ゼンショーホールディングスが8月10日に2024年3月期第1四半期決算を発表し、純利益が前年同期比50.8%増の66億7500万円となるなど躍進ぶりが明らかになった。最近はコロナ禍の収束ムードによって全体的に飲食業界が持ち直してきているが、その中でも同社は群を抜いている。最大の原動力となったのは牛丼チェーン「すき家」の好調で、一部では「牛丼業界で一人勝ち状態」とまでいわれているが、なぜそこまでゼンショーが強いのか、専門家に解説してもらった。
ゼンショーは1982年に創業し、牛丼の「すき家」や丼物とうどんの「なか卯」、回転ずしの「はま寿司」、ファミリーレストラン「ココス」などをチェーン展開。今年4月からはハンバーガーチェーン大手「ロッテリア」が買収によって新たにグループ入りしている。
ゼンショーの2024年3月期第1四半期決算では、売上高約2143億(前年同期比20.2%増)、営業利益約95億円(同259.9%増)、経常利益約92億円(同13.2%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益が約66億円(同50.8%増)に。売上高は純利益とあわせて過去最高を更新した。
グループの中でも好調ぶりが際立った牛丼事業の利益は、国内と海外を合わせた「グローバルすき家」として公表されており、同社の発表によると売上高は616億7100万円(24.5%増)、営業利益は37億900万円(2396.3%増)に。同業の「吉野家」や「松屋」も回復傾向にあるが、「すき家」の躍進はずば抜けている。
ゼンショーの増益増収と「すき家」の一人勝ち状態について、飲食業界の専門家である外食・フードデリバリーコンサルタントの堀部太一氏に見解を聞いた。
「ゼンショーは売上高については大きく上がっているのですが、営業利益率で見ると4.4%で、競合他社と比べてそこまで大きな利益率ではありません。しかし事業別に見ると、『すき家グローバル』は利益率が6%あります。同業の吉野家ホールディングスは、7月に発表した四半期報告書によると営業利益率が3.2%ですから、すき家の好調ぶりがわかります。ゼンショーのグループ内でも『はま寿司』は減益となっていますが、すき家事業はゼンショーの利益の約4割を占めていますから、メインどころがしっかり稼いでくれたので過去最高益になったと考えられます」(堀部氏)
すき家は原材料高騰などのコスト増によって、2月に牛丼の「特盛」や「ミニ」など約3割の商品を10~40円値上げした。「並盛」の価格は400円で据え置かれたものの、一時は客離れが懸念されたが、影響は限定的だった。客離れを防いで躍進した「すき家」の国内戦略について、堀部氏はこう分析する。
「一部メニューは値上がりしましたが、『並盛』の価格が据え置かれたので相対的に『安い』という印象が強まり、それが客離れを食い止めたとみられます。また、これは戦略というより結果論ですが、最近は外食全般でファミリー向け店舗の消費の回復が顕著になっています。同業の吉野家や松屋はソロ客向けの店舗が中心ですが、すき家はロードサイド型のファミリー向け店舗が多く、家族連れを呼び込んだことが国内売り上げの伸びにつながった。すき家も同業他社と同様に原材料費の高騰などの影響を受けているはずですが、それを補って余りある好調ぶりとなったのでしょう」(同)
「すき家」は国内に1944店舗(決算発表時)を構える一方、中国、東南アジア、中南米など海外にも673店舗(同)を展開している。堀部氏はこの海外戦略を高く評価し、ゼンショーの大きな強みになっていると指摘する。
「ゼンショーは『世界から飢餓と貧困を撲滅する』という企業理念を掲げていることもあり、積極的に海外進出しています。すでに全店舗の約3割を海外店舗が占めていますが、今期の第一四半期では新規出店113店舗のうち、国内は24店舗だけで、89店舗は海外への出店で、海外志向がより強まっています。こうした戦略は、日本の国内需要が弱いままで、海外のほうが早く消費が戻っている現状と合致しており、今期の好調につながりました。さらに、ゼンショーは原材料の調達から製造・加工、物流、販売まで一貫して自社で管理するMMD(マス・マーチャンダイジング・システム)を構築し、これを海外でも展開していますが、このシステムは同社の大きな武器となっています」(同)
ゼンショーの好調ぶりの肝にもなった海外展開こそが、今後の飲食業界ではメインストリームになっていく可能性が高いようだ。
「MMDによって海外で製造・加工や物流などを効率的に展開できるなら、日本で売る必要性が薄まってきます。日本はデフレマインドが根強く、回転ずしで110円の皿を120円に値上げするだけでも大変で、すき家が『並盛』の価格を据え置いたことが評価につながるような状況ですから、物価上昇に伴う値上げが当たり前で適正価格で売ることができる海外のほうが魅力的。ゼンショーは6月に北米と英国ですしの持ち帰り店など約3000店舗を展開するスノーフォックス・トップコ(英領ガーンジー)の買収を発表しており、海外展開は加速していくでしょう。ゼンショーに限らず、回転ずしのスシローやくら寿司なども海外進出の姿勢を強めていますし、今後は海外展開をメインにした飲食系企業がより増えていきそうです」(同)
ゼンショーの最高益の背景には、国内ではデフレマインドに沿ったきめ細かい価格設定で客離れを防ぎ、その一方で成長性のある海外進出を積極的に展開するという戦略があったようだ。
(文=佐藤勇馬、協力=堀部太一/外食・フードデリバリーコンサルタント)