先月24日に東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた船井電機の代表取締役会長、原田義昭氏(80)は14日、毎日放送(MBS)の取材に応じ、準自己破産申し立てを事前に知らされていなかったと明かした(同日付「MBS NEWS」記事より)。同報道によれば、今回の申し立ては同社の取締役のひとりが行ったものであり、原田氏はすでに破産手続き開始決定の取り消しを求めて裁判所に即時抗告を申し立てており、事業再生は可能だとして民事再生法の適用を申請する方針だという。なぜ、代表取締役会長が関知しないなかで破産手続きが開始するという異例の事態が起きたのか。また、仮に原田氏の申し立てが認められた場合、同社が経営再建を果たす可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
原田氏が船井電機の会長に就任すると発表されたのは先月3日。同時に、それまで社長を務めていた秀和システム代表取締役の上田智一氏が退任し、後任に元日本政策金融公庫専務の上野善晴氏が就任すると発表された。だが、現在も船井電機の公式サイト上の役員一覧に上野氏の名前はなく、元環境相で長く政治家を務めていた原田氏が突然、会長に就任するに至った経緯もわかっていない。
「経営のプロではない原田氏が会長に就いたのは、知人を介して頼まれて名前と肩書を貸すくらいの感覚だったのではないか。ただ、それでも代表取締役会長である以上は形式上は船井電機の代表者なので、破産の後始末に責任をもって対応する義務を負っており、また債権者など多くのステークホルダーからの訴訟リスクもある。原田氏は事の重大さを認識して、破産の取りやめと再建に動き出したということではないか」(全国紙記者/11月13日付当サイト記事より)
買収先企業の資金による買収、道義的な問題
2000年代には液晶テレビ事業で北米市場シェア1位となり、4000億円近い売上高を誇った「世界のフナイ」が破産に至った経緯を、改めて振り返ってみよう。
船井電機は1990年代に米ウォルマートと提携し、全米の同社店舗で船井のテレビをはじめとするAV機器を販売。OEM(相手先ブランドによる生産)供給の拡大やオランダのフィリップスからの北米テレビ事業取得(2008年)などもあり、世界的に名を知られる存在となった。
しかし、創業者・船井哲良氏が08年に退任後は徐々に業績が低迷し始める。それまで徹底したコスト低減による低価格を強みにシェアを拡大させていたが、2010年代に入ると海信集団(ハイセンス)やTCL集団など中国勢の台頭に押され業績が悪化。これを受けて大きく経営戦略を転換させ、北米向けの低価格のOEM供給から国内向けの4Kテレビなど高品質商品を自社ブランドで販売する方針にシフト。16年にはFUNAIブランドのテレビについてヤマダ電機(現ヤマダデンキ)と10年間の独占供給契約を締結するなどしたが、業績は好転しなかった。
17年に船井氏が死去すると、船井電機は21年に出版社の秀和システムの子会社・秀和システムホールディングス(HD)に買収され、上場廃止に。そこから船井電機の資金をめぐる不可解な動きが生じるようになる。秀和は船井電機の買収資金のうち180億円を銀行から借り入れで調達する際、船井電機の定期預金を担保にし、船井電機に保証させるかたちにしていた。最終的に担保は銀行に回収されている。
数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。
「こうしたLBOと呼ばれる手法での買収は近年では珍しくなくなってきており、特に投資ファンドなどがよく使っています。ペーパーカンパニーをつくって、そこが資金を借りるかたちにするといった方法をとれば合法とはみなされるものの、要は買収元が買収先企業の資金を使って買収を行う、買われる側の従業員にとってみれば、自分たちの会社の資金を使って第三者に買収されるという“わけがわからない”ことであり、道義的に問題があるという指摘も多いです」
23年、秀和は船井電機の持ち株会社として船井電機・ホールディングス(HD)を設立し、同年に船井電機HDは脱毛サロン・ミュゼプラチナムを買収したが、ミュゼプラチナムへの資金援助が原因で船井電機には33億円の簿外債務が発生。さらに船井電機は船井電機HDに多額の貸し付けを行い、焦げ付きが発生していた。
これらの結果、船井電機からは秀和による買収後、約300億円の資金が流出した。買収前の20年度の時点では、船井電機は売上が804億円、営業損益が3億円の赤字、最終損益が1200万円の赤字で、現預金は344億円、純資産は518億円あった。だが、秀和による買収後わずか3年で負債総額は461億円に膨れ上がり、117億円の債務超過に陥った。昨年度の売上高は3年前の約半分の434億円、最終損益は131億円の赤字となった。
破産を決定づけたのも、ミュゼプラチナムの買収だとみられている。ミュゼプラチナムが代金未払いで広告会社に対し抱えていた負債について船井電機HDが連帯保証しており、船井電機の9割の株式を広告会社が仮差し押さえするという事態が起きていたという。
想定される再建シナリオ
原田氏は船井電機は債務超過に陥っていないと主張しているが、なぜ代表取締役会長が関知しないなかで破産手続きが開始するという異例の事態が起きたのか。
「詳細はわかりませんが、経営が機能していなかったことの表れであることは確かでしょう。あくまで推察ではありますが、不透明な資金の流れなど、表に出したくないさまざまな事実があり、それを封印するために急いで会社を倒産させたいと考える人が、一部にいたのかもしれません」(中沢氏)
では、仮に船井電機に民事再生法が適用された場合、再建される可能性はあるのか。どのような再建シナリオが考えられるのか。
「破産から民事再生に切り替わるかどうかは裁判所が判断することで、原田氏がどんな材料で戦っているのかがわかりませんので、何ともいえません。ただ、もしも認められた場合、きちんとしたリーダーが登場すれば再建される可能性はあると思います。あれだけの実績のある会社ですから、いったんは残っているビジネスのうち戦える領域のみを残して、そこで損益トントンの状態で給料が払える人たちだけでリスタートを切るというのがオーソドックスな考え方です。2000人いた社員が1000人になるのか500人になるのか100人になるのかはわかりませんが、一度は『全員クビです』という宣告を受けているので、残れる人に給料を出せるだけでもマシだと割り切って意思決定を行えるか、社員の同意が取れるかどうかがポイントです。
あるいは極論ですが、社員全員が『どうせ失業していたのだから、黒字になるまで当面給料受け取りません』と決めたら、年間の人件費25億円(上場期の最後である2020年度のデータより推定)が浮くので、事業を残せる可能性も相応に高くなります。極論ついでですが、年金資産80億円(支払いが確定している債務は57億円)があるので、残った社員が退職金や企業年金の放棄に同意すれば、外に積み立てられていた資金を事業に回したり、いったん退職金を受け取って社員が出資者となって資金投入して事業を運営するといったかたちも手段としてはあります。
そこまで社員が身を挺して再建に取り組むという事例は聞いたことがありません。少し近い例では、日本航空(JAL)が再建の過程において、退職した社員に企業年金を放棄してもらったり、社員の給料や退職金を大きくカットしたことがありますが、それは自分たちのせいで破綻したからだという責任感もあって受け入れられたのかもしれません。ただ、報道からの推測になりますが、船井電機は以前から続く事業に携わっている社員のせいで倒れたわけではないため、相当理不尽でしょう。
社員はいったんは『全員失業、明日から給料ゼロ』と一方的な宣告を突然受けた状態なので、強烈なリーダーが崖っぷちからの再起を主導していけば、いかようにでも動ける可能性はあると思います。当然、とても困難な道ではありますが、一度は世界をリードしたFUNAIという名前への愛着が社員にどれだけ残っているかにもよるでしょう」(中沢氏)
(文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表)