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オラクルは“AIバブル崩壊”の引き金を引くのか…巨額投資が招く信用収縮リスク

2025.12.12 2025.12.12 00:52 企業

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●この記事のポイント
・オラクルの巨額AI投資とFCF赤字が深刻化し、信用格付け悪化の懸念が浮上。AIバブルの“初期亀裂”として市場全体の資金循環に影響する可能性が指摘されている。
・設備投資の急増で負債と減価償却が膨張し、利益率は低下傾向。需要は強い一方、資本集約型企業への転換で財務柔軟性が失われ、調達コスト上昇リスクが高まっている。
・今後は売上成長よりFCF改善と負債管理が焦点。格付け動向や資金調達環境が変化すれば、オラクルはAI覇権争いの“主役”から市場不安の引き金となる可能性がある。

 2025年12月、オラクル(Oracle Corporation)が公表した2026年度第2四半期決算(Oracle IR資料)は、ウォール街に予想以上の衝撃を与えた。株価は発表翌日に11.53%急落。市場の懸念は「業績の一時的な不調」ではない。

 本稿では、この決算が示唆した財務リスクの本質、特に市場が注視する「信用格付けの行方」を中心に、専門家の見解とともに分析する。

●目次

“高収益ソフトウェア企業”からの不可逆的転換

 オラクルは長年、データベースとERPを主力とする「高利益率・低資本支出モデル」で高いキャッシュ創出力と株主還元を維持してきた。

 しかし、今回の決算は、同社が構造的なビジネスモデル転換に踏み切ったことを明確にした。

(1)資本支出(CapEx)の爆発的増加
 ・2Qだけで 約120億ドル(前年同期比+約50%)
 ・通期CapEx見通しを 500億ドルへ引き上げ(IR資料より)

(2)フリーキャッシュフロー(FCF)の急激な悪化
 ・四半期で ▲100億ドル
 ・ソフトウェア企業としては極めて異例のキャッシュバーン

(3)経営陣の説明
 ラリー・エリソン会長は決算説明会で、「AI需要は供給を大きく上回る。我々は能力を増強し続ける必要がある」と強調した。

 確かに、同社のRPO(Remaining Performance Obligations)は前年同期比で大幅増。需要が旺盛であるのは事実だ。

 しかし、投資家を震撼させたのは、“需要に応えるためなら財務体質を犠牲にしても構わない”という経営判断の大胆さである。

市場が最も恐れる「3つの構造的リスク」

 以下の3つは、単なるコスト増では片付かない、オラクルの根本的なリスクである。

(1)信用格付けと流動性リスク(Credit & Liquidity Trap)

 決算資料と有価証券報告書によれば、オラクルのネットデット(純有利子負債)は増加基調にあり、今回の巨額投資でさらに拡大する見通しだ。

■ キャッシュバーンの構造
・年換算で400億ドル規模の外部調達が必要となる計算
・営業キャッシュフローを超える投資ペース

■ 格付けへの圧力
 S&Pは2025年9月のレポートで、オラクルの格付けをBBB+(見通し:安定的)としていたが、今回の決算で「財務規律の緩み」が現実味を帯びてきた。

 格下げ(ダウングレード)が発生すると、以下の“負の連鎖”が起こる。
・調達コストの上昇(社債利回りの急騰)
・純利益の圧迫(支払利息が増加)
・一部の年金基金・機関投資家が強制的に売却(投資適格未満は保有不可)

「オラクルは、ソフトウェア企業の常識とかけ離れたレバレッジモデルに踏み出しています。投資の規模自体は戦略的に理解できるものの、問題は“財務のクッション”がほとんど残っていないことです。格付けが一段階落ちただけで資金調達環境が一気に悪化する可能性があります」(金融アナリスト・川﨑一幸氏)

 この指摘が示すように、市場は「AI投資」そのものではなく、“調達コストのレジームチェンジ”を恐れている。

(2)収益構造の悪化(Margin Compression)

 オラクルの利益率は、今後数年間にわたり構造的に下押しされる可能性が高い。

■ 減価償却という「時間差の時限爆弾」
 巨額のデータセンター投資は、今後数年にわたり減価償却費としてのしかかる。これが営業利益率(Operating Margin)を圧迫し続ける。

■ 事業ポートフォリオの変化
 IaaS(クラウドインフラ)は、従来のソフトウェアライセンスと比べて圧倒的に利益率が低い。

 IaaS比率が上昇すれば、利益率の希薄化は避けられない。

「オラクルが“作れば売れる”状態にあるのは事実です。しかし、IaaSは高コスト構造で、収益率はソフトウェア比べて数段落ちます。売上の成長が利益成長につながらない“豊作貧乏”リスクが現実味を帯びています」(同)

(3)投資と回収の“時間差”(Timing Gap)

 データセンター建設には18〜36か月の時間が必要だ。投資は先に行われるが、リターンが出るのは後である。

 ここに市場が恐れる2つの不確実性がある。

 1.稼働開始までのキャッシュ流出が長期化するリスク
 2.完成時にAI需要が現在の熱狂を維持している保証はない

 AI価格競争が激化すれば、完成した施設が“稼働率の低い資産”になる懸念もある。

なぜマイクロソフトやグーグルは評価が下がらないのか

 市場がオラクルに厳しいのは、単に投資額が大きいからではない。“スタート地点のバランスシートが脆弱”だからだ。

■ GAFAMの特徴
・マイクロソフトおよびグーグル:巨額のネットキャッシュ
・メタ:広告収益の高いキャッシュ創出力
・投資をすべて内部資金で賄える規模感

■ オラクルの不利な構造
・ネットデットでのスタート
・財務のクッションが少ない
・追加投資=追加借入になりがち

「GAFAMは『多少の失敗は吸収できる構造』ですが、オラクルは違います。財務の柔軟性を欠いたままAWSやAzureと真っ向勝負するのは、持続可能性の面で疑問が残ります」(大手機関投資家)

投資家が注目すべき“財務規律”の行方

 本稿では、今後を左右する2つのシナリオを提示する。

■ 強気シナリオ(Bull Case)──「勝負が成功」する場合

 ・需要が長期化し、データセンターがフル稼働
 ・売上高が年率50%前後で成長
 ・FCFが早期に黒字復帰し、負債返済が進む
 ・格付け懸念が解消し株価回復

 市場では、“第3のクラウド覇者として台頭”という見方も依然として残る。

■ 弱気シナリオ(Bear Case)──「債務の罠」にはまる場合

・建設遅延やAI価格競争で稼働率が伸び悩む
・FCF赤字が長期化
・追加の社債発行が不可避
・格付けがBB格へ格下げ → 調達コスト急騰
・配当停止や自社株買い縮小の可能性

 この場合、“借金で成長を買うモデルの限界”が露呈するリスクがある。

オラクルは「AI相場の主役」から「財務注視銘柄」へ

 今回の決算イベントは、オラクルが「高収益ソフトウェア企業 → 資本集約型クラウド企業」へと、ビジネスモデルを根本的に変えた転換点となった。

 投資家が次に注目すべき指標は、もはや売上高成長率ではない。

・FCF赤字幅は縮小しているか
・Net Debt / EBITDA は改善しているか
・格付け機関は見通しを維持するか

 これらの“財務規律(Financial Discipline)”こそが、オラクルが危機を乗り越え、AI覇権争いに残り続けられるかの試金石となる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)