トヨタの中国ファーウェイOS、ホンダのディープシーク搭載は日本勢の敗北宣言なのか?

●この記事のポイント
・トヨタは新型EVに中国ファーウェイ製OSを、ホンダはディープシークを搭載する
・中国ではファーウェイのエコシステムのユーザが多いので、利便性を重視
・中国の自動車市場はかなり閉ざされた環境のなかで独自の進化を遂げつつある
トヨタ自動車は中国市場向け新型EV(電気自動車)に中国・華為技術(ファーウェイ)製OSを搭載する。ホンダも中国市場向け新型EVに今後、中国のAI(人工知能)・DeepSeek(ディープシーク)を搭載すると発表した。またトヨタ・ホンダの2社に加え日産自動車は自動運転技術に中国新興企業・モメンタの技術を採用する。「EVや自動運転ソフトウェアの開発については、中国勢が日本勢の一歩も二歩も先を行っている」(自動車メーカー関係者)との声もあるが、日本の大手自動車メーカーも、最先端のソフトウェアについては中国企業の力を借りないと競争に勝てないどころかスタート台にも上がれない状況になりつつあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
中国の特殊事情
日本の自動車メーカーのソフトを含む電動車関連の技術開発が遅れている背景には、日本市場におけるEV普及の遅れがある。日本自動車販売協会連合会の発表によれば、2024年の国内のEV販売台数は前年比33%減の5万9736台。全新車販売のうちEVが占める比率はわずか1%台だ。一方、中国では政府によるEV普及政策の影響もあり、24年の新車販売台数に占めるEVやPHV(プラグインハイブリッド車)の割合は約4割にも上る。BYDをはじめ、高性能と低価格をウリにする中国EVメーカーが世界で徐々にシェアを拡大させつつあり、四半期ベースの世界販売台数ではBYDがテスラを上回る期も出現。2025年暦年ベースではBYDがテスラを抜いて世界EV市場シェア1位に躍り出るとの見方も強い。
自動車技術のコンテンツ制作を専門とするオートインサイト株式会社代表で日経BP総研未来ラボの客員研究員を務める鶴原吉郎氏はいう。
「世界的には車載インフォテインメントシステムにグーグルのOSを使うケースが増えていますが、中国国内では政府の規制により基本的には使えないため、高度なインフォテインメント機能を実現するにはファーウェイのOSなどを使わざるを得ません。技術的に優れているということもありますが、中国ではファーウェイのスマホを使うユーザーも多いので、利便性の観点から車にもファーウェイ製のOSを搭載したほうがよいという判断でしょう。中国ではファーウェイのスマホ向けにさまざまなアプリも充実しており、中国で展開する車についてはファーウェイを採用したほうがいいと判断したと考えられます」
中国市場で独自の進化を遂げていく
中国以外で日本メーカーが中国製のOSやAIを搭載した車を投入する可能性は低いのか。
「アメリカや欧州では中国製のEVに高い関税を課している一方、日本では消費者の中国製品に対する感情的な要因もあり、中国車は先進国マーケットに入りにくいのが現状です。このためしばらくは、中国市場の中で独自の進化を遂げていくという展開が予想されます。ロシアなどへの輸出は増えていますが、アジアでは単なる輸出は受け入れられにくくなっています。例えばタイはEVやHV(ハイブリッド車)に対して補助金や税金の免除といった優遇策を取っていますが、海外メーカーの車についてはタイに工場をつくらないと優遇策が適用されません。
また、中国メーカーは南米市場でのシェア拡大にも力を入れていますが、2024年12月にはBYDのブラジル工場の建設現場で、労働者が非常に劣悪な環境で働いているとして当局が工事の中止を命じるという事態も起きています。つまり、中国のEVが歓迎されている世界の国や地域は限られており、結果として中国車は中国国内のかなり閉ざされた市場環境のなかで独自の進化を遂げています。
そういう中国市場で日本のメーカーが戦っていくには、やはり郷に入りては郷に従うことが必要でしょう。AIに関しても、中国語への対応や中国国内の情報を学習するという点で考えれば中国発のディープシークを採用するのは理にかなっています」
では、日本の自動車メーカーがソフトの技術面で中国勢に劣っているというわけではないということか。
「例えばファーウェイのHarmonyOS(ハーモニーOS)やディープシークに対抗できるほどのOSやAIモデルを日本企業が持っているのかといえば、残念ながら技術的に中国に対してビハインドになってるのは事実だと思います。ですが、日本のメーカーがOSやAI技術を自社に搭載するとしたら、欧米製の技術を搭載するのが自然であり、中国専用車に中国製のOSやAIモデルを搭載するのは、やはり中国市場向け、という特殊事情が大きいと考えられます」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鶴原吉郎/オートインサイト代表)