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ホンダ・トヨタ・日産、ハンズオフ運転の車が出揃う…日本で普及するのか?カギと課題

2025.07.03 2025.07.02 17:34 企業
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ホンダ「アコード」の新グレード「e:HEV Honda SENSING 360+」(同社公式サイトより)

●この記事のポイント
・ホンダは「アコード」でハンズオフ運転機能を搭載したグレードを発売
・中国のハンズオフ機能は一般道と高速道路を走行して目的地まで自動運転
・日本のメーカーは安全を非常に重視しており、ハンズオフ機能の実用化には慎重

 ホンダは5月、「アコード」(国内仕様)でハンズオフ(手放し)運転機能であるADAS「Honda SENSING 360+」を搭載したグレードを発売。これで、ハンズオフ運転対応の量販車種を販売する自動車メーカーはトヨタ自動車、日産自動車を含めた3社になるが、各社のハンズオフ運転技術には違いはあるのか。また、日本で今後、ハンズオフ運転対応車が広く普及する可能性はあるのか、普及に向けた課題・ハードルは何なのか。そして普及することにどのような意義があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

中国のハンズオフ運転は「E to E(End to End)」

  各社のハンズオフ運転技術には、それぞれ特徴や違いはあるのか。自動車技術のコンテンツ制作を専門とするオートインサイト株式会社代表で日経BP総研未来ラボの客員研究員を務める鶴原吉郎氏はいう。

「どのメーカーも基本的な機能としてはほぼ同じで、高速道路限定での手放し運転、車線変更支援、駐車支援のような機能などが利用できます。アクセル、ブレーキ、ハンドルなどの操作は自動化されていますが、人間がシステムの動作状況を監視する必要がある自動運転『レベル2』のシステムと位置づけられます。車線変更支援は、時速100kmに設定して高速道をハンズオフ走行中に、先行車が遅い速度で走っているような場合に、追い越し車線が空いているかをレーダーとカメラが確認したうえで、車線変更をドライバーに提案し、ドライバーがウインカーレバーを操作すると車線変更に同意したと認識して、車が車線変更のためのハンドル操作を支援するというものです。ちなみに車線変更する際には、ドライバーはハンドルに手を添えておく必要があります」(鶴原氏)

 日本ではハンズオフ運転の機能を搭載した車は普及しているのか。

「トヨタの車種でハンドオフ機能が設定されているのはレクサスのLSであり、月間の販売台数は100台前後です。また、ハンズオフ機能は『Advanced Drive』というオプション装備の一部で、標準搭載されているものではありません。日産の車種としてはスカイライン、アリア、セレナで、量販車種のセレナは2024年度の販売台数が約8万台であり、ハンズオフ機能がついたプロパイロット2.0を搭載しているのは、そのうちの約10%にあたるルキシオンという最上級グレードのみです。ホンダは5月末に商品化したばかりなのでほとんど実績はありません。結果として、ハンズオフ機能を搭載した車は、国内では新車販売全体の1%にも満たない比率ということになります」(鶴原氏)

 海外の状況をみてみると、中国で比較的普及が進んでいるという。

「日本で商品化されているハンズオフ機能は高速道路限定ですが、中国では『E to E(End to End)』といってナビゲーション上で目的地を指定すると、一般道から高速道路までシームレスに運転操作を支援してくれる機能が実用化されています。この機能は『NOA(Navigate on Autopilot)』と呼ばれ、運転操作は自動化されていますが、人間はシステムの動作状況を監視する必要がある『レベル2』のシステムなのは日本メーカーのハンズオフ機能と同様です。新車全体のうち一般道までカバーするNOAを搭載する車の比率は1%程度と言われていますが、高速道路限定のNOA機能は7%程度と、日本よりもかなり普及が進んでいます。最近ではBYDが全車種に価格を変えないままでNOAを標準装備すると発表しました。上位クラス以外の車種のハンズオフ機能は高速道路限定ですが、業界最大手のBYDが低価格の車種にもNOAを標準搭載したことで、中国におけるNOAの普及が加速しそうです。

 中国で一般道までカバーするNOAが日本に先駆けて実用化された背景には、理系の大学卒業生の人数が日本に比べて圧倒的に多く、ソフトウエア技術者を確保しやすいという点があげられます。また、NOAのような機能を動作させるには高性能の半導体が必要なので、電力消費量が多いのですが、中国ではEVが普及しているので、電力を供給しやすいという面もあるでしょう」(鶴原氏)

使いやすく、誤動作が生じないようにすることが普及のカギ

 日本であまり普及していない理由は何なのか。

「日本のメーカーは安全を非常に重視しており、ハンズオフで走行している車で事故が起きるとブランドが大きく棄損するので、交通状況が複雑な一般道での実用化には慎重な姿勢です。一方、中国は最新技術をめぐる競争が激しく、さらに消費者が新しい技術に比較的寛容な傾向があるため、普及が進んでいる面はあるかもしれません。ただ、先日、中国小米(シャオミ)のEVでNOAを動作中に高速道路で死亡事故が起き、中国の当局が規制を強める可能性も出てきました。NOAでは先ほども触れたように、ドライバーはシステムの動作状況を監視する義務があるのですが、メーカーが先進装備の搭載を競うあまり、そうしたことをユーザーにきちんと周知徹底してこなかったのではないかという空気が強まっています」(鶴原氏)

 今後、日本でハンズオフ搭載機能の車が広く普及する可能性はあるのか。

「例えば日産は自動運転技術のベンチャー企業である英ウェイブ・テクノロジーズと協力して都市部でもハンズオフ機能を実現するADAS(運転支援機能)を2027年から実用化すると発表しています。同様にホンダも27年に都市部でハンドオフ運転ができるような運転支援機能を搭載する車を投入すると発表しています。そのためには、高い性能を持ちつつ消費電力を抑えた半導体を開発していく必要があるでしょう。また、一般道での運転支援機能を実現するには『三種の神器』として、カメラ、ミリ波レーダー、ライダー(レーザー光線を使ったセンサー)が必要と言われていますが、レーザー光線を使ったセンサーのコストが現状ではまだ高いのが過大になっています。

 ただホンダは、できるだけコストを抑えて小型車クラスにもハンズオフ機能を搭載したいと説明しており、ライダーを搭載しない方向で検討しているようです。もし普及価格帯の車にも搭載されるようになれば、普及が進む可能性があります。

 ハンズオフ機能のような運転支援技術が、高齢ドライバーによる事故の削減につながれば普及の意義は大きいといえます。ただ、現在の運転支援機能は操作が簡単とはいえず、高齢者が十分活用しているとは言い難いと感じます。使いやすく、かつ誤動作が生じないようにすることが普及のためには欠かせないと思います」(鶴原氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鶴原吉郎/オートインサイト代表)

鶴原吉郎/オートインサイト代表

鶴原吉郎/オートインサイト代表

1985年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社、新素材技術の専門情報誌、機械技術の専門情報誌の編集に携わったのち、2004年に自動車技術の専門情報誌「日経Automotive Technology」の創刊を担当。編集長として約10年にわたって、同誌の編集に従事。2014年4月に独立、クルマの技術・産業に関するコンテンツ編集・制作を専門とするオートインサイト株式会社を設立、代表に就任。
オートインサイトの公式サイト