ビジネスジャーナル > 企業ニュース > ホンダはEVのゲームチェンジャー?
NEW

ホンダは世界のEVのゲームチェンジャーになる…世界発、全固体電池の実用化の可能性

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
【この記事のキーワード】, ,
ホンダは世界のEVのゲームチェンジャーになる…世界発、全固体電池の実用化の可能性の画像1
ホンダのe:HEV「オデッセイ」(ホンダのHPより)

 本田技研工業(ホンダ)は、生き残りをかけてEV分野の積極展開を図ろうとしている。EV分野で最も重要といわれるバッテリーは、中国や韓国の企業からの調達を増やす方針という。ホンダとしては調達先を確保して、EV分野のメジャープレイヤーの地位を確立したいとの思惑があるのだろう。

 同社は、基本的に“脱エンジン”を加速して自力での生き残りを目指している。その本命の一つがEVであることは間違いない。そのEVで生き残るためには、とにかくバッテリーの調達の確保が最大の課題となる。今後、世界の自動車産業ではEVシフトが加速する。異業種からの新規参入も増えるだろう。

 ホンダを取り巻く事業環境は厳しさを増す。生き残りのためにホンダは、国内でのコスト削減を急がなければならない。状況よっては、ホンダが国内のガソリンエンジン車の過剰生産能力の追加削減に踏み切る展開も想定される。その一方で、ホンダは先端分野の専門家の登用を急がねばならない。これから同社がどのようにして既存の製造技術と新しい理論や発想の結合を増やすが注目される。

EVの生命線のバッテリー調達を急ぐホンダ

 ホンダが海外企業からのバッテリー調達を急いでいるようだ。報道によると、同社は中国市場向けのバッテリーを最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)から調達する。また、北米市場では第2位の韓国LGエナジーソリューション(LGES)からのバッテリー調達を目指す。LGESはホンダがアライアンスを組むGMと合弁でバッテリーを生産している。LGESからの共同調達など、GMとホンダの協業は強化される可能性が高い。ホンダはエンビジョンAESCから国内向けにバッテリーを調達する。エンビジョンAESCは、もとは日産自動車とNECの合弁企業だった。カルロス・ゴーン時代のコストカットによってエンビジョンAESCは中国企業に売却された。

 ホンダは国内企業との合弁によってバッテリー生産を行っている。しかし、それによって世界のEVシフトに対応することは難しいとみられる。本来であれば、ホンダは技術面などで関係を築いてきた日本企業からの調達を目指したいはずだ。ただ、車載バッテリー世界3位のパナソニックは、米テスラとトヨタへの納入が多い。ホンダがパナソニックからの調達を増やすことは容易ではないと考えられる。

 その一方で、世界のEVシフトは加速している。米欧の大手自動車メーカーの販売台数に占めるEVの割合は上昇している。EV需要の増加によって、バッテリーが不足し始めたとの見方も出始めた。その状況下、中韓のバッテリーメーカーが急速に設備投資を積み増してきた。中国のCATLは共産党政権から産業補助金や土地の提供を受けている。そのためコスト構造が根本的に異なる。1月にLGESは新規株式公開を行い、約1.2兆円を調達した。北米、欧州、およびアジア地域で、LGESは調達した資金を投じて車載バッテリー生産能力を強化するだろう。

 EVの性能は、コストの3~4割を占めるバッテリーに大きく左右される。コストを抑え、必要な性能を発揮できるバッテリーの調達体制が、自動車メーカーの収益に大きく影響する。日本には中韓を上回る勢いで生産能力を強化できる企業が見当たらない。海外メーカーからバッテリーを調達し当面のEVシフトに対応せざるを得ないというのが、ホンダ経営陣の本音だろう。

次世代バッテリー開発にも注力

 その一方で、ホンダは全固体電池の開発を急ぎ、ハイブリッド車と同等の航続距離を持つEVの本格投入を目指している。専門家によると、今日EVに使われているリチウムイオンバッテリーは、エネルギー密度が頭打ちを迎えているようだ。ケースが破損した際に液漏れが発生して火災が起きる危険性もある。

