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任天堂、驚異の新入社員定着率「ほぼ100%」…なぜ社員が辞めないのか

文=清談社、協力=岡本啓毅/株式会社UZUZ代表取締役
任天堂本社開発棟
任天堂本社開発棟(「Wikipedia」より)

 世界累計販売台数が1億台を超えた「Nintendo Switch」と共に、さまざまな大ヒットソフトを送り出し続け、ゲーム業界をリードし続ける任天堂。日本でも屈指の人気を誇る大企業だが、その新入社員定着率が“ほぼ100%”であることが注目を集めている。

 そこで、なぜ任天堂は“新人が辞めない企業”の代表格といえるのか、また昨今の就職市場における「新入社員定着率」の重要度などについて、識者に聞いた。

 近年、企業の魅力度を表す指標のひとつとして用いられることが増えている「社員定着率」。新卒社員を募集するときに開示が必要となる「青少年雇用シート」でも、直近3年の採用者数と離職者数の記入が求められており、それらのデータから導き出される「3年目の定着率」は、就職活動中の学生や転職希望者にとっても重要な指標となっている。

 そんななか、日本が世界に誇るゲームメーカーであり、就職人気企業ランキングでも常に上位に挙げられる任天堂の新人定着率が、ほぼ100%に達していることがSNSなどで話題となった。

 任天堂が発表した「社員データ」によると、日本国内の新入社員定着率(2019年4月新卒入社数のうち、2022年4月在籍者の割合)は98.8%。新入社員が100人いたとしたら、約1名しか辞めていないという計算になる。この数字に対して、20代の若者向けに就業サポートなどを行っている株式会社UZUZ代表取締役・岡本啓毅氏に意見を伺った。

「新入社員定着率の平均はだいたい70%くらいなので、新卒新入社員の3割が3年以内に辞めていることになります。ですので、任天堂の98.8%というのは驚異的な数字だと思いますね。そもそも大企業は給与も高く、福利厚生も充実していることが多いので定着率は高い傾向にはあります。なかでも任天堂は日本を代表する人気企業であり、しかも採用枠が少ない狭き門でもあるので、難関を突破して入社した社員にとっては辞める理由がないのかもしれません」(岡本氏)

 任天堂の平均年収は昨年度で988万円。待遇が良ければ、それだけ定着率が高いというのもうなずける。

「とはいえ、ゲーム業界において任天堂よりも平均年収の高い企業はあります。スクウェア・エニックスは1400万円台、バンダイ・ナムコホールディングスも1100万円台となっていますし、外資も含めると待遇の良い会社は多い。しかし新人定着率でいうと、任天堂ほどの数字を出している同業他社は無いと思われます」(同)

 ゲーム会社でもクリエイター系の職種は作品ごとに移籍したり、独立することも多く、その分、離職率が高くなる傾向にあるという。それは任天堂も同じだが、それを超えた「居心地の良さ」があるのかもしれない。

「もちろん、任天堂の福利厚生が充実しているというのもあります。有給休暇の消化率も高いですし、育児に対しても手厚い。社員に対して独自のポイントを付与していて、そのポイントをゲームや書籍、旅行などに使えるというシステムもあります。また、ダイバーシティにも理解が深く、同性パートナーがいる社員に対して、実際の婚姻と同等に扱うパートナーシップ制度を導入するなど、先進的かつ実用的な取り組みも行っています」(同)

 これらの雇用条件に加えて、任天堂が持つイメージの影響力が大きいと岡本氏は指摘する。

「実はこれが一番重要で、『任天堂』というブランド力が社員を離さないのだと思います。ゲーム業界への就職志望者は増加していますが、任天堂を希望する人は、他ではなく『任天堂で働きたい』という想いが強いです。実績的にも、任天堂のゲームは『最も売れたコンピュータゲームソフト』のようなランキングに何本も入っている。自分の携わったゲームを、より多くの人に楽しんでもらいたいという気持ちを持っている人なら、任天堂に入りたい、仕事を続けたいという気持ちになるのではないでしょうか」(同)

 最近の就職希望者にとって、「新入社員定着率」はどのような指標となっているのだろうか。

「いまの就職世代は、福利厚生だけでなく、自由度や仕事の任され方といった『働きやすさ』を重視する傾向にあるので、社員定着率に関しては社内の実情をうかがい知るためのデータとしている部分はあるとは思います。

 ただ、『定着率が高ければいいのか』というのは、その業界や社風によって捉え方が変わってきます。例えば、リクルート社は20代のうちにバリバリ働いて、転職したり、独立・企業するというのが定番コースだったりするので、その分、離職率は高くなりますし、会社としても数字をそこまで気にしていません。そういった見極めはしっかりするべきだと思います」(同)

 企業にとっても、社員定着率を上げるためにだけに施策をすることは本末転倒のようだ。

「任天堂が福利厚生を充実させているのは、社員定着率を維持するために取り組んだ結果ではないということです。任天堂が企業として、利潤を追求し、そのなかで素晴らしいゲームを作るというミッションを達成するために社員のモチベーションを上げていることが、結果的に高い社員定着率になったのだと思います。就職希望者にとって、社員定着率というのは『入社したい理由にはならないけど、行かない理由になるもの』という位置づけの数字だと思います」(同)

 ひと昔前は「会社というのは入ってみなければわからない」などとよく言われていたが、社員定着率などの指標をきっかけにしっかり調べてみれば、社風や働きやすさなどもある程度は掴めるようになっているようだ。

(文=清談社、協力=岡本啓毅/株式会社UZUZ代表取締役)

清談社

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
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