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パルワールド、特許侵害裁判中にPS5版を世界販売した背景…利益優先は妥当

文=Business Journal編集部
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「Palworld」(マイクロソフト公式サイトより)

 任天堂と株式会社ポケモンからゲームタイトル「ポケモン」の特許権を侵害しているとして訴訟を提起されている「Palworld(パルワールド)」の開発元・ポケットペアは今月25日、PlayStation 5(PS5)版の「パルワールド」を日本を除く全世界68の国と地域で発売したと発表。まさに訴訟が進行中の発売が議論を呼んでいる。なぜポケットペア、およびPS5を運営するソニー・インタラクティブエンタテインメントは販売に踏み切ったのか。また、ゲーム業界的にこの動きはどう評価されるのか。

 戦って捕獲した「パル」を仲間に入れ、それらを活用しながらさらに強い「パル」を探しにいくという設定の3Dオープンワールドゲーム、パルワールド。今年1月19日にリリースされ、発売1カ月でSteam版(3400円)は約1500万本売れ、Xbox(Game Pass)版が約1000万人にプレイされるなど、総プレイヤー数が約2500万に上る大ヒットを記録。Xbox運営元の米マイクロソフトが、パルワールド向けの専用サーバー提供や、グラフィックスやメモリ最適化に向けたエンジニアリングリソースの提供を通じてポケットペアを支援することを発表するなど、異例の展開となっていた。

 パルワールドにもたらされた売上は多額に上るとみられる。ゲーム業界関係者の見解に基づき試算してみると、まずSteamではゲームタイトル開発元がSteam運営元のValveに対して支払う販売手数料は30%といわれており、単純計算でポケットペアが得る売上は

 3400円(価格)×1500万本×70%=約357億円

となる。また、サブスクリプション型のXbox(Game Pass)でのパルワールドのプレイヤーは約1000万ユーザー。ポケットペアとXbox運営元であるマイクロソフトの契約内容は不明だが、マイクロソフトのアプリストア「Microsoft Store」では開発者が得る売上高のシェアは88%とみられ、概算を把握するため仮にXbox(Game Pass)で1ユーザーの利用につきポケットペアがマイクロソフトから

 3400円×88%

を得るとした場合、「×1000万人」で約299億円となる。よって、両プラットフォームから得る売上は計656億円にも上る。

任天堂、入念に提訴に向けた準備

 そんな大成功を収めた「パルワールド」の懸念事項として指摘されていたのが、登場キャラクターが「ポケモン」のそれに酷似しているという点だ。1月にはポケモン社が以下のコメントを発表していた。

「お客様から、2024年1月に発売された他社ゲームに関して、ポケモンに類似しているというご意見と、弊社が許諾したものかどうかを確認するお問い合わせを多数いただいております。弊社は同ゲームに対して、ポケモンのいかなる利用も許諾しておりません。なお、ポケモンに関する知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく所存です」

 今月19日には、任天堂とポケモンはポケットペアに訴訟を提起したと発表した。

「任天堂とポケモンは『パルワールド』のリリースから半年以上もの間、静観しているようにみえたが、『パルワールド』で使用されている技術のなかで『ポケモン』と同じとみられるものについて特許審査を請求するなど、入念に提訴に向けた準備を進め外堀を埋めていた模様。『パルワールド』のキャラクターが『ポケモン』のそれに似ているのかどうかは議論が分かれるところで、曖昧性のある著作権をめぐる争いになると裁判所も判断が難しくなるが、ゲームのプログラムに関する特許をめぐる争いになれば侵害しているかどうかの判断は比較的しやすくなる。任天堂としては勝算がなければ提訴しないだろうから、特許侵害の申し立ては認められる公算が高いとみられている」(ゲーム業界関係者)

事業的には成功という判断も

 提訴の発表からわずか6日後、ポケットペアは「パルワールド」のPS5版を日本を除く全世界68の国と地域で発売したと発表した。なぜ係争中にもかかわらず、同社は世界発売に踏み切ったのか。

