コンビニエンスストア最大手のセブン-イレブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスは、2022年2月期の連結純利益が前期比20%増の2150億円に上る見通しだと発表している。一方、21年の3~11月期の営業利益を見ると、ローソンやファミリーマートが前年同期比増なのに対し、セブンは3%減となるなど国内コンビニ事業が鈍化傾向で、その要因としてセブンのプライベートブランドの魅力低下を指摘する声もある。
そこで今回は『コンビニがなくなる日:どうなる?流通最終戦争』(主婦の友社)の著書で経済評論家の平野和之氏に、コンビニ業界の王者セブンに何があったのか、またコンビニ業界全体が迎えている新たな局面の現状について聞いた。
先手必勝でコンビニ業界の頂点を掴んだ王者セブン
セブンの業績について語る前に、まずは業界におけるセブンの立ち位置を明確にする必要があると平野氏はいう。
「業界順位を年度ごとの売上高ランキングで見ると、昔からセブンの圧勝が続いています。その理由について巷の書籍などでは無数の理由が語られていますが、私が思う最大の要因は、シンプルに“競合他社に先駆けて一番いい立地に出店したから”というもの。コンビニはいい立地にお店を出せば売り上げも上がり、売り上げが上がればその分商品開発やキャンペーンを充実できる。このサイクルでセブンは頂点に上り詰めたというわけですね」(平野氏)
では、なぜ他の大手2社と対照的にセブンの営業利益が減少しているのだろうか。
「年度ごとの営業利益の推移が必ずしもコンビニ業界の勢力図を占うものかというと、そうでもない、ということを念頭に入れる必要があります。ローソンとファミマの営業利益が増加したのは、既存店舗のリストラを実行したりしたのが理由ではないでしょうか。これをしてセブンが落ち始めているということでは決してないと思います。確かにセブンの営業利益は多少減少していますが、そもそもさまざまな要因で営業利益が変動することは割とよくあることです」
つまり、ファミマの21年3~11月期の営業利益が前年同期比で46%増えて一人勝ちのように見えるのは、実態を伴っていないということなのだろうか。
「そうした数値が出ていることは事実ですが、それだけ見ると早合点に陥りがちです。実際、ファミマは20年2月期の連結決算での最終損益は435億円の黒字でしたが、21年2月期は164億円の赤字となっており、かなり厳しい値を記録しています。一時的にでも対策を講じる必要があったというのが透けて見えてきますよね。逆に21年3~11月期の営業利益が前年同期比19.5%増のローソンは、21年の3~5月期の連結決算では最終損益56億円と充分な黒字を記録しています。それゆえ、大きな施策を打つ必要がなく、変動が少なかったのでしょう」
一見すると“一人負け”のように見えるセブンだが、これも営業利益の微動にとらわれないマクロな視点で見ると違う景色が見えてくるという。
「そもそも、最終損益よりも大事なことは、既存店舗の平均売上を見ることです。日本のフランチャイズチェーン協会のデータの、1日ごとの1店舗売り上げを見ると、セブンはかつて70万円台だったのが今は60万円台となっており、競合のファミマやローソンは50万円台だったのが、今は40万円台となっています。多少減益はしたでしょうが、依然セブンはコンビニ業界の中で圧倒的は優位を誇っていると言えるでしょう。
こうした目先の増減に目を向けることよりも、大局的にコンビニ業界全体の景気について見ていくことが重要でしょう。そもそもコンビニ業界全体の店舗数の推移グラフを見ると、もう飽和状態なんです。言い換えると“もう出す場所がない”。店舗数が増えなければ、必然的に業界全体の売り上げは横ばいになってきます。
さらに近年はドラッグストアチェーンや、イオングループが展開している都市型の小型食品スーパーマーケット『まいばすけっと』といった、コンビニよりも低価格帯の店舗が躍進しています。都心部で見ればコロナ禍によるテレワークの増加で人が街に出てこなくなったので、駅前店舗などの売り上げは下がっているのです」(平野氏)
業界全体が低迷するなかでセブンが打ち出した新戦略
セブンの低迷の原因に、同社のプライベートブランド「セブンプレミアム」の魅力低下が関係しているという指摘もあるが、これも根本原因ではないという。
「繰り返しになりますが、セブンの営業利益低迷の根本原因は、業界全体の店舗展開が飽和状態にあることやコロナ禍の影響です。一時は『金の食パン』のようなヒット商品もありましたが、これは味が受けたということより“金の”や“プレミアム〜”といったイメージ戦略によるところが大きかった印象です。なんでも“プレミアム”をつければ売れた時代があったんです。結局、コンビニで店内調理できるお惣菜は限られていますので、ほとんどのお惣菜を店内調理するのが売りのお弁当チェーンなどには味で敵わないのは自明の理でしょう」(平野氏)
そんなセブンは、近年は100円ショップブランド大手「ダイソー」とコラボするなど、他企業との連携戦略が目立つ。
「先述したとおりドラッグストアや小型食品スーパーマーケットの台頭もあって、結局のところ“安くなきゃ売れない時代だから”でしょうね。実際、定価で置かれていたコンビニの各種雑貨や日用品類の売れ行きは芳しくなく、売り上げのなかでも1~2割にしかなっていない状況です。
ですから“安かろう悪かろう”なイメージから脱却しつつあるダイソーと組むのは自然な流れに思えます。セブン側にとっては、MD戦略の心配をしなくていいのもメリットだと考えられます。逆にダイソー側にとっては、新規出店よりリスクが小さく、店舗の立地のメリットを最大化できます。ゆえにセブンの店舗を借りて販売できるのはメリットなはずで、Win-Winのコラボになっていると思います」(平野氏)
業界全体に着実に及ぶ変化の波にどう対応すべきか
最後に、平野氏が考えるセブンを含むコンビニ業界の今後と動向予測について伺った。
「好立地を確保したセブンの優位は今後も大きくは変わらないでしょう。コロナ禍がいよいよ終息してくるとなれば、現在セブンがコロナ禍でも少しずつ進めている、あまり売り上げが伸びていない既存の店を閉めて違う場所に出店するというような、いわば代謝をよくしていく施策がより活発になるかもしれませんね。ただ、先ほども言ったように結局のところ店舗の飽和状態は変わりませんので、コンビニ業界全体の勢いが沈静化してくるのは避けられないかもしれません」(平野氏)
これまで多様化を続けてきたコンビニ業界を含む流通業界の企業たち。だが、出店競争に終わりが見え始めてきたことや、予期せぬコロナ禍の影響がそうした時代に終わりを告げるのだろうか。流通業界では力を持った少数の企業に集約されていくという示唆は、平野氏もその著書で以前から指摘していたそうだが、それがいよいよ顕著になってくるのかもしれない。
(文=A4studio)