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 AI利用社員の4人に1人が機密情報を入力…企業の”見えないリスク”を管理する方法

2026.06.10 05:55 2026.06.10 00:18 企業
取材・文=昼間たかし

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●この記事のポイント
・業務でAIを使う社員の4人に1人が機密情報を無警戒に入力している実態が判明、企業のAIガバナンスが喫緊の経営課題となっている。
・株式会社サイバーセキュリティクラウドが子会社DataSignと連携し、AIデータフローを可視化・制御・監査する統制プラットフォーム『AI MONBAN』を6月9日より提供開始した。
・MCP(Model Context Protocol)を介した外部サービス連携にも対応し、AIエージェント時代の新たなリスクに正面から向き合うサービスとして注目される。

 生成AIは、もはや一部の先端企業だけのものではない。社員証を持つ普通のビジネスパーソンが、毎朝の業務開始とともにChatGPT(あるいはClaudeやGemini)を立ち上げ、顧客の名前を打ち込み、契約書の文面を貼り付ける。その光景は、今や日本中のオフィスで当たり前になっている。

 だが、その「当たり前」の裏側に、見えないリスクが積み上がっていた。株式会社サイバーセキュリティクラウド(以下CSC)の調査によれば、業務でAIを利用する会社員の約4人に1人が、財務データや顧客名・契約書といった機密情報を、漏洩リスクを意識せずにAIへ入力している。生成AIの業務利用が6割を超えた今、「ルール徹底」だけでは防ぎきれない時代が来ている。

 6月9日、CSCは100%子会社である株式会社DataSignと連携し、企業のAI利用の「門番」となる統制プラットフォーム『AI MONBAN(エーアイモンバン)』の提供を開始した。東京・目黒で開催された記者説明会には、CSC代表取締役CTO渡辺洋司氏、プロダクト本部長山田ケイ氏、DataSign代表太田祐一氏の3名が登壇し、急拡大するAIリスクの実態と、その処方箋を示した。

●目次

禁止しても使い続ける――現場の「シャドーAI」という現実

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 企業がどれほど「AI利用禁止」と叫んでも、現場は動じない。CSCの調査では、勤務先でAI利用を禁止された場合でも「他の方法を使って使い続ける」「転職を検討する」と回答した社員が37%にのぼった。AIはすでに、多くのビジネスパーソンにとってなくてはならないインフラになっている。

 一方で、ルールが整備されている企業は33%にすぎず、45%はガイドラインすら存在しない。使う側はAIに依存しているのに、管理する側の半数以上が体制を整えられていない。この非対称性こそが、今日の企業が直面する本質的な課題だと、山田氏は言い切る。

「生成AIが突然使えなくなった場合、業務に大きく影響すると答えた方が65%いました。もはや電気や水道と同じインフラです。禁止で解決しようとすること自体、現実と乖離しています」

 把握されていないAI利用が組織内に拡散し、ガバナンスが空洞化する。これが「シャドーAI」問題の実態だ。

AIエージェント時代の新たなリスク――MCPが開けた「扉」

 問題はさらに複雑さを増している。生成AIにGmailやSlack、社内データベースを接続し、自律的にタスクをこなす「AIエージェント」の導入が急速に進んでいるからだ。その連携を可能にするのが、MCP(Model Context Protocol)と呼ばれる標準プロトコルである。

 MCPとは、AIと外部サービスを「共通の規格」でつなぐ仕組みだ。たとえばAIに「先週の重要メールを要約して」と指示すれば、MCPを介してGmailにアクセスし、内容を取得・整理して返してくれる。さらに「打ち合わせの日程をAさんに返信しておいて」と頼めば、そのまま送信まで実行する。人間が一つひとつ操作しなくても、AIが代わりに動いてくれる……それがAIエージェントの世界だ。

 利便性は劇的に高まる(使ってる人ならば既に高まっている)。だが同時に、新たなリスクの入り口にもなる。渡辺氏はスライドで、実際のインシデント事例を示した。議事録作成のために導入したエージェントがカレンダーとメールに接続した結果、3週間後には誰も指示していない定期レポートを社外取引先に送り続けていたという。

