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パルワールド側、印象操作&ミスリードなのか?任天堂との訴訟の報告リリース

文=Business Journal編集部、協力=嵐田亮/弁理士法人シアラシア代表弁理士
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ポケットペアの公式サイトより

 任天堂と株式会社ポケモンからゲームタイトル「ポケモン」の特許権を侵害しているとして訴訟を提起されている「Palworld(パルワールド)」の開発元・ポケットペアは今月8日、当該訴訟の状況を報告するリリースを発表。任天堂からの訴えの内容、対象特許、要求されている損害賠償の金額などを公表した。対象特許は計3件で、いずれも任天堂の「特許出願日」は今年1月の「パルワールド」発売日以降となっているが、これらは2021年に出願、23年に公開された原特許が分割出願されたものであり、ポケットペアがその旨を記載せずに「パルワールド」発売日より後ろの出願日のみを記載している点について「ミスリード」「印象操作」ではないかという声も広まっている。果たして、そのような意図があると考えられるのか。また、任天堂とポケモンが要求している損賠賠償が各500万円である点について低額との感想も出ているが、妥当な金額といえるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 戦って捕獲した「パル」を仲間に入れ、それらを活用しながらさらに強い「パル」を探しにいくという設定の3Dオープンワールドゲーム、パルワールド。今年1月19日にリリースされ、発売1カ月でSteam版(3400円)は約1500万本売れ、Xbox(Game Pass)版が約1000万人にプレイされるなど、総プレイヤー数が約2500万に上る大ヒットを記録。Xbox運営元の米マイクロソフトが、パルワールド向けの専用サーバー提供や、グラフィックスやメモリ最適化に向けたエンジニアリングリソースの提供を通じてポケットペアを支援することを発表するなど、異例の展開となっていた。

 9月にはPlayStation 5(PS5)版も日本を除く全世界68の国と地域で発売され、現在も売上が伸びているとみられるが、懸念材料となっているのが、任天堂とポケモンとの間で抱える特許権侵害訴訟だ。「パルワールド」の登場キャラクターが「ポケモン」のそれに酷似しているという点は、「パルワールド」リリース当初から指摘されており、1月にはポケモン社が以下のコメントを発表していた。

「お客様から、2024年1月に発売された他社ゲームに関して、ポケモンに類似しているというご意見と、弊社が許諾したものかどうかを確認するお問い合わせを多数いただいております。弊社は同ゲームに対して、ポケモンのいかなる利用も許諾しておりません。なお、ポケモンに関する知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく所存です」

 その後、この問題をめぐって目立った動きはなかったが、9月、任天堂とポケモンはポケットペアに訴訟を提起したと発表した。

「任天堂とポケモンはパルワールドの発売後、法的措置も視野に虎視眈々と準備を進めていたと思われますが、提訴に踏み切る決め手になったのは、7月にポケットペアがソニーグループのソニー・ミュージックエンタテインメントとアニプレックスの3社で『パルワールド』のIPやライセンスビジネスを世界で拡大させるジョイントベンチャーを設立すると発表したことだとみられています。PS5を持つソニーグループは任天堂の直接的な競合相手であり、そのソニーと組んで『パルワールド』のIPビジネスを世界で拡大させるとなれば、任天堂としては看過できないのは当然です」(ゲーム業界関係者)

このタイミングでリリースを発表した理由・背景

 任天堂の訴えが裁判所に認められる可能性は高いのか。弁理士法人シアラシア代表弁理士の嵐田亮氏はいう。

「現時点では、なんともいえません。任天堂の主張内容がすべて裁判所に認められれば特許権侵害が成立することになり、認められないと判断されれば特許権侵害の申し立ては退けられます。特許権侵害訴訟の一般的な流れとしては、今後、ポケットペアは任天堂の特許権を侵害していないことを主張することになります。また、同時に任天堂の特許権が無効であると主張し、特許の内容が公知であることを示すために文献や他のゲームタイトルを証拠として提示していくことになるでしょう。一審の判決が出るまで1~1年半くらいが見込まれます」

 このタイミングでポケットペアが訴訟の状況に関するリリースを発表した理由・背景は何か。

「任天堂が提訴を発表したのが9月19日なので、そこから訴状が届いて内容を確認し、弁護士と相談するという流れを踏まえると、今くらいのタイミングになるでしょう。また、各方面から多くの問い合わせが寄せられていると思われ、個別に応じている余裕がないためリリースというかたちで公に発表したという事情もあるでしょう」(嵐田弁理士)

特許権侵害訴訟では二段階審理が一般的

 今回の損害賠償請求額である500万円は低いのではないかという声もみられる。

「一般的に特許権侵害訴訟では二段階審理という形態がとられます。訴訟を起こす時点では特許権侵害の有無が決定していないため、裁判所に支払う手数料(印紙代)を低く抑えるために損害賠償請求の金額を低く設定します。その後に裁判の進展をみて、訴えの変更を行って損害賠償請求の金額を引き上げたりするといった流れになります。

 今回のリリースにも『ゲームの差止め及び当該特許の登録日から本件訴訟の提起日までの間に生じた損害の一部を損害賠償として求めるもの』と書かれており、500万円はあくまで損害全体の一部に対する賠償という位置づけです」(嵐田弁理士)

 前述のとおり、今回のポケットペアのリリースには対象特許について「パルワールド」発売日より後ろの出願日しか記載されていない点について、同社による「ミスリード」「印象操作」ではないかという声も出ている。

「リリースには対象特許の登録番号が記載されており、特許庁の『特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)』で調べれば、すぐに原特許や分割出願の情報を確認できるので、弁理士からすると、特に違和感は感じられません。純粋に今回の訴訟対象となっている特許の番号、出願日などを記載しただけではないでしょうか」(嵐田弁理士)

ポケットペアが得た売上は多額

 パルワールドによってポケットペアが得た売上は多額に上るとみられる。ゲーム業界関係者の見解に基づき、発売後1カ月間に限って試算してみると、まずSteamではゲームタイトル開発元がSteam運営元のValveに対して支払う販売手数料は30%といわれており、単純計算でポケットペアが得る売上は

 3400円(価格)×1500万本×70%=約357億円

となる。また、サブスクリプション型のXbox(Game Pass)でのパルワールドのプレイヤーは約1000万ユーザー。ポケットペアとXbox運営元であるマイクロソフトの契約内容は不明だが、マイクロソフトのアプリストア「Microsoft Store」では開発者が得る売上高のシェアは88%とみられ、概算を把握するため仮にXbox(Game Pass)で1ユーザーの利用につきポケットペアがマイクロソフトから

 3400円×88%

を得るとした場合、「×1000万人」で約299億円となる。よって、両プラットフォームから得る売上は計656億円にも上る。

(文=Business Journal編集部、協力=嵐田亮/弁理士法人シアラシア代表弁理士)

嵐田亮/弁理士法人シアラシア代表弁理士

嵐田亮/弁理士法人シアラシア代表弁理士

2008年 東京大学大学院農学生命科学研究科修了 農学博士/2011年 弁理士登録/2022年4月 株式会社ユーグレナを退職して独立
弁理士法人シアラシア公式サイト

Twitter:@IP_Arashida

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