経営コンサルが「貴重な建物の解体を提案」→実は正しい?コンサルの意外な価値

神戸女学院大学の名誉教授が、過去に大学の経営再建のために経営コンサルティング会社に2000万円で1年間の調査を委託したところ、のちに国の重要文化財に指定された建物を「管理コストばかりかさむ無価値な建物」だとして兵庫・岡田山のキャンパスを取り壊して、神戸・三田に高層ビルの校舎を建てるという提案を受けて激怒した、というエピソードをX(旧Twitter)に投稿。これを受けSNS上では、
<コンサルは何の役にも立たない>
<収益化という意味では合っているのでは>
<コンサルは経済的価値を可視化し、それに基づきオプションを提示するのが仕事>
などと、さまざまな反応が寄せられている。この経営コンサル会社の提案内容はどう評価できるのか。また、以前から一部では「コンサル不要論」も聞かれるが、高額な費用を支払ってまで大手の経営コンサル会社に依頼するというのは、費用に見合うだけのリターンはあるものなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
経営コンサル会社には、有名な大手コンサル会社と、個人も含めた小規模な事業者の2種類がある。大手としては、アクセンチュア、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストン コンサルティング グループ、デロイトトーマツコンサルティング、PwCコンサルティングなどの外資系コンサル会社が日本で大きな存在感を示してる。このほか、日系ではアビームコンサルティング、ベイカレントなどが知られている。
一方、小規模な経営コンサル会社の置かれた環境は厳しい。東京商工リサーチの調べによれば、2024年の「経営コンサルタント業」の倒産は前年比7.6%増、過去最多の154件と高水準となった。
大手のコンサル会社を取り巻く環境も大きく変化している。1990年代頃までは新卒採用であれば出身大学が東京大学・京都大学をはじめとする旧帝大の国立大学、私立大学なら早稲田大学・慶應義塾大学であることが採用基準といわれていたが、近年ではMARCH・日東駒専クラスの出身者が増えている。
元外資系コンサル社員はいう。
「新卒採用についていえば、東大・京大に限らず旧帝大の国立大学の学生であれば十分に選考の対象に入り、私立だと早慶ではないと厳しいという状況が数年前まであった。ただ、ここ数年はコンサルバブルが起きてコンサル各社が大量に人を確保する必要に迫られ、採用基準は緩くなっている。ちなみに外資系コンサルと一括りにいっても、経営コンサルタント以外の職種、たとえばSE(システムエンジニア)やプログラマー、アウトソーシング事業の現場マネージャー、オペレーターなどはこれまでも旧帝大以外の国立大学やMARCHクラスでも採用されてきた。
一方、中途採用については経験が重要視されるので、これまでも今も旧帝大や早慶の出身ではないとダメという制約はあまりない。特にIT技術職やアウトソーシング事業に就く現場マネージャーなどは大量に人が必要とされており、学歴はほとんど関係ない。もっとも、純粋に戦略系コンサルに特化したりして、システム開発やアウトソーシング事業などをあまり手掛けていないコンサル会社もあり、そうした会社は社員数もあまり多くはなく、入るのは狭き門となる」(24年7月23日付当サイト記事より)
以前から流れる経営コンサル不要論
そんな経営コンサル会社の利用をめぐっては、かねてから高額な費用に見合うほどの効果は得られないという声も一部では聞かれてきた。数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。
「経営コンサル不要論は、私が若かりし頃に大手経営コンサル会社に勤めていた頃から、記憶にある限り25年以上前から話題になっていることです。なぜ、そんな前から不要と言われているのに、まだ業種として存在しているのかを考えると、少なくとも必要とはされているのではないか。そして、その必要性の理由が、時代とともに変わってきているのではないかということです。『コンサルタントなんて、こっち(=クライアント企業)が知っていることしか言わない』という話は、よく聞きます。そして、それは事実だと思います。クライアント企業のなかで誰も考えつかないウルトラCの革新的かつ戦略的な経営方針・戦術・戦略など、コンサル会社からは出てきません。20~30年前はわりと存在し、高い価値を持って受け止められたと思います。しかしその後、経営コンサルタントの思考方法、分析手法やノウハウに関連するさまざまな経営書が出版され、また、MBAホルダーやコンサル会社の出身者が幅広い業界に在籍していることにより、情報の非対称性がなくなりました。すると業界固有事情や会社の内部事情について持っている情報量(定性的な側面や会社の内部事情を含め)はクライアント側のほうが多いので、真新しい分析や考察なんて出てきません。
