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なぜAIを導入しても採用は変わらないのか…「丸投げ採用」の終焉

2026.08.30 05:55 2026.08.29 19:22 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松田美里/人事労務コンサルタント、社会保険労務士

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●この記事のポイント
東京労働局が2026年3月に示したRPO(採用代行)の業務区分の見解と、キリンホールディングス・ローソンのAI面接導入事例を基に、大手・中堅企業の人事が直面する「応募」「評価」「意思決定」3つの採用ボトルネックの構造を解説。歩留まりデータを用いた社内稟議の通し方まで具体的に提示する。

 当サイト2026年8月24日付記事『採用代行(RPO)・定型業務とコンサル業務の境界線…東京労働局が示した見解』でお伝えした通り、東京労働局は2026年3月、採用代行(RPO)の業務範囲をめぐる見解を示した。求人票の掲載代行や指示された日程での面接調整といった「定型業務」は許可不要だが、候補者属性に応じたスカウト文面の作成・送信や応募者のスクリーニングは「有料職業紹介事業」の許可(職業安定法第30条)が必要な”コンサルティング業務”に該当するという内容だ。違反すれば1年以下の懲役または100万円以下の罰金という罰則も伴う。「外注に丸投げすれば効率化できる」という前提は、もはや通用しない。

 一方で、キリンホールディングスやローソンのように、AIと人の役割を明確に切り分けて採用の質を高めようとする企業の動きも加速している。キリンは2024年10月からAI面接官の試験運用を始め、人事評価者との一致度0.8以上という結果を出した上で2026年卒採用から本格導入。人事は「評価基準の設定」と「企業側の視点の構築」を担い、AIは先入観の影響を受けにくい客観評価を担当するという分業を敷いている。ローソンも書類選考通過者に対し、人事面接の前段階でAI面談を組み込み、面接官が事前にAIの分析結果を読み込んだ上で面接に臨む設計にした。同社人事企画部長の藤井大地氏は「30〜40分の面接だけで見極めようとすると、どうしても先入観やバイアスが入りやすい」と、導入の狙いを語っている。

 だが、RPOに頼れず、AIツールを入れたにもかかわらず「欲しい人材が採れない」「現場の面接官から不満が出る」という声は、むしろ増えている印象がある。原因はツールの性能不足ではない。社内の意思決定プロセスと評価・惹きつけのボトルネックを放置したまま、表面的な効率化だけを図っていることにある。RPO規制とAI普及という2つの環境変化は、本来なら採用活動を健全化する方向に働くはずだ。それにもかかわらず現場で「目詰まり」が起きているとすれば、問題の所在は外部環境ではなく、自社の内部プロセスにあると考えるべきだろう。

●目次

なぜいま自社の採用が「目詰まり」を起こすのか

 RPO規制とAI導入の狭間で、多くの企業の採用現場では3つの構造的なボトルネックが同時多発的に起きている。

 一つ目は、応募・スカウトの目詰まりだ。RPOへのスカウト送信丸投げが難しくなり、AIスカウトツールへの切り替えを進める企業は多いが、候補者側も生成AIで職務経歴書やエントリーシートを作成するようになった結果、「AI対AIの表面的なマッチング」が起きやすくなっている。文面は洗練されていても、双方の実態が乗っていないやり取りが増え、選考の初期段階での歩留まりが悪化しやすい構造だ。

 二つ目は、見極め・評価の目詰まりである。ジョブ型採用や飛び級選考など「選考の多様化」を掲げる企業は増えているが、実際の評価運用は現場マネジャー任せになっているケースが少なくない。一次選考(AIまたは人事)と最終選考(現場マネジャー)とで評価基準が分断されていると、現場は結局「従来型の定型的な人材」を求めてしまい、異能人材や非連続なキャリアを持つ候補者を弾いてしまう。キリンやローソンの事例が示唆するのは、AIを入れること自体ではなく、「AIの評価結果を現場がどう解釈し、最終判断にどう接続するか」という運用設計の重要性である。

 三つ目は、意思決定・アトラクトの目詰まりだ。大手企業を中心に賃上げや条件競争が激化し、候補者側の意思決定は早まる傾向にある。新卒の内定辞退率はここ数年60〜65%台という高水準で推移しており、直近の調査では大手企業の50〜54%が「内定辞退が想定より多かった」と回答している。RPO頼みだった企業ほど、内定出しや条件提示に至る社内稟議のスピードが遅く、最終局面で優秀層を他社に奪われやすい。

 なお、東京労働局は今回の見解に合わせて、企業側が確認すべき点として、①委託業務内容の具体的な洗い出し、②委託先の許可保有状況の公開情報での確認、③契約書への業務範囲の明記、④実運用が契約範囲を超えていないかの定期点検、⑤判断が難しい場合の労働局など専門家への相談——の5点を挙げている。これは規制強化というより、外部委託と自社の意思決定領域の境界線を企業自身に問い直させる整理だと捉えるべきだろう。

