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日産自動車、壮絶な下請けいじめ…上納金を要求、納品時に5割の減額要求

文=Business Journal編集部
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日産自動車の本社ビル(「Wikipedia」より/ApaApJt )

 公正取引委員会は7日、日産自動車が下請法に違反しているとして再発防止を勧告した。下請けの自動車部品メーカー36社への支払代金約30億2300万円を不当に減額していた。日産は下請けメーカーに対し、契約書で定められた発注額から「割戻金」として一部を差し引いた代金を支払っていた。報道番組『WBS(ワールドビジネスサテライト)』(テレビ東京)によれば、下請けに金額を決めないままに数量と納期だけを指定して製造させ、納品時に見積額から5割を減額させることもあったという。日本を代表する大手自動車メーカーの商取引ルール無視の行動に、驚きの声が広まっている。

 下請法は、発注者が優位な立場を利用して下請け企業に無理な値引きなどを強制することを規制しており、下請け企業への代金に関する支払いの遅延や不当な減額を禁じている。また、原材料費・人件費・エネルギーコストの上昇を受け、公取委は取引価格への転嫁を企業に促しており、22年には取引価格への転嫁の必要性を十分に協議せずに価格を据え置いたとして、デンソーや佐川急便、豊田自動織機など13社・団体名を公表していた。

 今回、公取委が日産の社名を公表してまで「勧告」という処分に踏み切ったのは、「過去最大の減額事件」(公取委)としてその行為を重く受け止めているからだ。1956年の下請法施行以来、公取委が認定するものとしては過去最高額だが、全国紙記者はいう。

「30億円という金額は、あくまで公取委が把握している金額のみ。発注書の書類上、明確に日産が下請けに対し値引きさせているというエビデンスが伴わないケースや、日産から取引を切られることを恐れて公取委に被害を報告していないメーカーも少なくない。実際の金額は何倍にも上るとみられている」

 自動車業界では「ケイレツ」のピラミッドの頂点に立つ完成車メーカーが、定期的に部品メーカーと値下げ協議を行う慣習が定着している。たとえばトヨタ自動車は半年に1回のペースで部品メーカーと交渉し、基本的に毎回1%程度の値下げを行っている。

「トヨタの場合は、そのときどきの状況をみて一部の部品メーカーを対象外にしたり、原材料やエネルギー価格の上昇が発生した場合は部品メーカーに発生するコスト増分の一部をトヨタが負担することもある。そのあたりはトヨタはかなり下請け企業の中にまで入り込んで、柔軟にやっているのが実情で、日産とは温度差がある」(全国紙記者)

 では、日産による下請けへの値下げ強要はどのような実態なのか。自動車業界を取材するジャーナリストの桜井遼氏はいう。

「どの自動車メーカーも定期的に部品メーカーとの間で原価低減を行っており、使用する資材や生産工程などさまざまな面からお互いにアイディアを出し合いながら進めていく。たとえば低減目標金額が100万円だったとして、仮に50万円しか下がらなかった場合は、その結果を前提に自動車メーカーと部品メーカーが25万円ずつ利益を折半するというかたちをとっている。だが日産は50万円しか下がらなかった場合でも『100万円低減できていれば得られたはずの50万円分の利益はきっちりもらいますよ』というロジックで、足りない分を割戻金というかたちで部品メーカーから吸い上げていた。かつてはどの自動車メーカーも同じようなことをやっていたが、『さすがにまずいよね』ということで是正した一方、日産はいまだに続けていた」(3月20日付当サイト記事より)

事実上の上納金

 こうした日産の企業体質の背景には、同社の外部の取引先に対する厳しいコストカット意識がある。2兆円の有利子負債を抱え破綻危機に陥った日産は1999年、仏ルノーと資本提携し、ルノーは当時副社長だったカルロス・ゴーン氏を日産のCOO(最高執行責任者)に就かせた。ゴーン氏は5年以内に日産を再建させると宣言し、2.1万人の人員削減や部品などの調達先の50%削減などを盛り込んだ「日産リバイバルプラン」を発表。2000年3月期連結決算で一気に特別損失を計上して当期利益が6844億円の赤字となったが、翌01年3月期には純損益が3311億円の黒字に転換する「V字回復」を果たした。

 部品調達先の削減は自動車業界の慣例である「ケイレツ」の解体を意味した。日産は調達先を絞り込み1社あたりへの発注量を増やすのと引き換えに大幅な値引きを要請。これによりコスト削減を実現してきた。

「下請けへの値下げ行為が、日産の業績を良く見せるための都合良い、かつ重要なツールになっていた。社内ではコスト削減が担当者への評価に反映されるため、決算前のシーズンに駆け込みで下請けに値下げを要求するということまで行われていた。それが『WBS』内で部品メーカーが証言している『合理化要請』と呼ばれるもの。日産は個別の発注書でその値下げ分を値引きして支払うかたちにして、事実上の上納金を納めさせていた。日産は『あくまで下請けとの合意の上』と主張しているが、『強制的に受け入れさせた合意』という意味ではそのとおりだろう」(自動車業界関係者)

「程度に差こそあれ、似たようなことや、仮発注のようなかたちで金額を決めないままモノをつくらせるといったことは、過去には自動車業界全体で広くみられた。ただ、他社はコンプラ的にさすがにまずいということで是正したが、日産は続けていたということ」(別の自動車業界関係者)

 また、前出・桜井氏はいう。

「日産リバイバルプランで調達先の数を大きく絞った過去もあり、日産は他の自動車メーカーと比較して下請けに厳しい傾向があり、下請けメーカー側も取引を切られるのを恐れて声をあげられない。たとえば、トヨタ自動車とホンダは今期、物価・人件費の上昇などを鑑みて下請けへの定期的な値下げ交渉を見送り、部品メーカーが原価低減できた分は自分たちの利益にしていいですよというかたちにしていたが、日産は値下げ交渉を行っていた。このように日産には下請けに対して冷たい面がある」(3月20日付当サイト記事より)

会見を開かない日産

 今回の公取委の勧告を受け、日産は

「法令遵守体制の強化を行うとともに、再発防止策の徹底に取り組み、今後の取引適正化を図ってまいります」

とのコメントを発表した一方、記者会見は開いていない。

「事案の重大さからいえば会見を開くべきだが、日産としては実態をありのまま話せば企業としての信用問題につながりかねないため『開きたくない』というのが本音だろう。『検査不正などと違って一般消費者に迷惑をかけているわけではない』というロジックかもしれないが、これがトヨタやホンダであれば、しっかり会見を開いて経営陣が謝罪し、禊を済ませるところだろう。こうしたところに日産のカラーが出ている」(全国紙記者)

 下請けと元請けの関係も変わりつつあるという。

「自動車メーカーに限らず、製造業全体でみると、これまで大手の下請けでやってきた中小メーカーが海外に活路を見出し、技術力のある企業は自力で海外企業からの受注を増やしている。これまで下請けを囲い込んで安値で受注させていた大手が、これからは逆に下請けから『切られる』『選別される』という動きも出てくるだろう。最近では、これまでトヨタのほぼ言い値で鋼材を納めていた日本製鉄がトヨタに大幅な値上げを要求するという“事件”も起きているが、完成車メーカーだけが儲ける自動車業界も健全な状況に向かっていくかもしれない」(自動車業界関係者)

(文=Business Journal編集部)

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