの設立は2018年。レーシングカーや救急車、道路パトロールカー、道路巡回車などトヨタの特装車の開発、エアロパーツ・サスペンション・エクステリアパーツなど車両パーツの開発のほか、レース現場での技術サポートも手掛けている。トヨタ自動車が9割以上の株式を保有するトヨタ系列企業だ。

 トヨタC&Dは1日、「事実関係の確認に全面的に協力し、公取委の指導に真摯に対応する」とのコメントを発表。トヨタ自動車はメディア各社の取材に対し「現在、事実関係を確認している」「トヨタでは金型保管に関する対応をはじめ、下請法順守に努めており、子会社での法令順守についても引き続き徹底していく」とコメントしている。

 金型を下請け企業に長期間にわたり保管させる行為は以前から自動車業界で問題となっていた。経済産業省が2007年6月に策定(24年5月改定)した「自動車産業適正取引ガイドライン」には、下請けメーカーによる以下証言が記録されている。

<取引先から金型の継続保管を長期(10年以上)に要求されるが、保管費用は自社負担となっている>

<顧客に型保管費の話題を出すと、他社は言ってこない等と言われる。今後の取引に支障を来たすおそれがあるのではないかと思うと、これ以上は言い出しづらい>

<型の破棄の申請に対して、いずれ検討するとして、回答が先延ばしされる>

<必要数量を先行生産した上で、型を処分したいと考えているが、発注元から必要数量の提示がなく、処分の了承がなかなか得られない>

型に関する取引条件の曖昧さ

 背景には、発注者と下請けメーカーの間における、型に関する取引条件の曖昧さがある。型の廃棄・返却、保管費用項目の目安が定められておらず、下請けメーカーが量産終了後も発注者から保管期間を明示されないまま長期間の保管を強いられ、保管費が支払われない傾向があるという。

 こうした慣習の是正のため経産省は19年に「型取引の適正化推進協議会」を立ち上げ、型取引の適正化に向けた基本的な考え方及び基本原則を報告書にまとめ、公表。 日本自動車工業会と日本自動車部品工業会に対し、以下に取り組むよう呼び掛けている。

・型の取引条件の曖昧さを廃し、協議・取決め事項の書面化を徹底
・型製作相当費等につき、型の引渡し時までの一括払い、資金繰りに課題のある受注企業などから要望があれば支払い時期の前倒しに取組む
・不要な型の廃棄等を進め、発注側企業が保管を指示した型の保管費用を負担
・型の廃棄・返却、保管費用項目の目安に基づく取組の推進
・知的財産・ノウハウ保護に必要な取決めの書面化と適正な対価支払いを徹底
・国・産業界・企業がそれぞれ、型取引の適正化に向けた取組を継続

(経産省・日本自動車工業会・日本自動車部品工業会「自動車産業における型取引の適正化に向けて」より)

車種の生産終了もずっと保守部品を供給

 上記ガイドラインが存在するにもかかわらず、なぜトヨタC&Dは下請けメーカーに対して不当な行為を行っているのか。ジャーナリストの桜井遼氏はいう。

「家電製品などでは製品の生産終了から一定期間が経過すると部品の生産も終了しますが、自動車の場合は製造から20~30年使用されるケースも珍しくなく、車種の生産終了もずっと保守部品を供給しなければならないというのが実情で、下請けメーカーに長期にわたり金型を保管させておくという慣習が残っています。国は以前から下請法違反なのでダメですよと言っており、保管させる場合は発注者側が費用を負担しなければならないというルールにはなっていますが、下請けに無償で保管させたり、十分な費用を払っていなかったり、他の発注と抱き合わせで費用を上乗せしてごまかしたりするケースも多いです。

 日産自動車による下請けへの不当減額問題が表面化し、自動車業界全体で“膿を出していこう”という機運が高まるなか、トヨタC&Dの下請けメーカーから公取委に通報などが入ったことで今回の動きにつながったとみられています」

 3月、日産が下請けの自動車部品メーカー36社への支払代金約30億2300万円を不当に減額していたとして、公取委が下請法違反を認定し再発防止を勧告。日産は下請けメーカーに対し、契約書で定められた発注額から「割戻金」として一部を差し引いた代金を支払っていた実態が表面化した。今回発覚した下請けイジメともいえる行為は、トヨタグループ全体でみられるものなのか。

「22年12月にトヨタ系部品メーカー大手のデンソーと豊田自動織機が、エネルギーコストや物流費などが上昇しているにもかかわらず仕入先と取引価格について適切な交渉を行っていないとして公取委から指摘を受け、それ以降、発注元による下請けに対する問題のある行為は見直していこうという空気になっていることは事実ですが、長年にわたりつくられてきたトヨタ自動車を頂点とするトヨタグループのピラミッド構造、そして発注元と下請けメーカーの関係は簡単には崩れないという見方が強いです」(桜井氏)

トヨタの言うことは絶対的な至上命令

 トヨタと下請けメーカーの関係について自動車メーカー関係者はいう。

「トヨタは半年に1回のペースで部品メーカーと発注額の見直し協議を行っており、原価低減を名目に毎回1%程度の値下げを行っているが、原材料価格の上昇などがあった場合は部品メーカーに発生するコスト増分の一部をトヨタが負担するなど助けることもある。また、トヨタの下請け企業に対する原価低減指導は厳しいが、コスト低減に伴う利益はトヨタと下請けが折半するかたちで下請けにも還元している。このようにトヨタ本体による露骨な下請けイジメというのは近年ではほとんどない。ただ、たとえば2012年には部品メーカーに円高協力金という名目で値引き要請をするなど、たまに“いかがなものか”と思われることをすることもある」(6月30日付当サイト記事より)

 別の自動車メーカー関係者はいう。

「日産ほど酷い行為はやっていないようだが、やはりトヨタグループのなかでトヨタの言うことは絶対的な至上命令となるので、さまざまな要求を受けて渋々ながら従っているケースは少なくない。トヨタ自動車は目立つ存在で社会的な立ち位置もあるので、それほど露骨なことはしないようになったものの、『Tier1』『Tier2』と呼ばれる一次、二次下請けメーカーによる下請け企業への行為には問題のあるものも少なくない。それもトヨタ自動車による一次下請けへの厳しい値下げ圧力のしわ寄せともいえなくもない」

(文=Business Journal編集部、協力=桜井遼/ジャーナリスト)

桜井遼/ジャーナリスト

桜井遼/ジャーナリスト

自動車業界の現場を中心に取材するジャーナリスト

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