「人間だったらやらないと分かっていても、AIに同じ権限を渡すと必要以上の活動をしてしまう。信頼の設計が根本から問われています」と、渡辺氏は警鐘を鳴らした。

 AIが自律的に動く時代において、情報漏洩のリスクは「うっかり貼り付けた」という人間のミスだけにとどまらない。エージェントが意図せず、あるいは悪意ある命令に従って、機密情報を外部へ流出させる。そのリスクは、従来のセキュリティ対策の想定をはるかに超えている。

「門番」の正体――AI MONBANが持つ4つの機能

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 こうした課題に正面から向き合うために開発されたのが、AI MONBANだ。社内システムと各種AIモデルの間に設置する「ゲートウェイ(門番)」として機能し、既存の業務システムを変更することなく、「誰が・いつ・どのAIに・何を送ったか」を一元的に把握・統制する。

 目玉機能のひとつが「マスキング処理」だ。AIへの入力データに含まれる個人情報や機密情報を自動検出し、リアルタイムでマスキングを施す。社員が意識せずとも、機密情報が外部のAIに渡ることを技術的に防ぐ。

 MCPへの対応も、このサービスの大きな特徴だ。「MCP Gateway」として社内の基幹システムや外部サービスとAIモデルをセキュアに接続し、Gmailを誰がどの権限で参照・送信できるかを細かく制御できる。エージェントの暴走リスクを、接続の入口から抑制する発想だ。

 AI利用の全履歴を自動記録する「AIアクセスログ・レポート」機能も備える。規制当局への報告や内部監査に対応できる証跡を、追加の運用工数なしに蓄積できる。コンプライアンス対応に頭を悩ませる情報システム担当者には、即戦力となる機能だ。

 さらに、OpenAI、アンソロピック、グーグル、Azure OpenAIといった複数の主要AIモデルをAPIキーの設定のみで切り替えられる「マルチLLM切り替え」も搭載する。特定ベンダーへのロックインを回避しながら、業務内容に最適なモデルを柔軟に選択できる。

 太田氏は、デモンストレーションを交えながらサービスの全容を説明した。

「ChatGPTもClaudeも、社員が使い慣れたUIはそのまま使えます。ただ、その裏側でAI MONBANが静かに動いている。社員に余計な負担をかけずに、ガバナンスだけを確実に機能させる設計にしました」

「禁止でも野放しでもなく」――ガバナンスという第三の道

 AI MONBANが体現しているのは、「禁止か野放しか」という二項対立を超えた第三の道だ。CSCとDataSignが共同で掲げるコンセプトは、「AIエージェント活用を、安全に・大胆に。」という一文に凝縮されている。

 太田氏はサービスの思想的背景をこう語る。

「AIエージェントによる業務効率化、自律的な意思決定、パーソナルAIによる生活支援などAIは人や組織、社会の意思決定に深く関わる存在になりつつあります。だからこそ、主権を保持したうえで活用していくことが不可欠です」

 CSCはAI MONBANを「AIガバナンス基盤の第一歩」と位置づけている。今後は用途別に最適なAIエージェントを安全に利用できるAIマーケットプレイスの実現を目指し、MCP非対応の既存SaaSや社内データベースにも対応を拡大していく予定だ。

 AIの進化は止まらない。エージェントはより自律的になり、より多くの権限を持ち、より深く企業の意思決定に関与していく。その流れに乗り遅れた企業は競争力を失い、乗りすぎた企業はリスクを制御できなくなる。

「門番」という言葉は、古くて地味に聞こえるかもしれない。しかし、城の安全を守るのは、いつの時代も門を固める者だった。AI MONBANが守ろうとしているのは、データという名の城の、新しい門である。

(取材・文=昼間たかし)

昼間たかし

昼間たかし/ルポライター、著作家

 1975年岡山県生まれ。ルポライター、著作家。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。

X:@quadrumviro

公開:2026.06.10 05:55