すき家、味噌汁にネズミ死骸が混入→迅速厳格な対応…飲食店、やむを得ない事情

大手牛丼チェーン「すき家」の店舗で、お客に提供された味噌汁の中にネズミの死骸が混入するという事態が発生していたことがわかった。「すき家」広報担当はBusiness Journalの取材に対し「従業員が提供前に商品状態の目視確認を怠ったため異物に気付かずに提供が行われました」と説明する。外食チェーン関係者は「定期的に業者を入れて害虫駆除を行っている大手チェーンでも、異物の混入を100%防ぐのは難しい。各社は細心の注意を払って衛生管理を徹底しているものの、店舗内と屋外のつながりを完全に遮断することは不可能なので、撲滅は難しい」と指摘する。
国内に1965店舗(2025年2月現在)を展開し、店舗数ベースでは「吉野家」「松屋」を抑え牛丼チェーン1位の「すき家」。主力メニューの「牛丼 並盛」(松屋は「牛めし」)の価格を比較してみると、すき家は480円、吉野家は498円、松屋は430円となっており、大手牛丼チェーン3社のなかでは吉野家より安く、松屋よりは高い水準となっている。
すき家といえば、バラエティ豊かなメニュー構成や頻繁な期間限定商品の投入などが特徴だ。根強い人気を誇るレギュラーメニューとしては「とろ~り3種のチーズ牛丼」(690円)、「旨だしとりそぼろ丼」(500円)、「まぐろたたき丼」(680円)などが有名。このほか、現在では期間限定メニューとして「炭火焼きほろほろチキンカレー」(830円)、「にんにくスパイシー麻婆茄子 牛カルビ焼肉丼」(980円)、「おんたま黒ビビンバ牛カルビ焼肉丼」(1000円)などが提供されている。
基本的に北米産牛肉の「ショートプレート」を使用している吉野家に対し、すき家は1カ国からだけではなくアメリカ、カナダ、オーストラリア、メキシコから輸入。すべて国より厳しい独自の安全管理基準「ゼンショーSFC(Safe-Feed Cattle:安全飼料牛)」をクリアした牛肉のみを使用。取引先農場の飼料原料や配合内容、加工、保管、流通にいたるまで定期的に現地監査を行い、安全性を確認している。また、全国にある検査室で製造内容に応じ365日体制で微生物等の検査を行うほか、加工工場内も定期的に衛生検査を行っている。
牛肉は船が着く港直結の冷蔵保管庫が加工工場になっており、衛生状態を保ちながら毎日必要分だけスライスして各店舗に配送。店舗では「すき家」独自のZERO検査を実施。冷蔵庫の温度(設定4℃プラスマイナス2℃が基準内)、衛生状態、賞味期限、ふき取り検査、細菌検査などチェック内容は214項目にのぼり、年間計画を立てて全店舗で実施している。
米へのこだわりも強く、吉野家と松屋は国産米と外国産米を使用しているのに対し、すき家は牛丼に国産のコシヒカリ・ひとめぼれなど厳選ブランド国産米を100%使用している。
「すき家」を運営するゼンショーホールディングスは正社員約1300人を対象に、4月に平均11.24%の賃上げを実施。金額としては4万7390円であり、同社としては過去最高の賃上げ額となる。新卒初任給もこれまでより3万4000円引き上げ31万2000円(大卒)とする。
すぐに一時閉店し、衛生検査の実施
上記のように安全・衛生管理を徹底している「すき家」の鳥取県の店舗で1月、顧客に提供された味噌汁にネズミの死骸が混入するという事態が起きていた。すき家の広報担当は次のように説明する。
「混入していたことは事実です。 異物については、みそ汁の具材をお椀に入れて複数個準備をする段階において、そのうちの1つのお椀の中に混入していたとみられます。また、従業員が提供前に商品状態の目視確認を怠ったため異物に気付かずに提供が行われました。なお、同様の異物混入の恐れがある商品は、当該お客様以外の方に対しては提供されておりません。当該店舗については発生後すぐに一時閉店し、衛生検査の実施と建物のひびなどへの対策を講じるとともに、改めて従業員に対する厳格な教育を行いました。また、発生当日の段階で所管の保健所に相談しました。 発生2日後には、保健所のご担当者様に現地確認をいただいた上で営業を再開しました。
全国の店舗に対しても、異物混入を未然に防ぐために提供前の商品状態の目視確認、および建物のひびを確認した場合の対策を徹底するよう改めて指示を出しています。 お客様および関係者の皆様に、ご心配をおかけいたしましたことを改めてお詫び申し上げます。 今後同様の事態が再び発生することのないよう、全国の店舗において管理体制の一層の強化に努めてまいります」
完全に遮断することは不可能
外食チェーン関係者はいう。
「問題発生の直後に閉店し、保健所とも連携して検査と対策を実施し、かつ全国の店舗に対策の徹底を指示したということなので、迅速にやるべきことを的確に実施したといっていいでしょう。大手外食チェーン各社は過去に異物混入が相次いで起きたことを受けて、現在では独自に厳しい基準を策定し、定期的に清掃業者や害虫駆除業者を入れ、かつ従業員教育も行うなど衛生・安全管理を徹底しています。店舗でアクシデントが起こればすぐに本部や保健所に報告をあげて対応を行うのに加え、積極的に情報を公表するように努めています。
