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「HV重視のトヨタは正しかった」は誤解?EVシフト否定は単なる自己都合

文=Business Journal編集部、協力=桜井遼/ジャーナリスト
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トヨタ「プリウス」(「Wikipedia」より/芯正)

 世界的に電気自動車(EV)販売が失速するなか、ハイブリッド車(HV)販売が急速に伸びている。2023年の北米市場の販売台数では、EVが107万台(対前年比51%増)だったのに対し、HVは124万台(対前年比65%増)と上回った。EV先進国であるEU(欧州連合)でも24年1~9月のEVの販売台数が143万台(前年同期比2.6%減)だったのに対し、HVは301万台(同19.2%増)。日本市場にいたっては23年度の乗用車販売台数としてはHVが192万台で全体の50%を占めるのに対し、EVは8万台で全体のわずか2.1%にすぎない。こうした市場の変調を受け、EV開発に注力したことで北米市場にHVを投入できず大幅な減益に陥っている日産自動車と対照的に、EVよりHVの開発を優先させ好業績が続くトヨタ自動車をめぐり「なぜ判断を誤らなかったのか?」という点が一部で話題を呼んでいる。そこで、その背景について専門家の見解を交えて追ってみたい。

 24年3月期決算で過去最高益を達成するなど好調が続くトヨタ自動車。その大きな要因の一つが世界的なHV販売の好調だ。トヨタの今年1~6月の米国におけるHV販売台数は前年同期比66%増の41万台となっており、トヨタの北米販売に占めるHV比率は3割に上昇。北米HV市場でのトヨタの販売シェア(レクサス含む)は実に6割近い。

 対照的なのが日産だ。北米市場におけるEV販売の失速とHV人気の盛り上がりを受け、北米でHVを販売していない日産の売上が低迷。販売台数を維持するための販売奨励金への依存が高まり、これが収益悪化要因となり4~9月期の北米事業の営業損益は赤字に転落。4~9月期の純利益が前年同期比94%減の192億円となり、グローバルで生産能力の20%削減と従業員9000人の削減を行うまでに追い込まれた。

EVシフトが失速

 大きな背景としては世界的に進むとみられたEVシフトが失速し始めていることがある。英調査会社グローバルデータの発表によれば、23年のEV世界販売台数は977万台と前年比32%増であり、22年の同65%増と比べて伸び幅は縮小している。EVの世界最大手、米国テスラの24年4~6月の世界販売台数は前年同期比4.8%減となり、2四半期連続で減少。同社は全世界の従業員の10%以上の削減を余儀なくされている。

 アメリカのバイデン政権はEV購入に1台あたり最大7500ドルの税額控除を行ってきたが、トランプ次期政権はEV向けの補助金を廃止する方針とみられ、すでに3列シートの大型SUVタイプのEV開発中止を決めていたフォード・モーターは先月、カナダで計画中の電池材料生産の合弁事業から撤退すると発表。ゼネラル・モーターズ(GM)は先月、EV事業の業績悪化を受けてミシガン州の開発拠点を含む1000人の人員削減を発表した。

 2035年までに全ての新車をEVなどのゼロエミッション車(ZEV)にするという方針を掲げ、世界のEVシフトをけん引してきたEU(欧州連合)でも変調が生じている。ドイツが23年12月にEV購入への補助金を停止するなど、各国が補助金を停止・縮小。これを受け独メルセデス・ベンツは2月、2030年に新車販売のすべてをEVにするとしていた目標を撤回し、20年代後半にxEV(EVとプラグインHEV)を50%にすると修正。スウェーデンのボルボは30年までに完全なEVメーカーになるとしていたが、9月、同年までにEVとPHEVの合計で販売比率90~100%とすると方針を修正。独フォルクスワーゲン(VW)は9月、国内工場の閉鎖を検討すると発表し、EV開発への投資が重荷になっていることが背景にあるとされる。

 一方、EV大国となりつつあるのが中国だ。中国政府は国策としてEV産業の育成と輸出促進に力を入れており、27年までに全新車販売に占める新エネルギー車の比率を45%にする目標を掲げ、企業への優遇税制や補助金なども積極的に行っている。

EV開発に力を注いできた日産に逆風

 こうした変化の影響を大きく受けているのが、EV開発に力を注いできた日産だ。同社は2010年12月に世界初の量産型EV専用モデル「日産リーフ」を発売するなど、EV市場をリードする存在だった。23年のEVの国内販売台数(軽自動車含む)では同社の「サクラ」が1位になるなど国内EV市場では存在感は大きい。その一方でHV開発は遅れ、同社がハイブリッドエンジンシステム「e-POWER」を搭載する「ノート」のマイナーチェンジ車を発売したのは16年のことだった。現在ではノートに加えて「エクストレイル」「セレナ」などでHVを揃えているが、国内ではトヨタやホンダに押され気味だ。そして北米市場では前述のとおりHVを投入できていない。

