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KDDI「menu」撤退とWolt日本撤退が突きつけた現実…8240億円市場を制するウーバーイーツ

2026.08.25 06:00 2026.08.24 20:01 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント
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menu公式サイトより

●この記事のポイント
KDDIが「menu」を2026年9月30日で終了・解散、同3月のWolt撤退に続く退場。8240億円規模(2025年)の国内市場でウーバーイーツが黒字化・一強体制を確立する一方、出前館は7期連続赤字、新興ロケットナウが急成長。通信キャリアの経済圏構想が通用しなかった理由を解説。

 KDDIは、傘下のフードデリバリーサービス「menu」について、2026年9月30日をもってサービスを終了すると発表した。運営会社menu株式会社は、レアゾン・ホールディングスが保有していた株式をKDDIが8月31日付で取得して完全子会社化した後、解散・清算する方針だ。KDDIは終了理由を「フードデリバリー市場を取り巻く競争環境の変化や今後の事業見通しを総合的に検討した結果」と説明している。

 この撤退は単独の出来事ではない。2026年3月には、フィンランド発の「Wolt」が日本市場から撤退している。運営元のDoorDashは「持続的な規模拡大と長期的な優位性を実現できると判断した地域に投資を集中する」という国際事業ポートフォリオの見直しの一環と説明した。コロナ禍の「巣ごもり需要」を追い風に急拡大した国内フードデリバリー市場は、2026年に入り、体力のないプレイヤーから退場していく「選別フェーズ」を迎えている。市場調査会社Circana Japan(NPD)によれば、2025年の国内デリバリー市場規模は8240億円と、コロナ前比では97.0%増の水準を維持しているものの、2023年の8622億円をピークに一度調整局面を経ており、市場が拡大を続ける一方で「勝ち残れる企業の数」は着実に絞り込まれつつある。

 本稿では、KDDIの「menu」撤退とWoltの日本撤退という二つの事例を手がかりに、なぜ通信キャリアの資金力や顧客基盤をもってしても、フードデリバリー事業で持続的な優位性を築けなかったのかを、プラットフォーム経済学の観点から読み解く。

●目次

通信キャリアが抱いた「経済圏×デリバリー」の野望と限界

 KDDIは2021年、menuに約50億円を出資し株式の約2割を取得した。狙いは明確だった。au PAY残高でのmenu決済対応、Pontaポイントの還元、そして2022年6月からはauスマートパスプレミアム会員向けに配達料が何度でも無料になる特典を導入するなど、フードデリバリーという「利用頻度の高い」サービスを、au経済圏に組み込むことでID連携とデータ活用を進め、顧客の囲い込みを強化する構想だった。通信料収入が伸び悩むなか、非通信領域での収益源とタッチポイントの拡大は、大手キャリア各社が共通して掲げてきた経営課題である。

 しかし、この構想は「アセット」と「オペレーション」のミスマッチという壁にぶつかった。au PAYやPontaポイントといった決済・ポイント基盤は、あくまでユーザーの利便性を高める付加価値にすぎず、フードデリバリー事業の核心的な競争力にはならなかった。配達員の確保、加盟店の開拓・営業、都市ごとの配送網の最適化といった「泥臭いリアルオペレーション」は、通信キャリアが従来培ってきたケイパビリティとは全く異なる筋肉を要求する。

 同様の構図は、ソフトバンクグループが議決権の一角を握るLINEヤフーが出資する出前館にも見て取れる。出前館は2019年8月期以降、実に7期連続で最終赤字を計上しており、LINEヤフーから300億円を超える出資を受けながらも黒字化の道筋は依然として見えていない。通信・IT大手が持つ巨大な資金力とポイント経済圏があっても、配送現場のオペレーション効率という「地上戦」では埋めきれない差が存在することを、menuと出前館の双方が証明した形だ。

「通信キャリアがデリバリー事業に参入する際、ポイントや決済といった”経済圏アセット”を過大評価しがちな傾向がある。しかしユーザーが本当に評価するのは配達の速さや正確さ、加盟店の豊富さといった現場のクオリティであり、それは資本力だけで即座に構築できるものではない」(戦略コンサルタント・高野輝氏)

両面市場が生んだ「勝ち負けの残酷な差」

 フードデリバリーはユーザー・加盟店・配達員という複数の主体が同時に価値を生み出す「多面市場」の典型例である。ユーザーが増えれば加盟店にとっての魅力が増し、加盟店が増えればユーザーの選択肢が広がる。さらに配達員が多いほど配達時間が短縮され、ユーザー体験と店舗の売上機会がともに向上する。この好循環が一定の規模を超えると指数関数的に効いてくる「ネットワーク効果」こそが、プラットフォームビジネスの勝敗を分ける最大の変数だ。

 Uber Eats Japanは、全国12万店舗の加盟店と10万人規模の配達パートナーを擁し、2023年から2025年にかけて3年連続で黒字を計上、2026年1月には単月として過去最高の売上を記録したという。さらに2026年3月20日からは、加盟店から受け取る手数料を引き下げることで「店頭と同じ価格」でのデリバリーを実現する新施策を開始した。従来、デリバリー利用時の価格は店頭より3〜4割程度上乗せされるケースが少なくないと指摘されてきたが、この価格差を解消することで、出前館からのシェア奪取を一段と加速させる狙いがあるとみられる。

