大ヒット中のゲーム「Palworld(パルワールド)」の開発元であるポケットペアの代表取締役社長・溝部拓郎氏が、2月の「サーバー代」が7000万円を超える見込みだとX(旧Twitter)上にポストし、話題を呼んでいる。溝部氏は「ひょっとしてサーバー代で倒産する?」と綴っているが、果たしてこれが原因で倒産する可能性はあるのか。また、ユーザー数が計1900万にもおよんだパルワールドが同社にもたらす収益はどれくらいなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
戦って捕獲した「パル」を仲間に入れ、それらを活用しながらさらに強い「パル」を探しにいくという設定の3Dオープンワールドゲーム、パルワールド。1月19日にリリースされ、今月1日にはSteam版(3400円)が約1200万本売れ、Xbox(Game Pass)版が約700万人にプレイされたと発表され、リリースから2週間を待たずに約1900万人のユーザーがプレイしていることが判明。大ヒット作の誕生を受けてXbox運営元の米マイクロソフトが、パルワールド向けの専用サーバー提供や、グラフィックスやメモリ最適化に向けたエンジニアリングリソースの提供を通じてポケットペアを支援することを発表するなど、今、ゲーム業界で最もホットなタイトルになっている。ここまでヒットした要因についてゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏は次のようにいう。
「クラフトサバイバルゲームというジャンルは一定数のコアなファンがいる人気ジャンルではあるものの、ややマニアックな領域でもある。パルワールドはそうしたジャンルに属するにもかかわらず『ラクにプレイできる』ようつくられており、くわえて多くのファンを有する『ポケモン』を意識して似せているが、宣伝の段階でこれらの点がわかりやすく伝わるようになっていた。そのため多くのゲームユーザーの興味を引いたことがヒットにつながったと考えられるが、ポケットペアはこれらの点を戦略的に組み合わせてこのタイトルを企画・開発していたことがうかがえる」
そんなパルワールドのサーバー代について、2月分が前月比359%の7053万円に上る見込みだと溝部社長がポスト。同タイトルといえば、リリース直後に常時90万人以上(Steam版)ものアクセスが集中するなか、約1000台のサーバーの動作自動化やスケーリングといったネットワーク最適化をエンジニアの中條博斗氏が「ワンオペ」で行っていることも話題に。今回の溝部社長のポストを受け、中條氏もXにて「何をしててでもサービスを落とすなとの命を受けまして、採算度外視でサーバーを用意させていただきました。これからもプレイヤーの皆様に最大限楽しんでいただけるよう、全力投球します!」(原文ママ)と反応している。前出・岩崎氏はいう。
「例外はあるものの、ユーザーがアクセスするゲームアプリが動作するサーバー環境は開発元が用意する必要があり、そのサーバーの利用料が月間7000万円ということだろう。この部分についてマイクロソフトが何らかのかたちでサポートするといっているので、今後はポケットペアの負担は減るとみられる」
「サーバー代で倒産する」ということはない
気になるのが、サーバー代の負担がポケットペアの経営を圧迫してしまわないかどうかだ。以下、ゲーム業界関係者の見解に基づき試算してみる。まず、Steamではゲームタイトル開発元がSteam運営元のValveに対して支払う販売手数料は30%といわれており、単純計算でポケットペアが得る売上は
3400円(価格)×1200万本×70%=約286億円
となる。また、サブスクリプション型のXbox(Game Pass)でのパルワールドのプレイヤーは約700万ユーザー。ポケットペアとXbox運営元であるマイクロソフトの契約内容は不明だが、マイクロソフトのアプリストア「Microsoft Store」では開発者が得る売上高のシェアは88%とみられ、概算を把握するため仮にXbox(Game Pass)で1ユーザーの利用につきポケットペアがマイクロソフトから
3400円×88%
を得るとした場合、「×700万人」で約209億円となる。よって、両プラットフォームから得る売上は計495億円にも上る。1年間トータルで考えると、毎月7000万円のサーバー代が発生したと仮定しても8億4000万円であり、今後の販売・ユーザー数の積み上げによる売上伸長を勘案すれば、サーバー代が経営を圧迫するということはないとみられる。前出・岩崎氏はいう。
「たとえばStreamやXboxからの入金が販売の翌々月で、サーバー利用料の支払いサイクルが翌月になっていたりすれば、理論上は倒産するリスクはゼロではないが、ここまでヒットすれば金融機関からの融資なりプラットフォーム運営元による支援なりを受けられるだろうから、現実的には倒産などは起きないだろう」
ゲーム業界関係者もいう。
「これまでに投下した開発費を賄って余るほどの巨額利益が出ていることは間違いなく、当然ながら『サーバー代で倒産する』ということはない。これだけのユーザー数に上れば、実際にプラットフォーム運営元が徴収する手数料のパーセンテージはもっと低く設定されている可能性があり、ポケットペアが得る売上はこれ以上かもしれない。また、マイクロソフトはポケットペア向けに専用サーバーを用意したり技術面で手厚いサポートを行うとしており、これも長期的に見ればポケットペアのコスト負担削減につながる」
「ポケモン」著作権問題
もっとも、サーバー代以上にポケットペアにとって重大な経営リスクになりかねない要因があるという。それが著作権問題だ。パルワールドをめぐっては、かねてから登場キャラクターが「ポケモン」のそれに酷似しているとの指摘が広がっていた。これを受け先月25日、株式会社ポケモンが
「お客様から、2024年1月に発売された他社ゲームに関して、ポケモンに類似しているというご意見と、弊社が許諾したものかどうかを確認するお問い合わせを多数いただいております。弊社は同ゲームに対して、ポケモンのいかなる利用も許諾しておりません。なお、ポケモンに関する知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく所存です」
とコメントを発表するに至っていた。前出・岩崎氏はいう。
「デザインは『ポケモン』同様に動物ベースになっており、『ポケモン』と似たような印象になることを狙っている様子はうかがえるが、実際のキャラクターデザインは似ていない。レンダリング面などがなんとなく似ているとはいえるかもしれないが、現実的な話としてポケモンが法的手段を取るとのは難しいのではないか。『ポケモン』のキャラクターはこれまで、あからさまにはコピーされてこなかったという経緯があり、それゆえにデザインを『寄せてきた』パルワールドが何かと騒がれているという面はあるかもしれない。
過去に『ゼビウス』がヒットした後に。同じようなメカっぽい硬質的・金属的なデザインを取り入れたゲームが多数つくられたように、ヒット作を意識したタイトルが多数生まれるという現象はゲーム業界では繰り返されてきた。今回も同様のパターンという範疇ではないか」
ゲーム業界関係者はいう。
「ポケモンのキャラクターと『ほぼ同じ』ともいえる『パル』も複数いるなど、そのシナリオ設定や『プレイの仕方』においてポケモンを参考にしているのは明らか。ただ、ゲーム業界ではこのレベルの模倣は珍しくないという現実もあり、ポケモン側がどのような対応をみせるのかは読めない部分が多い。もしポケモン側が著作権侵害を主張して販売・配信差し止めを求めてポケットペアに対し法的手段を取るような展開になれば、ポケットペアが被る損失は未知数となってくる。ただ、もし仮にパルワールドが『吹き飛ぶ』ことになっても、開発コスト含めてすでに投資分は十分に回収できているかもしれず、今後得られるはずだった利益を得られない程度で済むかもしれない」
(文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー)