EV普及のカギ握る全固体電池、実用化が目前…出光興産とトヨタが世界をリード、中国勢も追い上げ

●この記事のポイント
・EV普及のカギを握る全固体電池、実用化が目前に。航続距離の伸長や充電時間の短縮、電池の長寿命化が期待される
・出光は固体電解質の原料である硫化リチウムの製造技術に強みを持ち、大型製造装置を竣工させる予定
・全固体電池搭載車を2027~28年に市場導入、量産化に向けた検討を推進
EV(電気自動車)普及のカギを握るといわれる全固体電池の実用化が目前に迫りつつある。航続距離の伸長や充電時間の短縮、電池の長寿命化が期待できるが、技術開発で世界をリードするのがトヨタ自動車と出光興産だ。出光は全固体電池の実用化においてカギを握る固体電解質の原料である硫化リチウムの製造技術に強みを持ち、2027年6月には硫化リチウムの大型製造装置を竣工させる見込みだ。トヨタが2027~28年に市場に導入するEVに両社が開発する全固体電池が搭載される予定。一方、技術開発では日本がリードしてきたが、近年では中国政府が国策として開発を推進していることもあり、中国勢が急激に日本を追い上げている。日本はどのように優位性を維持していくのか。そして、量産化のメドは立っているのか。出光興産に取材した。
●目次
出光とトヨタの協業
トヨタとの協業について、出光興産は次のように説明する。
「まずは2027~28年の全固体電池実用化を目指します。また、その先も含め、固体電解質の量産技術開発や生産性向上、サプライチェーン構築に両社で取り組んでまいります」
具体的には以下の内容だ。
・第1フェーズ:硫化物固体電解質の開発と量産化に向けた量産実証(パイロット)装置の準備
出光とトヨタは、双方の技術領域へのフィードバックと開発支援を通じ、品質・コスト・納期の観点で、硫化物固体電解質を作り込み、出光の量産実証(パイロット)装置を用いた量産実証につなげる。
・第2フェーズ:量産実証装置を用いた量産化
出光による量産実証(パイロット)装置の製作・着工・立ち上げを通じた、硫化物固体電解質の製造と量産化を推進する。トヨタによる、当該硫化物固体電解質を用いた全固体電池とそれを搭載した電動車の開発を推進し、全固体電池搭載車の2027~28年市場導入を、より確実なものにする。
・第3フェーズ「将来の本格量産の検討」
第2フェーズの実績をもとに、将来の本格量産と事業化に向けた検討を両社で実施する。
前述のとおり、全固体電池の実用化を左右する固体電解質の原料である硫化リチウムの製造技術で、出光は強みを持つ。2027年6月には、硫化リチウムの大型製造装置を千葉事業所に竣工させる予定だ。
「硫化リチウムは全固体電池で使用する固体電解質の原料のひとつです。建設を決定した大型製造装置は、世界トップクラス(電池容量にして3GWh/年相当)の製造能力を持ちます」
大型製造装置設置による硫化リチウムの供給体制確立
硫化物系の固体電解質は水に触れると人体に有害な硫化水素ガスが発生するなど、扱いが難しい面がある。出光は、どのように硫化リチウムを量産するための技術を確立することができたのか。
「オイルショック以降、石油精製の副生物として得られる硫黄成分の有効活用法を探索するなかで、とある研究員が硫化リチウムをプラスチックの製造に応用する検討をはじめ、硫化リチウムの量産技術を確立しました(1994年に特許出願)。この技術をもとに、その後も高品質な硫化リチウムを量産するための知見と技術力を培ってきました」
では、大型製造装置設置による硫化リチウムの供給体制確立により、トヨタ、および日本のEV普及にどのような影響を与える可能性があるのか。
「トヨタと共に2027~28年の市場導入を目指している全固体電池には、当社の固体電解質が使用される予定です。この固体電解質を製造する大型パイロット装置についても、25年度内には最終投資判断を行う計画です。固体電解質の原料である硫化リチウムの量産体制を確立することは、固体電解質の量産化に不可欠であり、全固体電池の開発推進に資するものです。
全固体電池は、EVにおける出力の向上、航続距離の拡大、急速充電時間の短縮、そして、電池の長寿命化への寄与など、様々な価値をもたらすことが期待されています。当社は高性能な固体電解質をお届けし、全固体電池の実用化、社会実装を推進します。これによって、日本におけるEVの普及拡大に寄与するとともに、日本の蓄電池産業の競争力向上にも貢献できると考えております」
中国勢の追い上げ
気になるのは中国勢の追い上げだ。出光はどのような点で優位性を打ち出していくのか。
「中国においても全固体電池、固体電解質の開発がスピードアップしていることは認識しています。当社は材料メーカーなので、材料面で品質とコストの両面を常に向上させながら、世の中に広く使っていただける固体電解質の供給を通して全固体電池の普及に貢献するスタンスです。当然、知財面の戦略もしっかりとたてています」
最後に量産化に向けた見通しについて聞いた。
「トヨタ自動車と進める、2027~28年の全固体電池実用化へ向けては、掲げたスケジュール通りに着実に進捗しています。まずは、きっちりとこれを仕上げていくことに全力を注ぎます。その先の量産化については、実用化をもって動向や普及スピードを見極めていく必要があります。そのため、今の時点でははっきりとした時間軸はいえませんが、当社としては全固体電池を搭載したEVが世の中に出てからが、真のスタートだと考えています。全固体電池の価値が世の中で認められ、可能性がより広がるよう、固体電解質の開発や量産技術のブラッシュアップを継続してまいります」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