では、なぜそんな業種が存続できるのか。実態として、コンサル会社が必要とされる状況は『恐らく正しいであろう選択肢が、本当に正しいということをキーマン全員に理解してもらうことが難しい状況』でしょう。なぜか内部の社員からの提案よりも、外部からのそれっぽい提案のほうを素直に受け止める経営幹部というのはいるものです。いわゆる『権威付けのため』です。このほか、例えば5つの選択肢があるうちの、どれが正しいのかを悩む際に、内部分析や外部環境分析を通じて確からしさの優先順位を提案するものです。この場合に5つの選択肢は内部の誰でも頭に浮かんでも、相対的な実効性を考える面では、意外にコンサル会社を使う価値があるでしょう。
よって必然的にコンサル会社にはブランドやクライアント企業の業界の事情に詳しい経験値などが求められます。それに応えられる高額な経営コンサルを起用できるのは、潤沢な資金がある大企業か、儲かっていて知的好奇心の高いトップがいる中小企業くらいでしょう。普通の中小企業を相手にする中小のコンサル会社が苦境に立って倒産件数が増えているのは必然です」(中沢氏)
コンサルタントの費用の妥当性
今回話題となっている神戸女学院大学のケースは、どうとらえるべきか。
「のちに重要文化財となるような建物を取り壊すというのも、古くても価値がある建物を残して他のことを変えるというのも選択肢の一つであったと推測できます。大学は上場企業ではないので短期の利益追求が必ずしも最重要ではなく、オーナーや関係者の納得性の高い選択肢を選んでやり切る(失敗だと思ったら早めに切り替える)ことが重要です。このコンサル会社の役割は、大学の関係者が考え付くようないくつかの選択肢のなかで、どれを選ぶことが関係者にとっても最も納得性が高いのかを示すことだったと考えられます。納得してもらうためには、単に儲かるかどうかという経済合理性だけでなく、関係者が抱く価値観も大きく影響します。儲かるか儲からないのかという点だけで判断しないということは、企業経営においてよくあることです。
このコンサル会社がさまざまな情報を調べたり関係者に話を聞いたりしているうちに、関係者の価値観が経営判断に大きく影響するということは、すぐにわかったのではないでしょうか。その時点で、きちんとクライアントの意思決定者に確認するか、いったん意思決定をはかってもらうなどするのが当然の対応になります。それを怠っていた可能性や責任があると推測されます。一方でクライアント側でも、中間報告などを通じて担当者が『これはモメそうだ』と感じた時点で、内部の意思疎通をはかっておくべきでした。それが抜けていた可能性も考えられます」(中沢氏)
1年で2000万円という費用については、どうか。
「コンサルタントの費用の妥当性について、客観的な水準はありません。『時給●円のコンサルが●時間くらいコミットするので●円になります』と費用見積を提示することはよくありますが、根拠はありませんし、いい加減なものです。唯一正しい水準は『それまでの提案や議論を通じて、クライアント側がいくらまでなら払っていいと思ったか』だけです。ですので、お金に余裕のあるクライアントであればたくさん払いますし、ないところは渋ります。
費用対効果についても、成果の1つに納得性が絡むので、誰もが共有できる計算は成り立ちません。仮に『2000万円のコンサルタントを雇って、1億円の効果のある施策を進められた』という事実があったところで、そのまま受け止める人もいれば、『でも将来的に2億円の損が出る』と思っている人がいたら、その人にとっては費用対効果はマイナスになります。将来のことなど誰にもわかりませんから、関係者の納得感をどこまで醸成できるかということが絡みます。費用対効果を真の意味で計算したいと考える会社は、コンサルを起用しないほうが良いでしょう。『いったんコンサル費用はドブに捨てたつもりで使うから、その後の効果をみんなで頑張って出そう』と考えられる企業だけが起用すべきです」
発注経験のあるビジネスパーソンの口コミで探す
では、経営コンサル会社を使う際の注意点・留意点とは何か。
「発注先は発注経験のあるビジネスパーソンの口コミで探すこと、そして事前に予算感を決めて伝えておくこと、複数社から提案を受けて決めることが重要です。これから一緒にさまざまなことに取り組むパートナーでもあるので、見積を提示してもらってからの価格交渉はあまりお勧めしません。提案を受ける前に予算感を伝えて、それを無視した提案をしてくるコンサル会社であれば、こちらに寄り添ってこない会社だと判断して発注しないことをお勧めします。例えば本来であれば3000万円くらいかかる案件についてクライアントの予算が1000万円だったとして、ちゃんとしたコンサル会社であれば『3000万円ではこんなことができるけど、1000万円だったらここまでになります、あるいはこんなやり方になります』というかたちでパターン提示をしてくるものです」(中沢氏)
(文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表)