「小さいマツダ」電動化戦略で投資を最小化…SKYACTIV-Zの凄み

●この記事のポイント
・相対的に規模の小さいマツダ、電動化戦略の答えが「投資の最小化」
・可能な限り外部の力を借りる。中国市場等では自前調達が必要な電池の量を圧縮し投資を半減
・SKYACTIV-Zをマツダ独自のハイブリッドシステムと組み合わせ
世界でEV販売台数がスローダウンし、EVへの過剰投資がたたってドイツ・フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツといった欧州の大手メーカーが2024年決算で相次いで減益に追い込まれている。こうした中で、相対的に規模の小さいマツダは電動化戦略をどう進めるべきか。出した答えが「投資の最小化」だった。
●目次
マツダは2024年3月に開催した「マルチソリューション説明会」で戦略の詳細を明らかにした。まず取り組んだのが「可能な限り外部の力を借りること」だ。例えば電池に関する投資は、当初は全ての電池を自前で調達する想定で7500億円程度を見込んでいた(インフレ影響込み)が、中国、欧州、ASEAN(東南アジア諸国連合)市場については中国長安汽車と共同開発したEVを導入することで一部を外部からの調達に切り替えるなどで自前調達が必要な電池の量を圧縮し、投資を半減した。
デジタル開発を徹底
一方、2027年に導入を予定するマツダ初の専用プラットフォームを採用したEVについても外部の力を徹底活用する。EVを駆動するモーターやインバーター、運転支援システム(ADAS)、車載ネットワークなどの技術や部品は、トヨタ自動車やデンソー、アイシンと共同で開発することで開発・製造にかかわる投資を減らした。特にADASについては、ほぼトヨタ自動車が開発したものをそのまま導入するようだ。
また自社で開発する部分に関しても、開発や生産に伴う投資を徹底的に絞り込む。キーテクノロジーとなるのはクルマをまるごとシミュレーションできるデジタル技術だ。この技術を活用することで、試作品を作るコストを大幅に削減できるほか、開発に要する人員や開発期間も短縮できる。
新型EVの生産についても、徹底的な投資の圧縮を図る。カギになるのは、EV専用工場を設けず、既存の生産ラインで混流生産することだ。マツダはこれまでも様々な車種を一つのラインで混流生産する技術を磨いてきた。既存の工場で混流生産することで、EV専用工場を新設するのに比べて初期設備投資は85%、量産準備期間も80%削減できるという。
次世代エンジンを2027年に投入
このように、電動化には可能な限り投資を絞り込む一方で、マツダは2030年の世界生産におけるEVの販売比率を25%と想定している。つまり当面はエンジン車が主流の時期が続くわけだ。これに対するマツダの回答が次世代エンジンの主流となる「SKYACTIV-Z」である。まず2027年に、マツダ独自のハイブリッドシステムと組み合わせて、次期「CX-5」から導入する計画だ。
SKYACTIV-Zの特徴は、燃焼室に大量の排ガスを循環させる「大量EGR」という技術だ。具体的には吸気の約半分を排ガスにする。そうすると、エンジンが空気を吸い込む抵抗が減るほか、燃焼温度が下がってエンジンの冷却に伴う損失も減る。同じ燃料の量なら得られる出力も高まる。 ただし従来のように、点火プラグで燃焼室内の混合気(燃料と混ざった空気)に火をつけようとしても、排ガスがたくさん混ざっているガスには火がつかない。
これに対してマツダは、現在実用化されている「SKYACTIV-X」にも採用する「SPCCI(火花点火制御圧縮着火)」と呼ぶ独自技術を発展させることで、排ガスが大量に混ざっているガスにも着火することを可能にした。現在のSKYACTIV−Xエンジンは排ガスが大量に混ざったガスを燃やせる領域が狭く、燃費向上の効果が限られていたほか、エンジンの構造が複雑で、コストが上昇するのも課題だった。
この反省から、SKYACTIV-Zでは、広い運転領域で排ガスが大量に混ざったガスでも燃焼できるようにして高い熱効率を実現するほか、エンジンの構造も簡単にしてコストを引き下げる。マツダはこの燃焼技術を「CX-60」などの大型SUV(多目的スポーツ車)に搭載している直列6気筒エンジンや、ロータリーエンジンなどにも活用する方針だ。
同時に、マツダは今後の規制強化をにらみ、エンジンの機種数を半数以下にする。エンジンの種類を減らすことで開発コストを下げ、生産効率も高めることで企業体質を強化する。このようにEVでもエンジン車でもできる限り開発効率や生産効率を高め、投資を少なくして電動化という大波を乗り切ろうとしている。
ただし、自動車業界はトランプ関税という新たな課題を突きつけられている。マツダの米国販売台数に占める日本からの輸出比率はトヨタ自動車やホンダよりも多く、関税の影響も大きい。どのようにこの荒波を乗り切るか、マツダの正念場は続く。
(文=鶴原吉郎/オートインサイト代表)