トヨタですら自前主義転換、自動運転技術はウェイモのほうが優れていると認めた?

●この記事のポイント
・トヨタ、ウェイモと自動運転の開発・普及における戦略的パートナーシップに関して基本合意
・世界の自動車メーカーは、ロボットタクシー向け自動運転技術開発については他社と提携するという流れ
・中国では自動運転機能を搭載している自動車が当たり前に。日系メーカーも対応を迫られる
トヨタ自動車は4月30日、グーグルの持株会社である米アルファベット傘下のWaymo(ウェイモ)と自動運転の開発・普及における戦略的パートナーシップに関して基本合意したと発表した。トヨタグループで新技術開発を担うウーブン・バイ・トヨタも協業の検討に加わる。これまでトヨタは自社で自動運転技術の開発を続けてきたが、「自前主義のトヨタですら、最先端技術にキャッチアップするためには他社と手を組まなくてはならなくなった」(自動車メーカー関係者)との声もあるが、背景には何があるのか。また、トヨタは自動運転については自社の技術よりもウェイモのほうが高いと認めたということなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
ロボットタクシー向けの自動運転技術と市販車向けは、個別に無関係に開発
まず、自動運転技術開発の世界的な動きについて、自動車技術のコンテンツ制作を専門とするオートインサイト株式会社代表で日経BP総研未来ラボの客員研究員を務める鶴原吉郎氏はいう。
「世界では自動運転のソフトウェア開発は、従来から2つの方向で進められてきたという経緯があります。一つは無人ロボットタクシー向け、もう一つは市販車向けです。ロボットタクシー向けでは、例えばウェイモが米国のサンフランシスコやフェックスの市内など特定のエリア内の道路環境などを人工知能に学習させ、それらのエリア内に限定して自動運転タクシーのサービスを展開しています。現在は、その適合する都市を徐々に広げているという状況です。
一方、市販車向けの自動運転は、特定の市内でしか使えないということでは実用化できず、全国で使える必要があります。そのため、まずは高速道路限定で使えるようにするというかたちで開発が進めらてきました。一般道は信号や横断歩道をはじめ非常に複雑な交通環境があるため、まずは高速道路から実用化をするというのが世界の自動車メーカー共通の進め方でした。
つまり、ロボットタクシー向けの自動運転技術と市販車向けは、これまでは別個に開発されてきたわけです。日本に限らず世界の自動車メーカーは市販車向けの自動運転技術の開発で手いっぱいなため、ロボットタクシー向け技術開発は自動運転技術の開発ベンチャーと提携するという流れになっています。例えば米ゼネラルモーターズ(GM)はクルーズという会社を買収してロボットタクシーの開発を進めてきました。ホンダはGMと提携してクルーズの技術を使おうとしていましたが、結局、GMはロボットタクシーからは撤退し、ホンダとGMも提携を解消しました。珍しいのが日産自動車の動きで、同社は独自技術でロボットタクシーを実用化する計画です。逆に市販車向けについては今年4月に英ウェイブ・テクノロジーズと次世代の運転支援システム『プロパイロット』を共同開発すると発表しました。
中国ではバイドゥが自動運転タクシーを数多く運行しており、傘下のアポロというプロジェクトではロボットタクシー専用の自動運転ソフトを開発して、これを市販車メーカーが作った車両に搭載してロボットタクシーを運行しています。
一方、米テスラは市販車で使っている自動運転技術を使って自動運転ロボットタクシー事業に乗り出そうとしています。
いずれにしても、ロボットタクシー用向けと市販車向けの自動運転ソフトは別々に開発されているケースが一般的なので、トヨタがウェイモと提携するという情報には、あまり意外感はありません」
トヨタが自前でロボットタクシーのような事業を手掛けていくのかは未知数
では、トヨタがウェイモと提携する真の目的は何か。
「トヨタが自前でロボットタクシー事業を手掛けていくのかどうかは、現段階ではまだわからない部分が大きいです。当面、トヨタはウェイモに車両を提供し、ウェイモが車両の運行を手掛けるという形で、日本国内でのロボットタクシー事業を展開することを目指すと見ています。トヨタの車両で自動運転ソフトを動かすためには、ウェイモもトヨタ車の制御ソフトウェアのかなり深い内部にまで入り込んでいくことになります。
通常、自動車のソフトは外部からのハッキングを防ぐために通信が暗号化されていたりして外からコントロールできないようになっているので、トヨタがウェイモに対してある程度、技術情報を開示しないと自動運転ソフトで車を動かすことはできません。ただ、単なる車両の提供に加えて技術情報の開示にまで提携が発展するのかどうかは、まだ分かりません。
両者の発表では、新たな自動運転の車両プラットフォーム開発における協業を目指すということになっていますが、トヨタが自社でロボットタクシー事業に乗り出すのか、今後も車両の提供という協力にとどまるのか、まだ不明な点が多いです」
中国ではさらに踏み込んだ動きがみられるという。
「中国市場ではホンダ、日産、トヨタが中国のモメンタというベンチャー企業の自動運転技術を採用するという報道が出ています。中国では生成AIを使った高度な自動運転がすでに普及しており、都市部でも手放し運転できる車が増えています。日本の自動車メーカーはこれに対応する必要があり、中国のベンチャー企業の力を借りる必要があるわけです。ちなみに手放し運転可能とはいえ、完全な自動運転ではなく、一応は人間が運転中に状況を監視する必要がある、いわゆるLEVEL 2です。
中国では自動運転機能を搭載している自動車が当たり前になりつつありますが、この技術を自社開発できているのはBYD、ミオ、シャオペンといった新興EVメーカーに限られます。北京汽車や上海汽車、第一汽車といった伝統的な自動車メーカーは、いずれも自社で開発できていません。中国では自動車がコンピューターオリエンテッド、ソフトウェアオリエンテッドになっており、伝統的な自動車メーカーはソフト開発で遅れをとっている面もあり、ファーウェイなどの力を借りて対応しているというケースが多いです。こうした例と同様に、日本のメーカーはモメンタをパートナーとして選んだということではないでしょうか」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鶴原吉郎/オートインサイト代表)