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日産、社長退任要求も…社員9千人削減でも報酬4億円か、社外取締役も高額報酬

文=桜井遼/ジャーナリスト
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日産「リーフ」(「Wikipedia」より/Kazyakuruma)

 日産自動車の内田誠社長兼CEO(最高経営責任者)の経営責任を追及する声が高まっている。日産が発表した2024年4~9月期連結業績は、当期利益が前年同期比94%減の192億円と大幅減益となった。業績不振を受けてグローバルで生産能力の20%削減と従業員を9000人削減するリストラを断行、今年3月に公表した3年後に販売台数を100万台増やすことを盛り込んだ中期経営計画の数値目標を、わずか8カ月で撤回した。内田社長は「経営責任」として11月から報酬を半減すると説明するが、それでも今期の報酬は4億円を超える見通し。社内外から経営能力を疑問視され、社長辞任を求める声も相次いでおり、ポスト内田を模索する動きも本格化している。

 日産が業績不振に陥ったのは、中国での販売不振と、収益の柱である米国で主力モデルの販売が苦戦し、インセンティブ(販売奨励金)を増やして無理な販売を続けているからだ。日産の4~9月期の新車販売台数は前年同期比1.6%減の159万6000台だった。このうち、中国が同5.4%減と落ち込み、北米が同1.0%減だった。中国は地場系自動車メーカーがNEV車(新エネルギー車)と呼ばれる電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の価格を引き下げて販売を伸ばしており、これがガソリン車などにも波及し、価格競争が激化している。日産以外でもトヨタ自動車、ホンダ、マツダなど、価格競争に追随できない日系自動車メーカーは相次いでシェアを落としているが、日産の業績不振が深刻なのは、中国に加えて米国でも販売低迷と収益悪化の悪循環にはまっているためだ。とくに米国では主力モデルの「ローグ」の販売が苦戦し、実質値引き販売に頼っていることが収益悪化につながっている。

 日産の4~9月期の営業利益は同90%減の329億円と、前年同期の10分の1の水準だった。為替差益として280億円を計上しているため、事業としては実質的には赤字転落一歩手前の状況だ。7~9月期は赤字だった。販売が低迷していることから今期の販売見込みを前回予想から25万台マイナスの340万台に引き下げた。仮に達成しても2023年度実績の344万2000台を下回る水準だ。収益面でも営業利益の見通しを前回予想から3500億円マイナスの1500億円に下方修正した。日産は4~6月期業績の公表時も販売台数、収益を下方修正しており、今期2度目の修正となる。

 日産は今年3月、内田社長が中心となって中期経営計画「The Arc(アーク)」を策定した。26年度にグローバル販売台数を23年度から100万台増となる440万台に、営業利益率を6%以上にそれぞれ引き上げる目標を掲げていた。しかし、わずか8カ月で、その計画を撤回したが、それだけではない。固定費を削減するためグローバルで生産能力を20%削減するとともに、9000人を削減すると発表したのだが、削減対象となる工場や人員を明確に示さなかった。従業員の経営陣に対する反発が広がることを警戒してのことと見られる。

内田社長の経営者としての能力を疑問視する声も

 業績不振の経営責任として内田社長は11月から報酬の50%を減額、経営会議メンバーも報酬の一部を自主返納する。内田社長はリストラ計画を発表したオンライン記者会見で「日産をスリムで強靭な事業構造に再構築し、商品力を高め、再び日産を成長軌道に戻す道筋をつけることが私の社長としての最大の役割」と述べ、トップ続投に意欲を見せた。

 しかし、社内外から市場の先行きを見誤り、成長戦略に失敗した内田氏の社長退任を求める声は強まっている。とくにやり玉に挙がっているのが内田社長の高額な報酬だ。有価証券報告書によると内田社長の23年度の総報酬額は6億5700万円だった。報酬の減額は11月からで、4月から10月までは満額を受け取っているため、今期の報酬総額は4億円超と予想される。日産の従業員からは「業績不振で9000人の人員をカットする経営者の報酬とは思えない」「全額返上でもおかしくない」など、批判する声が相次いでいるという。

 日産と取引のあるサプライヤーの首脳は「そもそも内田社長の経営者としての能力を疑問視する声はあった」と指摘する。内田社長が日産の社長に就任したのは19年12月だ。多額の報酬を不正に得ていたカルロス・ゴーン被告の事件後、後任の西川廣人氏も不当な報酬が発覚して辞任した。日産はゴーン被告による長期間の独裁体制が事件につながったとの反省を生かすため、社外取締役らがトップを選任する指名委員会等設置会社に移行した。この結果、内田氏を社長CEOに選任した。ただ、生え抜きでもない内田氏1人に巨大企業である日産のかじ取りを任せるのに不安があった指名委員会は、ルノーでの勤務や三菱自動車の役員経験を持つアシュワニ・グプタ氏をCOO(最高執行責任者)、日産プロパーの関潤氏を副COOとし、トロイカ体制で経営していくことにした。

 ところが内田氏の社長就任に屈辱を感じた関氏がすぐに辞任して離脱した。次いでグプタ氏と内田氏の間で経営の主導権争いが勃発し、最終的にグプタ氏はスキャンダルの疑いによる社内調査にかけられ、それを理由に23年6月で退任した。これによって権力を完全掌握したはずの内田氏だが「経営能力不足」は隠しようもなく、策定したばかりの中期経営計画を1年も経たずに撤回し、さらに人員削減を含むリストラを実行せざるを得ない事態に追い込まれている。

社外取締役も高額報酬

 日産の社外取締役も、高まる内田批判の声に危機感を抱いている。日産は業績と比べて取締役の報酬が高いことで有名だ。日産の23年度の営業利益は5687億円だったが、1億円を超える報酬を得た役員は6人もいる。同年度の営業利益が日本企業で初めて5兆円を超えたトヨタで1億円を超える報酬を受け取っていた役員は7人だ。本来なら業績に見合った役員報酬への見直しを指示する責任を持つ日産の社外取締役は、年間2000万円を超える高額な報酬を受け取っていると見られる。こうした好待遇から社外取締役も、内田社長の続投や日産役員の高額報酬を追認してきたといわれている。

 ここまで業績が悪化し、しかも人員削減する内田社長の経営能力を疑問視する声が社内外で強まると、日産の社外取締役も放置できない状況に追い込まれているという。ただ、関氏、グプタ氏を追い出した影響もあって後任探しは難航する見通し。社外取締役を中心に、プロ経営者を探すことや、他社の経営者をヘッドハントする案も検討されている模様だ。日産の副COOを辞任した後、ニデックの社長に就任したものの、創業者の永守重信氏からの更迭という憂き目にあい、その後、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)でEV事業の最高戦略責任者を務める関氏が「電撃的に日産のトップとして復帰することを狙っている」(日産関係者)との声もある。経営再建そっちのけで、ポスト内田をめぐる争いが本格化しそうだ。

(文=桜井遼/ジャーナリスト)

桜井遼/ジャーナリスト

桜井遼/ジャーナリスト

自動車業界の現場を中心に取材するジャーナリスト

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