 注目したいのが、ホンダが全固体電池の実用化を前倒しで実現する可能性だ。2021年にホンダはF1から撤退したが、超高出力軽量バッテリーセルを実戦に投入した。マシンのクラッシュ時の安全性の確保などのために、それが全固体電池であった可能性は高い。全固体電池の特許出願に関してホンダをはじめ国内自動車産業は世界的に優位な地位を手に入れているといわれる。仮に世界最速で全固体電池を実用化できれば、ホンダがEVシフトのゲームチェンジャーになる可能性がある。

 ホンダは次世代バッテリー製造技術の確立のために、アライアンスも強化している。その一つが、米国のスタートアップ企業であるSESへの出資だ。ホンダはSESとリチウム金属バッテリーの共同開発を進める。リチウム金属バッテリーでは、負極にリチウムを用いる。容量は今日使われているバッテリーを大きく上回るといわれる。ただし、その安全性には課題が多いようだ。なお、米SESはGMや韓国の現代自動車、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業などとも提携している。

 1990年代以降、電機産業をはじめ国内経済全体が新興国企業の成長にうまく対応できなかった。その結果、当初は日本が強みを発揮したリチウムイオンバッテリーなどの分野で、日本企業は中国や韓国の企業に追いつかれた。EVシフトによって、世界の自動車産業で国際分業が進みつつある。今後、先端分野での製造技術を持つ企業の買収も世界全体で増える。これまで以上に資金力をはじめ、経営体力がものをいう時代が本格到来するだろう。ホンダはあきらめずに、次世代のバッテリー製造技術の実現を目指さなければならない。

ホンダにとって死活問題の構造改革

 今後、ホンダは構造改革に集中するだろう。特に、国内のリストラは加速する可能性が高い。その象徴がマザー工場だった狭山工場の生産終了だ。狭山工場はホンダの成長をけん引したミニバンの「オデッセイ」の生産など、同社の自動車製造技術の向上をけん引した。4輪車のエンジンやトランスミッションの生産を行う栃木県の真岡工場も閉鎖される。

 ホンダが事業運営体制を強化してきた中国ではEVの販売が好調だ。中国でのEV生産、販売体制の強化は避けて通れない。国内でホンダはコスト削減を急ぎ、浮き出た資金をバッテリー工場建設や次世代のバッテリー開発に大規模に再配分しなければならない。そのスピードと規模が中長期的なホンダの生き残りに決定的影響を与えるだろう。

 主力工場の閉鎖によって、ホンダ経営陣は組織全体に電動化シフトへの対応を加速させることを明示したといえる。ただし、すべての人が変革についていくことができるとは限らない。懸念されるのが、士気の低下だ。企業の成長力が高く業績も給料も増える場合、人々のやる気は高まる。しかし、国内での生産台数の削減や海外事業の強化、F1撤退は組織心理を動揺させる恐れがある。環境変化への対応よりも、既存の業務への固執が強まることもある。どちらかといえば後ろ向きの心理を打破し、前向きなものに変えるのが経営者の腕の見せ所だ。

 具体的な取り組みの一つとして、ホンダ経営陣はバッテリーや自動運転のソフトウェアなどを開発する専門人材の獲得を急ぐだろう。脱炭素やデジタル化を背景に、先端分野の人材は世界のあらゆる企業が必要としている。賃金も上昇している。ホンダは従業員に学び直しの機会を提供しつつ、既存の雇用体系など日本の商慣習を打破しなければならない。

 専門人材が活躍する体制整備は、エンジン車の製造技術と新しい発想や理論の結合を促進するだろう。突き詰めて考えると、ホンダが世界経済のゲームチェンジに対応するためには、経営風土を根本から変えることが求められる。同じことが多くの日本企業に当てはまるはずだ。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

ホンダは世界のEVのゲームチェンジャーになる…世界発、全固体電池の実用化の可能性のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!