 一方のmenuやWoltは、クーポンや還元キャンペーンによる一時的な顧客獲得はできても、配達員の確保コストやマッチングの効率でグローバル大手に太刀打ちできず、赤字が常態化していた。出前館も同様に、2022年8月期には364億円という巨額の営業損失を計上し、2025年8月期も約49億円の営業損失を計上している(売上高はピークだった2023年8月期の514億円から2025年8月期には397億円まで減少)。ユーザー獲得のための広告宣伝費やクーポン、配送網整備費がかさむ一方で、値上げには消費者の抵抗感が強く、収益構造の改善が進みにくいという「構造的な逆風」が、ウーバーイーツ以外の各社に等しくのしかかっている。

「フードデリバリーのような多面市場では、いったんネットワーク効果で先行者が規模の差をつけると、追随する側は同じ土俵での消耗戦を強いられる。クーポン競争は短期的な会員数増加にはつながっても、配達員という有限のリソースを奪い合う構図になりやすく、収益性の改善にはつながりにくい」(同)

「ウーバーイーツ一強」と新勢力の時代へ

 Woltとmenuが相次いで撤退したことで、日本のフードデリバリー市場は事実上、ウーバーイーツと出前館の二強、なかでもウーバーイーツが優位に立つ構図が鮮明になった。報道によれば両社で市場の9割前後を占める寡占状態にあるとされる。

 その足元では、2025年1月に日本に上陸した新興サービス「ロケットナウ」が急速に存在感を高めている。市場調査会社Sensor Towerの分析では、上陸から10カ月間のダウンロード数は220万件超と、同期間のウーバーイーツ(200万件超)を上回りトップに立った。ただしその内実は、有料の検索・ディスプレイ広告経由の獲得が過半を占めるなど広告投資に強く依存した成長であり、既存2サービスの6〜7割がオーガニック獲得である点とは対照的だ。また55歳以上の利用者比率がウーバーイーツの2倍に達するなど、これまでデリバリーの主要顧客層ではなかった中高年層の開拓に成功している点は注目に値する。

 国内ネイティブ勢として唯一残る出前館は、2026年8月期には経費削減により最終赤字を40億円まで縮小させる計画を示すなど、収益改善に軸足を移しつつある。東京都内での実質的な配送料無料施策なども展開し、シェア防衛を図る一方、フード以外の日用品・生鮮食品配送(クイックコマース)領域での差別化も模索されている。ただし、ウーバーイーツが黒字化を達成したとみられるなかで、同じ土俵での価格・クーポン競争を続けることの持続可能性には疑問符もつく。

「撤退」と「ポートフォリオ戦略」の教訓

 今回のKDDIの対応で注目すべきは、赤字をだらだらと垂れ流すのではなく、完全子会社化のうえで速やかに解散・清算を選んだという意思決定のスピードだ。少数株主の意向調整コストを排除し、事業を一気に清算するスキームは、大企業が不採算事業から撤退する際の一つのモデルケースとして参考になる。損失の最小化という観点では、合理的な判断だったと評価できるだろう。

 この一連の出来事から、事業ポートフォリオを検討するビジネスパーソンが得られる教訓は大きく二つある。第一に、自社の既存アセット(通信基盤、ポイント経済圏、顧客データなど)が、参入しようとする市場の「核心的な価値」に直結するかどうかを冷静に見極める必要がある。決済やポイントは付加価値にはなり得ても、フードデリバリーのような労働集約型のオペレーション事業においては、それだけで競争優位の源泉にはならない。第二に、グローバル資本のスケールメリットが支配する多面市場のプラットフォームビジネスにおいては、自社アセットとの掛け合わせだけで対抗するには限界があり、独自の顧客体験や隣接領域とのシナジーなど、模倣困難な差別化要因を別途構築できるかが問われる。

「非中核事業からの撤退判断は、経営体力があるうちに実行できるかどうかが分かれ目になる。KDDIのケースは、赤字の連続計上を避け、株式取得と清算を一体で進めることで意思決定コストを圧縮した点で、他業種の事業ポートフォリオ見直しにも応用できる示唆がある」(同)

 KDDIの「menu」撤退とWoltの日本撤退は、通信キャリアという巨大な資本と顧客基盤をもってしても、グローバル水準のネットワーク効果には容易に対抗できないという、プラットフォームビジネスの厳しい現実を改めて示した。今後1〜2年は、ウーバーイーツと出前館の二強体制のもとで、ロケットナウのような新興勢力がどこまで自立的な成長軌道を描けるかが焦点となる。読者企業が新規事業のポートフォリオを検討する際は、自社の強みが参入市場の「核心的価値」に本当に直結するのか、今回の事例を教訓に、今一度冷静な検証を行う価値があるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)

高野輝/戦略コンサルタント

大手総合商社を経て独立。流通・小売から食品・飲料、自動車、エネルギー産業など、多様な領域で経営コンサルティングサービスを提供。

公開:2026.08.25 06:00