今月24日に東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた船井電機をめぐり、不可解な動きがあるとの指摘が一部でなされている。ひとつは、2020年度の時点では、最終利益は1200万円の赤字とはいえ、売上高は804億円、純資産は518億円もあり、知名度も高い同社がなぜ破産を選んだのかという点。もうひとつは、2021年に秀和システムの子会社である秀和システムホールディングス(HD)のTOB(株式公開買い付け)を受け入れて買収され傘下に入ってから、船井電機HDの純資産が250億円も減少して半分以下になっている点だ。経営陣による会見やプレスリリースなど、会社から破産についての説明が一切ないことも不可解だが、背景には何があるのか、専門家の見解を交えて追ってみたい。
船井電機は破産手続き開始が決定した今月24日、社員説明会を実施し、社員全員の即時解雇を伝え、さらに翌25日に支給予定だった給料を支払わない旨を説明した。また、同社は大半の株式を広告会社に仮差し押さえされたという一部報道を受けて、今月4日に「裁判手続き等に関する報道につきましてはその客観性を担保するため、本件に限らず、法廷外におけるコメントを差し控えさせて頂いております」とするプレスリリースを発表したのを最後に、破産に関する会見やリリース発表など対外的な説明を行っておらず、経営陣は雲隠れ状態にある。
こうした対応は経営破たん時の企業の対応としては一般的なものなのか。数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏はいう。
「全従業員解雇という点については、破産というものはそういうものなので仕方ないです。ただ、会社や製品にブランド価値(実績に伴う認知度など)がある場合、かなり財務が痛んでいたとしても、どこかの会社やファンドが二束三文であっても買い取って救済・支援して、民事再生や会社更生によって債務を軽くしてもらって再建を目指すことが一般的です。
船井電機ほど認知度の高い会社が、そのようなことなく破産に至ったのは、支援しようとした会社がデューデリジェンス(資産の調査)において何かとんでもないリスクや瑕疵を見つけて支援を断念したのか、あるいは、そうした手続きを進める間もなく一瞬にして現金が外部流出して運転資金が枯渇したという可能性があります。
同社は2020年度の時点では、全盛期からはだいぶ落ちたとはいえ売上804億円あり、営業損失は3億円、最終損失は1200万円と赤字ではあったものの、現金が349億円、借入は1.8億円、純資産は518億円と、食い潰せる過去の遺産はまだまだ潤沢にありました。やり方によっては復活できた可能性はいくらでもあったでしょう。それが21年度に非上場化され、市場や投資家などから監視されことなく株主や限られた権力者によって意思決定が進められる状態になってから、わずか数年で消滅することになってしまったのは、もはや『事件』のようにも見え、異常な事態といえます。可哀想なのは一夜にして職を失った2000人の従業員でしょう」
これまで船井電機の社長には秀和システム代表取締役の上田智一氏が就いて再建に取り組んできたが、今年9月に退任。今月3日には、社長後任には元日本政策金融公庫専務の上野善晴氏が、会長には元環境相の原田義昭氏が就任すると発表されていた。29日現在、同社公式サイト上の会社概要の役員一覧に上野氏の名前はなく、また社長の名前も記載されていない。
「会長の原田氏の経歴をみる限り、企業経営のプロではない。元通産官僚で長く政治家をやっていた人で、80歳という年齢を考えても、元大臣という対外的な信用力を利用するために会長職として名前を借りていたというのが実情でしょう。船井電機は非公開会社なので役員を公開する義務はないものの、会社HP上の役員一覧に社長の名前だけがないということは、社長ポストがいないと考えられ、売上高800億円を超える規模の企業としては異例といえ、正常な経営状態ではなかったと推察されます」(大手金融機関ファンドマネージャー)
純資産が急減
同社の財務状況をめぐる不自然な動きも注目されている。船井電機・ホールディングス(HD)の財産等の状況をみると、2020年度には518億円あった純資産が、21年の秀和システムHDによる買収を経て23年度には202億円にまで減少。半減以上の幅で減っているのだ。
