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破産の船井電機、消えた300億円…純資産518億円→買収され3年で債務超過

文=Business Journal編集部、協力=植村拓真/公認会計士
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船井電機(「Wikipedia」より)

 先月24日に東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた船井電機。10月30日付「日本経済新聞」記事によれば、2021年に出版社の秀和システムの子会社・秀和システムホールディングス(HD)に買収されて以降、約300億円の資金が流出していたという。船井電機が持ち株会社・船井電機・ホールディングス(HD)に約253億円を貸し付けて回収不能の見込みになっていたほか、10月30日付「読売新聞」記事によれば、23年に船井電機HDが買収した脱毛サロン・ミュゼプラチナムへの資金援助が原因で33億円の簿外債務が発生していたという。このほか、船井電機HDの純資産が250億円も減少して半分以下になるなど、秀和システムHDによる買収後の船井電機と船井電機HDをめぐる一連の不可解な資金の動きが注目されている。

 船井電機は創業者・船井哲良氏が08年に社長退任後、赤字が常態化していたとはいえ、秀和システムHDによる買収前の20年度の時点では売上は804億円あり、営業損益は3億円の赤字、最終損益は1200万円の赤字にとどまっており、現金は349億円、純資産は518億円あった(借入は1.8億円)。そこから秀和による買収後わずか3年で負債総額461億円、117億円の債務超過に陥った。昨年度の売上高は434億円、最終損益は131億円の赤字。

「船井電機はテレビ製造という本業を持ち、一定規模の売上をあげ、赤字だったとはいえ営業利益ベースで3億円程度の規模なので、きちんとリストラをはじめとする施策を進めれば十分に再建できた可能性があります。なので企業価値を高めて売り抜けることが目的のファンドなどに買収されていれば、破産とは真逆の結果になっていたかもしれません。船井電機は23年につくられた船井電機HDに多額の貸し付けをさせられて、それが焦げ付き、船井電機HDが買収したミュゼプラチナムへの資金援助も負担させられていました。さらに、報道によれば秀和による船井電機の買収資金も銀行貸し付けの保証をするかたちで最終的に船井電機自身が負担させられる羽目になっていたということなので(前出・読売新聞記事より)、非常に不可解です。

 秀和システムの上田智一社長が船井電機、船井電機HDの社長を務めていたことから、一連の動きは秀和が進めたものとみられますが、いったい何をしようとしていたのか、いまいちよくわかりません。ただ、全体を振り返ってみると、船井電機HDをベースに事業の多角化を進めるために、船井電機という財布に入った金がどんどん使われ、その財布がすっからかんになってしまったようにみえます。約2000人に上る従業員が給料未払いのまま即時解雇されたわけですから、秀和には説明責任があります」(大手銀行系ファンドマネージャー)

買われた側、完敗の手法?

 数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。

「(秀和は)船井電機を非上場化して手に入れる際にLBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる手法を使った可能性があります。買収する際に金融機関から資金を借りるのですが、最終的にはその負債は買われた会社に背負わされ、買われた会社が返済していく手法です。買い物をする側がその資金を買われる側に払わせるという、買う側圧勝、買われた側(特にその返済のためにその後、何年も働かされることになる従業員)完敗の手法です。

 融資で調達されたお金は当時の上場株を保有していた外部の株主に渡るために、これから船井電機HDとなるグループ会社たちに渡るわけではないので現金は当然増えず、しかし負債だけが追加され、資産額(資産額は資本と負債を合計したもの)が同じであれば結果的に自己資本を減らすことになります。22年度から23年度の動きは興味深いです。純資産は256億円から202億円に減り、総資産も757億円から714億円に減っています。現金が40億円以上減っている可能性が高いでしょう。それが単なる赤字による影響なのかもしれませんが、他の可能性も考えられます」(10月31日付当サイト記事より)

買収の目的は再建とは別か

 21年に秀和システムHDのTOB(株式公開買い付け)を受け入れて買収され傘下に入ってから、船井電機HDの純資産が250億円も減少して半分以下になっている点も注目されている。

 植村会計事務所代表で公認会計士の植村拓真氏はいう。

「船井は本業がうまくいかず利益を上げられていなかったことに加え、秀和による買収後はミュゼプラチナムを買収してわずか1年後に売却するなど不可解な動きがあり、その間にも損失が膨らんでいったと考えられます。報道によれば関連会社への資金援助も行っていたということなので、関連会社への多額の貸付金による資金流出、場合によっては債務免除なども実施しお金が返ってこなくなった可能性も考えられます。その状況下でM&Aの失敗なども重なり、潤沢にあった資産がなくなってしまったのではないかと思われます。

 M&Aというのは、同じ業種の企業同士やお互いに事業を補完し合えるような企業同士が一緒になってシナジー効果が期待できると見込んで行うべきです。あくまでも外部からの目線での話ですが、そもそも出版社がテレビメーカーを買収することでどのようなシナジーが生まれたのか、脱毛サロンであるミュゼプラチナムの買収によるメリットがどの程度あったのか、推察が難しい面があります。秀和による船井電機の買収は経営陣同士のビジネスを通じた付き合いもあり発展したということですが、ミュゼプラチナムの買収も含め、M&Aを通して事業全体としてシナジーがどの程度見込めるか、きちんと検証がなされていたのかも問われるでしょう」

 証券業界関係者はいう。

「一般的に不振企業を買収する目的は、安い価格で買って再建することで将来的に自社の利益拡大につなげることですが、秀和は船井電機を買収後に船井の事業継続の原資となる資金を積極的に外部に流出させており、少なくても船井を再建させる意図はなかったと考えられます。一部報道によれば、秀和は船井の買収資金を銀行から借り入れるにあたり船井の定期預金を担保に差し出し、それを銀行に回収されていたということなので(前出・読売新聞記事より)、再建とは別の目的だったのではないでしょうか」

(文=Business Journal編集部、協力=植村拓真/公認会計士)

植村拓真/植村会計事務所代表、公認会計士、税理士

植村拓真/植村会計事務所代表、公認会計士、税理士

1992年兵庫県生まれ、同志社大学法学部法律学科卒業、大手監査法人出身。
ベンチャー企業を立ち上げた経験があり、現在もマーケター等の従業員を多数配置して経営しています。ネットを使った集客・販売の仕組みを構築して、独自の資格試験教育事業を創り上げました。当該事業では勉強に役立つ商品をアフィリエイトしたり、自分のオンライン講座を販売したり、勉強会を開いたり、個別指導のサービスを提供したりすることでマネタイズしています。所長自身が0から起業し、現在も事業運営を行っている「生の経験」を活かして、幅広い業種のクライアントの経営相談(コンサルティング)や節税相談や申告代行業務を請け負っております。現在のクライアントには、売上が数十億円以上のスタートアップ・ベンチャー企業が多数おりますので、安心してお問い合わせくださいませ。
植村会計事務所

Twitter:@Takuma_Uemura_

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