「『すでに発売が決まっていたから』といえばそれまでだが、ポケットペアとしては特許侵害はないという立ち位置であり、今後もその旨を主張していくことになるので、そうである以上は自主的に発売を取りやめる理由は存在しないということになる。判決の確定や和解は1年以上先になる見通しであり、損害賠償や和解金を支払うことになったとしても金額は数十億円程度だろうから、パルワールドの現在および将来的な売上規模からみれば十分に賄える金額。PS5向けタイトルの開発にも多額の費用がかかっており、それを回収する意味でも、今後の任天堂との係争の行方次第でサービス提供が停止になったとしても、それまでに稼げるだけは稼いでおこうという判断はビジネス的には妥当といえる」(ゲーム業界関係者)

 弁護士はいう。

「裁判の争点は特許侵害の有無なので、現段階でポケットペアが新たに別のプラットフォームで『パルワールド』をリリースするという行為が、判決に何か大きな影響を与えるということはないのではないか。あるとすれば、任天堂への損害賠償の金額や和解金が上振れする程度だろうが、PS5上での売上規模に比べれば無視できる範囲に収まる可能性もある。知的財産の係争は結局のところ、訴えられた側がサービス提供を継続するか停止するか、訴えた側に金銭をいくら支払うかという話なので、ポケットペアとしてはサービス停止になったとしても、損害賠償や和解金を大きく上回る売上をあげることができれば事業的には成功という判断も現実的なものとなってくるだろう」

果たして“インディーゲーム”なのか

 任天堂による提訴を受けポケットペアは19日、

「当社は東京を拠点とする小規模なインディーゲーム開発会社です。私たちの目標は常に楽しいゲームを作り続けることです。この目標は今後も変わらず、多くのゲーマーの皆様に喜びを提供するために、ゲーム開発を続けます」

「インディーゲーム開発者が自由な発想を妨げられ萎縮することがないよう、最善を尽くしてまいります」

とするコメントを発表。自社が小規模なインディーゲーム開発会社である点を強調しているが、業界内からは疑問の声も聞かれる。

「『パルワールド』はそれなりの規模の開発費用と体制で制作され、ゲームタイトルとしての規模はそれなりに大きいといえます。一定の規模のタイトルである以上は、他社の特許権を侵害しないよう配慮してゲームを開発するという業界的・社会的ルールは守られてしかるべきであり、“インディーゲームだから”という理由で他社の特許権を侵害してよいというロジックは成り立ちません。

 ゲーム開発会社は、世間の想像以上に、他社の特許権を侵害しないよう相当な注意を払って開発を行っています。たとえば音ゲーに関する特許を多く持っているのはコナミですが、セガやバンダイナムコの音ゲーはコナミの特許権を侵害しないように異なる形式のゲームとなっています。任天堂に訴えられたコロプラも特許を調べたうえで、問題ないと判断していたわけです。そうした業界のルール・慣習に照らし合わせても、やはり『パルワールド』開発元の脇の甘さを感じざるを得ません」(ゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏/9月21日付当サイト記事より)

ソニーグループの動き

 ソニーグループの動きも注目されている。PS5を運営するソニーグループは、ゲーム機「Nintendo Switch」「ニンテンドー3DS」「Wii U」などを持ち「スーパーマリオブラザーズ」「あつまれ どうぶつの森」「Nintendo Switch Sports」シリーズなど数多くのタイトルを開発している任天堂と競合関係にある。また、今年7月にポケットペアはソニーグループのソニーミュージックエンタテインメントとアニプレックスの3社で、「パルワールド」のライセンスビジネスを拡大させていくためのジョイントベンチャー(JV)を設立すると発表。「パルワールド」のIPを世界に拡大させオリジナルグッズも販売していくとしている。

「特許侵害の可能性がありながらもポケットペアがビジネスを優先させるかたちで販売プラットフォームを拡大させることを、暴挙と受け止める向きはいるだろう。また、ポケットペアと異なり大企業であるソニーグループがPS5上での発売を許可したことについて、コンプライアンスの観点から一定の批判が出るかもしれない。そして、もし仮に裁判の判決で明確に特許侵害が認められれば、ソニーの責任を問う声が広がるかもしれない」(ゲーム業界関係者)

(文=Business Journal編集部)

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