 一方、トヨタは世界に先んじてHV開発に取り組んできた。1997年に世界初の量産ハイブリッド乗用車「プリウス」を発売し、現在、世界のHV市場でシェア1位。豊田章男会長が今年1月の講演で「いくらBEV(バッテリー式電気自動車)が進んだとしても市場シェアの3割だと思う」「エンジン車は必ず残る」と語った言葉に象徴されるように、EV開発には慎重な姿勢を示しており、同社初の量産型EV「bZ4X」を発売したのは日産に遅れること12年、2022年に入ってのことだった。26年までに世界で年間150万台のEVを販売するとの目標を公表していたが、9月にはこの計画数値を3割引き下げて100万台程度にすると発表した。

 このほか、自社初の量産型EV「ホンダe」を20年に発売したホンダは「2040年に脱エンジン」を宣言しているが、世界的なEV失速を受けて戦略の見直しに動くとみられている。

トヨタの自己都合

 現在の状況を受けて、EVに前のめりにならなかったトヨタの経営判断をめぐり「やはりトヨタは正しかった」「なぜ間違わなかったのか」「なぜHV需要が高まると読めたのか」などと注目されているのだが、自動車業界に詳しいジャーナリストの桜井遼氏はいう。

「大前提としてトヨタは巨大な系列グループ内に多くの部品メーカーを抱えているため、グループを維持していくためには、内燃機関車と比べて部品点数が大幅に少ないEVが市場の主流になると困るという事情を抱えています。豊田会長はこれまでもたびたび自工会の会見などで『車がすべてEVになるという考えは間違っている』という主旨の発言を繰り返していますが、その延長線上にある発言ととらえるべきでしょう。

 また、業界リーダーのトヨタがEVシフトに否定的な姿勢を見せることが、トヨタと異なり資源が限られているため取捨選択して一部のカテゴリー車の開発にしか注力できない競合他社に圧力をかけることにもつながっています。

 トヨタはマルチパスウェイを掲げて全方位戦略をとっていますが、それは資金力のあるトヨタだからこそできることであり、他社はEVやエンジン車など一部のエネルギー車に注力せざるを得ません。特に日産の場合はカルロス・ゴーンの時代から研究開発費を絞っており、加えてHV開発には大きく出遅れていたことから、EVに集中せざるを得なかったという事情があります。

 現在は一時的にHVが復調傾向でEVが失速していることで、トヨタに追い風が吹いているものの、世界全体の自動車市場をみるとHVが突出して比率が高いというわけではなく、今後世界のメーカー各社がEVを投入してラインナップが揃ってくれば、徐々にEVのシェアは伸びてくるでしょうから、状況が大きく変わる可能性はあるでしょう」

EVの環境負荷が低いという前提に疑問も

 マークラインズの調査・発表によれば、7~9月のEVの世界販売台数ランキングでは1位が米テスラ(43.2万台)、2位が中国BYD(42.4万台)。EVの環境負荷が低いという前提を疑問視する見解が多いことも、EV普及を妨げる要因となりつつある。

「EVの走行時のCO2排出量はゼロですが、発電時に排出されるCO2やレアメタルなど原材料の採掘や廃棄までライフサイクル全体で考えると、EVの環境負荷はエンジン車と比べてドラスティックに減るとはいえないでしょう。重量が増すとブレーキやタイヤなど制御面の負荷が増し、エネルギー効率が低下するため、モビリティにおいては軽いということが非常に重要です。現状、EVのモーターやインバータの変換効率は通常90%以上であり、これ以上向上する余地は小さいので、航続距離を延ばすためには、より多くのバッテリを積む必要があります。理論的にはバッテリを積めば積むほど航続距離は長くなりますが、その分、車体の重量は重くなるのでエネルギー効率が悪くなります。搭載するバッテリの数量が増えれば、製造に伴う排ガスなどの環境負荷も増えることになります。結果的に、欧州のEVシフトの本来の目的であるCO2排出量の削減、環境負荷削減と結びつかなくなってしまいます。欧州が掲げるEVシフトには、EVを増やすほど不合理な点が顕在化する事項が多く含まれるため、どこかの局面で見直しを迫られる可能性もあります」(日本大学理工学部教授の飯島晃良氏/6月7日付当サイト記事より)

(文=Business Journal編集部、協力=桜井遼/ジャーナリスト)

桜井遼/ジャーナリスト

桜井遼/ジャーナリスト

自動車業界の現場を中心に取材するジャーナリスト

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