「エンジンのパワーが弱い」など何かと自動車評論家たちから不評だったトヨタ自動車「ルーミー」が売れている。4~9月の乗用車の新車販売台数ランキング(自販連公表/ブランド通称名別)では5位につけ、9月の単独車種別ランキングでは1位(10月31日付「ベストカーWeb」記事より)になったという。なぜルーミーは売れているのか。また、価格や性能などを考慮するとルーミーは「買い」といえるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
「家族みんなの定番スタイル」を掲げるコンパクトハイトワゴンのルーミーは、公式サイトからも子どもがいるファミリー層をターゲットとしていることがうかがえる。そのため、コンパクトなサイズながら居住スペースが広いのが特徴で、ボディサイズは全長3700mm(カスタムG-T、カスタムGは3705mm)×全幅1670mm×全高1735m、車内は室内長2180mm×室内高1355mm。別々にスライド可能な6:4分割可倒式リヤシートを採用して最大240mm前後に動かせ、リヤシートを前方にダイブイン格納できるため大きな荷物を格納できる。収納スペースも豊富で、幅広いバックドア開口部と低い荷室フロア高により重くて大きな荷物も出し入れしやすい。
安全性能面としては、衝突警報機能・衝突回避支援ブレーキ機能(対車両・対歩行者<昼夜>)、ペダル踏み間違え時の急発進を抑制するブレーキ制御付き誤発進抑制機能、全車速追従機能付ACC、パノラミックビューモニター、標識認識機能、オートハイビームなどを備え、充実している。最小回転半径は4.6mと小回り性能は軽自動車に匹敵し、2WDエンジンの燃料消費率は18.4km/L(WLTCモード)となっている。
ダイハツが「トール」をトヨタにOEM供給するもので、2016年の発売から8年が経過した現在も人気は続いており、24年10月(単月)の販売台数は1万2868台で新車販売台数ランキング3位につけており、年間10万台以上がコンスタントに売れるトヨタの人気車種となっている。もっとも安価なエントリーモデル(2WD/エンジン1.0L/乗車定員5名)は156万6500円と求めやすい価格である点も人気の理由となっている。
広大な室内空間と運転しやすさ、安全性能の高さ
そんなルーミーは「エンジンのパワーが弱い」という評判があるが、実際のところ、どうなのか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。
「ルーミーは5ナンバーハイトワゴンというカテゴリーの車種になりますが、そのなかでも室内空間の広さや運転しやすさ、両側スライドドアやウォークスルーによる横方向の移動のしやすさ、また多機能デッキボードを跳ね上げることで高さのある荷物を難なく積み込めるラゲッジスペースなど、従来から人気の高い軽自動車のスーパーハイトワゴンを研究し尽くして設計されている点が、売れている要因だと思います。エンジンパワーの評判については、最近の軽自動車がパワーも燃費も優れていることから比較すると低い評価になるのだと思いますが、実際に高速道路での走行性や坂道での加速などを比較した場合、これで十分だという評価も多いようです」
ルーミーの強み、弱みとは何か。
「いわゆるハイトワゴンというカテゴリーのなかでも、徹底的にマーケティングされている点が一番の強みだと思います。ハイトワゴンというカテゴリーはスズキ『ソリオ』によって開拓されたといわれており、同マーケットはソリオが長らく独占していました。なぜ独占できたかというと、軽自動車のスーパーハイトワゴンのカテゴリーとマーケットが重なるため、需要規模がさほど期待できないだろうと思われていたからです。しかし、軽自動車の主力であるホンダ『N-BOX』、スズキ『スペーシア』、ダイハツ『タント』などは、新車価格が上級グレードだと200万円を超えるものもあり、リッターカーと競合してきます。軽自動車は税金面などでメリットはありますが、乗車定員は4人ですし、軽自動車枠内のサイズにも限界があります。そこで自然とリッターカーのハイトワゴンに注目が集まり始めました。価格も同等で燃費や経済性も大差ないながら、5人乗りで広大な室内空間と運転しやすさ、安全性能の高さ、使いやすさを実現。軽自動車のスーパーハイトワゴンを徹底的に研究し、イイとこ取りした作りとなっています。その代表格がルーミーなのです。
ルーミーは従来のミニバンに多かった7人乗りではなく、あえて5人乗りに割り切って1座席あたりの広さや快適性を重視し、両側スライド&低床ドアや、高さのある荷物を積める工夫を随所に凝らして設計されています。ライバル車は、トール、スズキ『ソリオ』、ホンダ『フリード』などが挙げられますが、ルーミーは室内幅1480mm、室内高1355mmという広さながら最小回転半径4.6mと軽自動車並みの小回りの良さが光り、グラスエリアと視点の高いシート高、水平基調のインパネまわりのデザイン、死角を少なくしたAピラーなど、運転しやすさと視認性の良さにこだわっている点も特筆に値します。
搭載する3気筒エンジンはパワーがないといわれていますが、絶対的なパワー感が乏しいだけで走行バランスは案外良く、左右に揺れるロールは車高を考えると優秀なほうですし、高速走行でのふらつきも少ない印象があります。また、シンプルなデザインと約156~200万円ほどという価格設定も人気の要因かと思われます。ルーミーのデメリットや弱みがあるとすれば、人気車種ゆえ、どこを走っていても同じ色の同じ車と遭遇してしまう、といったことくらいではないでしょうか」(桑野氏)
ハイトワゴンクラス人気の背景
では、ルーミーは「買い」といえるのか。もしくは『ルーミーを買うなら●●を買ったほうがいい』というようなことはあるのか。
「ルーミーのようなハイトワゴンを選ぶユーザーは、これまで軽自動車に乗っていたけど子供が増えたり大きくなってきたことで、4人乗りの軽自動車では手狭になって乗り替えるパターンか、大きめのセダンやミニバンから乗りやすい小さめのハイトワゴンに乗り替えるパターンが多いと思います。そういった方々にとっては、ルーミーは買いの1台だといえるでしょう。絶妙なパッケージングのハイトワゴンですから、ライバルは今のところソリオくらいかなと思いますが、ダイハツが販売するトールはデザイン面やエンブレムなど好みの違いだけなので、新車で買う際には値引きや条件などを競合させて選ぶのもひとつかもしれませんね。
余談ですが、これまで人気が高かったミニバンクラスのような7人乗りの需要が低下していることと、トヨタ『アルファード』『ランクル』など大きな車に乗りたい人が多い一方で、実は近年は軽自動車やリッターカーなどサイズ控えめな車種の人気が高いこと、とくに地方都市では圧倒的に軽自動車の需要が高いことなどが、ハイトワゴンクラスの人気につながっているのかもしれません」(桑野氏)
(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)