「まず、船井電機HDと、一般的に長らく認知されてきた船井電機は別物です。船井電機HDの23年3月期の事業報告書で、21年度に420億円あった純資産が22年度には256億円に減っていることが明記されています。総資産は724億円から757億円と逆に増えています。注釈には船井電機の22年度の純資産は439.5億円と書かれており、増えています。なので、少なくともこの時点で船井電機が新しくグループの支配者になった秀和システムHDなどによって何か財務の影響を受けたわけではないでしょう。船井電機HDの資産額も一緒に減っていたならば現金が流出したようなことがあり得るでしょうが、資産額は減っていません。
考えられることとして、船井電機を非上場化して手に入れる際にLBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる手法を使った可能性があります。買収する際に金融機関から資金を借りるのですが、最終的にはその負債は買われた会社に背負わされ、買われた会社が返済していく手法です。買い物をする側がその資金を買われる側に払わせるという、買う側圧勝、買われた側(特にその返済のためにその後、何年も働かされることになる従業員)完敗の手法です。
融資で調達されたお金は当時の上場株を保有していた外部の株主に渡るために、これから船井電機HDとなるグループ会社たちに渡るわけではないので現金は当然増えず、しかし負債だけが追加され、資産額(資産額は資本と負債を合計したもの)が同じであれば結果的に自己資本を減らすことになります。。あるいは逆さ合併や会社分割によってHDの形を整えた過程で、なんらかの会計処理でそうなった可能性はありますが、いずれにせよ情報が公開されていないため真相は不明です。
22年度から23年度の動きは興味深いです。純資産は256億円から202億円に減り、総資産も757億円から714億円に減っています。現金が40億円以上減っている可能性が高いでしょう。それが単なる赤字による影響なのかもしれませんが、他の可能性も考えられます」(中沢氏)
破産には至らなかった可能性も?
船井電機は創業者・船井哲良氏が08年に退任後、赤字が常態化して経営が安定しない状況が続いた。17年に船井氏が死去すると、北海道の病院で院長を務める長男は船井電機株の34.18%を相続。長男は複数の投資ファンドなどから株売却の話を持ち掛けられたが、船井電機に株譲渡の意向を示し、これを受け同社は秀和システムと協議し、秀和によるTOB(株式公開買い付け)によって上場廃止となり秀和の傘下に入ることで合意。秀和の上田智一社長が船井電機社長に就任して再建に取り組んでいたとみられるが、今年9月に上田氏は船井電機の社長を退任した。
「今となっては完全にifの話となってしまうが、もし出版事業の秀和ではなく投資ファンドの下で再建に取り組んでいたら、破産には至らなかった可能性はある。投資ファンドの目的は買収した企業の価値を高めて高く株を売り抜けることなので、厳しいリストラと抜本的な経営改革を敢行して船井電機を再建に導くことができたかもしれない。また、過去に1度、事実上破綻したこともあり業績も低迷していたとみられる脱毛サロンチェーン運営会社ミュゼプラチナムを昨年に買収して、結局1年で手放しているというのも不可解だ。明らかに経営が迷走していたと考えられる」(大手金融機関ファンドマネージャー)
船井電機の歴史
1961年にトランジスタラジオなどの電機製品のメーカーとして設立された船井電機が大きく成長する契機となったのが、米ウォルマートとの取引開始だった。1990年代にウォルマートと提携し、全米の同社店舗で船井のテレビをはじめとするAV機器を販売。OEM(相手先ブランドによる生産)供給の拡大やオランダのフィリップスからの北米テレビ事業取得(2008年)などもあり、世界的に名を知られる存在となった。
しかし、好調は続かなかった。2010年代に入ると、徹底したコスト低減による低価格を強みにシェアを拡大させていた船井電機は、海信集団(ハイセンス)やTCL集団など中国勢の台頭に押され業績が悪化。創業者である船井哲良・取締役相談役(当時)は大きく経営戦略を転換させ、北米向けの低価格のOEM供給から国内向けの4Kテレビなど高品質商品を自社ブランドで販売する方針にシフト。16年にはFUNAIブランドのテレビについてヤマダ電機(現ヤマダデンキ)と10年間の独占供給契約を締結するなどしたが、業績は好転せず。
21年には出版社、秀和システムの子会社である秀和システムホールディングスのTOB(株式公開買い付け)を受け入れて上場廃止に。23年に持ち株会社制に移行し、船井電機HD傘下に事業会社の船井電機を置く体制となった。
昨年度の最終損益は131億円の赤字で、24年3月期末時点での負債総額は約461億円。
(文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表)