 人事労務コンサルタントで社会保険労務士の松田美里氏は次のように指摘する。

「RPO規制は業界を締め付けるためのものではなく、”どこまでを外部委託でき、どこからが自社の意思決定領域か”を明確にする整理と捉えるべきです。規制対応を機に業務範囲を棚卸しすること自体が、目詰まりの可視化につながる企業も少なくありません」

「AI・RPOに委ねる領域」と「内製化すべきコア領域」の再定義

 目詰まりを解消する出発点は、採用業務を「切り離してよい領域」と「自社が握るべき核心領域」に再定義することだ。

 具体的には、次のように切り分けて考えると整理しやすい。

切り離してよい領域(AI・定型作業として外部委託・自動化が可能)
・募集要項やスカウト文面の下書き作成
・日程調整などの事務作業
・法規制に抵触しない範囲での定型的な一次スクリーニング

内製・刷新すべき核心領域(人事にしかできない意思決定)
・自社で本当に必要な人材像の言語化(コンピテンシーの再定義)
・現場マネジャーへの面接官トレーニング(評価基準の目合わせ)
・意思決定(オファー提示)までのリードタイム短縮に向けた社内ルールの刷新

 前者はAIやRPOの得意分野であり、東京労働局の見解に沿う形で委託範囲を契約書に明記すれば、引き続き外部の力を活用できる。後者は、いずれも「AIに任せれば解決する」性質のものではない。キリンが「評価基準の設定」を人事の役割として明確化したように、AIに評価を委ねる前提として、まず人側の評価軸をそろえる作業は避けて通れない。評価基準が現場ごとにばらついたままAIの分析結果だけを渡しても、判断材料が増えるだけで意思決定の質は上がらないからだ。

 HR領域でAI活用の導入支援も手がける松田氏はこう話す。 

「AI面接や適性分析ツールを入れても、最終的な合否判断の権限と責任の所在が曖昧なままでは、現場は結局『無難な人材』を選びがちです。ローソンのように、AIの分析結果を面接官が読み込んでから面接に臨む設計にするなど、人とAIの接続点を業務フローとして具体的に設計できるかどうかが分かれ目になります」

人事責任者が社内の意思決定を通す3つのステップ

 自社の「詰まり」を経営陣や事業部に伝え、予算や制度の変更を勝ち取るには、次の3ステップが有効だ。

 第一に、歩留まりデータによる目詰まりポイントの可視化である。「なんとなく採れない」という感覚論ではなく、応募数や内定数に加えて、コンプライアンス厳格化に伴う外部委託コストの変化、二次面接離脱率、オファー辞退率を数値化し、自社の採用プロセスのどこに壁があるかを役員会に提示する。数字にすることで、初めて経営陣との共通言語ができる。

 第二に、採用予算の再配分申請である。単なる作業削減ではなく、「候補者体験(CX)」と「現場教育」への投資へと切り替えるストーリーを描くことが重要だ。RPOへの委託費や単純作業向けツール費を見直し、浮いた予算を現場マネジャーの選考力向上トレーニングや、候補者への迅速なオファー提示に振り向ける。規制対応で外部委託の範囲が狭まる今は、むしろ予算の使い道を見直す好機とも言える。

 第三に、現場一体型選考への権限委譲と評価制度の見直しである。ジョブ型採用や飛び級選考を機能させるには、人事部門だけで完結させず、事業部長クラスを採用プロセスの設計段階から巻き込む必要がある。採用成果を現場側の評価項目にも組み込む合意形成ができれば、「採用は人事の仕事」という縦割り意識を崩し、現場が主体的に採用に関与するようになる。

「稟議を通す最大のコツは、規制やAIといった外部環境の変化を”脅威”としてではなく、”自社の意思決定プロセスを見直す口実”として提示することです。数字とともに、経営陣が納得できるストーリーを描けるかが鍵になります」(松田氏)

規制とテクノロジーの時代だからこそ「自社の意思決定力」が問われる

 RPO規制の厳格化により、「外部に丸投げして解決する時代」は終わりを迎えつつある。AIの普及により、事務作業のスピードや精度で他社と差をつけることも難しくなってきた。今後の採用力の差を分けるのは、ツールの導入数でも、外注先の選定でもない。自社のボトルネックを正確に特定し、人事責任者が主導して社内の評価基準と意思決定プロセスを変革できるかどうかである。

 規制とテクノロジーはいずれも、脅威ではなく、採用のあり方そのものを見直す契機として捉えるべきだろう。次に役員会の場に立つとき、「なぜ自社は採れないのか」を構造で語れるかどうか——それが、これからの人事責任者に求められる最も基本的な、しかし最も見落とされてきた力量なのかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松田美里/人事労務コンサルタント、社会保険労務士)

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公開:2026.08.30 05:55