それでも、店舗内と屋外はお客の出入り口、材料の搬入口、換気口、排水溝などを通じて空間的につながっており、完全に遮断することは不可能です。よって、すき家のように約2000店舗も展開していれば、年に数回はアクシデントが生じてしまうというのは、やむを得ない面があります。もちろん安さを追及するゆえに衛生・安全を軽視するということは許されませんが、すき家の価値は、できるだけコストを低減して顧客に安く美味しい牛丼を提供するという点にあり、経営努力をするなかでトラブルが生じてしまうということを顧客がどう受け止めるのかという問題でもあるでしょう」
飲食店における異物混入事案は珍しくない。ここ数年の事例をあげれば、22年にファミリーレストラン「ガスト」のポテトフライに虫の足が混入する事例が発生。マクドナルドでは22年12月に「マックフライポテト」の箱のなかに人の爪が混入するという事案が、23年2月にはハンバーガーにゴキブリが混入するという事例が発生。23年5月には「丸亀製麺」の「丸亀シェイクうどん」にカエルが混入していたことが発覚し、同商品の販売を一時休止。23年11月にはマクドナルドの冬の風物詩「グラコロ」内に虫が混入するという事例が発生した。23年11月にはイタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」が、店舗で提供したサラダにカエルが混入する事案が発生したと発表した。
当サイトは23年2月18日付記事『マクドナルド、商品にゴキブリや人の爪が混入…8年前の悪夢再来か、事故再発の理由』で、飲食店の異物混入防止への取り組みや、どのような事案がなくならない背景について報じていたが、以下に改めて再掲載する。
※以下、肩書・固有名詞・金額・時間表記等は掲載当時のまま
――以下、再掲載(一部抜粋)――
自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に解説してもらった。
なぜゴキブリの混入が起きるのか。厨房(キッチン)と販売カウンター、客席、屋外は、仕切られていたり扉があったとしても、空間としてはつながっており、扉の開け閉めによって接触が避けられない造りとなっています。つまり、どんなに注意を払っていても、外部からの虫などの侵入を100%遮断することは困難であり、調理の途中でふと目を離した隙に虫が異物として混入してしまう可能性が残されてしまいます。毎日長時間調理をしている店舗では、どれほど管理を徹底しても100%大丈夫とは言い切れません。
飲食店で大きなゴキブリを見かけることがありますが、これは店舗が不衛生というよりも、多くは店外のゴミ捨て場や公園の草むらなどに生息する外部のゴキブリが、飲食店の食べ物の匂いにひかれて迷いこんでしまったケースが多いと思います。路面1階の店舗だと、扉の開け閉めのタイミングで隙間から侵入してくるので、店側からすると本当に迷惑なことです。
ただ、小さな茶色いゴキブリ、通称チャバネは、お店に住み着いていることが多く、これを何回か見かけたら、お店の責任だと思ってもいいでしょう。チャバネは、製氷機、洗浄機、冷蔵庫などのモーター付近の温かいところを中心に生息していて、放っておいても減ることはまずありません。駆除業者に依頼して退治するのが通常で、マクドナルドのような大手チェーンは定期的に駆除業者を入れているので、今回の事件は「外部から侵入した虫」だと考えられます。
さらに通常の飲食店よりも保健所の許可が厳しくなる「食品の製造販売」では、製造場所は作業区分に応じて区画されたり、作業場外に原料倉庫を設けたり、極力外部と遮断された空間を求められます(取り扱う食品の種類や保健所によって判断基準は若干異なります)。床から天井まで壁を設置して外部と遮断された空間で調理していれば虫の侵入はなさそうですが、人の出入りがある扉の開閉がある以上、100%の遮断・隔離は困難で、外部から材料(段ボールや容器関連)を運び込む際に虫がついている可能性も0%ではありません。
マクドナルドのような大手チェーンは、虫の混入は企業イメージのダウンとなり痛手になることは十分に認識しており、相当な注意を払って対策をしているはずですが、確率的に100%大丈夫とはいえないため、今後もこのようなことは起こり得ると考えられます。もちろん、衛生管理や定期的な害虫駆除、外部空間との接触面の最小化(極力隙間をつくらない)、扉の開閉時間の短縮、調理空間までの間に距離を置くなど、可能な限りの対策は必要となりますが、店舗の造りや広さによっても限界があるのが実情です。
(文=Business Journal編集部)