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非上場化で伊藤忠がセブン&アイとファミマ両者の株主に浮上か…想定デメリット

文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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セブン-イレブンの店舗

 カナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)から買収提案を受けているセブン&アイ・ホールディングス(HD)は13日、創業家の資産管理会社から買収提案を受けたと発表。MBO(経営陣が参加する買収)による株式非公開化を行う案が検討されている。セブン&アイHDの将来的な成長という観点からみると、ACTによる買収と株式非公開化のどちらのほうがメリットが大きいと考えられるのか。また、企業の非上場化は増加傾向にあるが、多額の上場コストと労力をかけて上場するメリットは現在、薄まりつつあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 北米をはじめ世界約30カ国に約1万7000店舗を展開するカナダの大手コンビニエンスストア運営会社、ACTによるセブン&アイHDへの買収提案が明らかになったのは今年8月。1株あたり14.86ドル(買収総額は約5.5~6兆円)で買収を提案し、これを受けセブン&アイHDは社外取締役で構成する独立委員会を設置して検討し、「潜在的な株主価値の短中期的な実現について著しく過小評価している」との理由で拒否。ACTは9月、1株あたり18.19ドル(買収総額は約7兆円)に引き上げて再提案を行ったが、米国の独占禁止法(反トラスト法)や、外資による日本企業への出資を規制する外為法に抵触する可能性もあり、先行きは不透明だ。

 セブン&アイHDはACTによる提案に賛同の姿勢を示さない一方、対抗策を重ねてきた。10月、事実上の買収防衛策として、GMS(総合スーパー)・イトーヨーカ堂や食品スーパー・ヨークベニマルをはじめとする非中核事業を連結子会社から外す方針を固め、ヨーカ堂のネットスーパー事業からの撤退も決定。先月には投資家向けの事業説明会で井阪隆一社長は、2030年度にグループ売上高を30兆円以上にするとの目標を公表し、単独での成長を強調。そして今回打ち出されたのが、創業家による買収というかたちでの株式非公開化だ。

 経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏はいう。

「今回の創業家によるMBOは簡単ではありません。理由は、買収に必要な資金が7兆円と過去に例がないほどの巨額になることです。日本での過去最大のM&Aは武田薬品工業によるアイルランドのシャイアーの買収で6.8兆円でした。それを除けば大きくても2~3兆円がこれまでの企業買収規模の上限です。資金が集められるかどうか、実現の可能性はそれほど高くはないかもしれません」

ACTによる買収、セブン&アイHDにとってのメリット

 そもそも、ACTによる買収は、セブン&アイHDの将来にとってメリットが大きいものなのか。セブン&アイHDの2024年2月期の営業収益(売上高に相当)は11兆4718億円であり、年間売上高が約10兆円のACTと合わさると世界最大規模の小売企業が誕生することになる。セブン&アイHDは21年に米国のコンビニ企業・スピードウェイを買収するなどして世界20の国・地域に店舗を展開しており、ACTはその店舗網の獲得を狙っているとされる。また、ACTのアレイン・ブシャード会長は日本経済新聞の取材に対し、日本式のコンビニの運営手法を海外で展開することが目的だと説明している(10月18日付同紙記事より)。今後、ACTは同意なきTOBに切り替えてセブン&アイHDに買収を仕掛けてくる可能性もある

「ACTの関心はセブン&アイが持つアメリカのコンビニ事業です。実はセブン&アイの時価総額の過半はアメリカ事業だとアメリカの投資銀行が算定しています。今のように日本市場に強みを持つセブン-イレブンに経営が力を入れることは、買収後は難しくなるでしょう。経営陣にとっても日本の消費者にとっても、買収のメリットは少ないと考えられます。

 ただ、株主にとっては逆です。もともと買収騒動が起きる前のセブン&アイHDの時価総額は4兆6000億円で停滞していました。それが2者からの買収提案が起きたことで6兆3000億円まで企業価値が上昇しています。買収実現なら最終的に7兆円を超えるでしょうから、株主は何らかの買収決着を望むはずです」

 一方、ACTによる買収を回避して株式非公開化を選択した場合のセブン&アイHDのメリットは何か。

「仮にMBOが成立した場合は、創業家や現在の経営陣とは立場が異なる新たな株主が経営に加わるでしょう。これは資金調達が巨額になるため、事業会社かファンドが加わらないと買収資金が集まらないと予想されるからです。現在の創業家の提案をベースに考えると、伊藤忠がその新たな株主になる可能性があります。その場合、伊藤忠はファミマの大株主なので、現在の経営陣とは方向性が対立することになるかもしれません。結果として、新たな経営の不協和音といったデメリットが生じるリスクは考えておかなければならないでしょう」

上場を維持するメリットは大きいといえるのか

 ここ数年、高い上場維持コスト負担や他社による買収リスク、株主の意向を受けての経営的自由度の低下などを回避する目的で株式を非公開化する企業が増加傾向にある。2024年は、上場企業の数が2013年の取引所統合以来初めて前年比で減少に転じる可能性も出ている。たとえばソフトバンクグループ会長の孫正義氏がしばしば公の場で上場維持に疑問を感じる旨の発言をするように、デメリットの大きさも認識されるようになりつつある。今、上場を維持するメリットは大きいといえるのか。

「上場の最大のメリットは、資金調達力が格段に増すことです。市場から資本を吸い上げてM&Aによって企業規模を大きくしていく戦略をとることができます。ただしデメリットとして、株式が流動化するので、こちらが逆に買収されるリスクも生じるし、望まない株主たちから経営に口を出されることにもなります。

 非上場化に魅力を感じる経営者が多いのは事実ですが、大企業をさらに成長させていくことを目指すのであれば、上場のメリットのほうが大きいと考えられます」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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