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CATLのプラットフォームを日産やマツダが導入

2025.08.29 2025.08.28 12:17 企業
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CATLの公式サイトより

●この記事のポイント
・CATL(寧徳時代新能源科技)が電池メーカーからEVプラットフォーム供給企業へ進化
・日本の自動車メーカーが中国市場でのコスト競争力確保のためCATL製プラットフォーム採用
・電池単体販売から統合システム提供への事業転換で自動車業界の主導権握る戦略

 世界最大の車載電池メーカーである中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が、電池の枠を超えてEVプラットフォーム事業に本格参入している。日産自動車やマツダがCATL製EVプラットフォームの採用を決めたほか、ホンダも中国市場でのコスト競争力確保を目的に採用を検討しており、自動車業界の勢力図に大きな変化をもたらしている。

●目次

TDK子会社から独立、8年連続世界シェア首位

 CATLの前身は、日本のTDKの中国駐在社員が設立したスタートアップ企業ATLだった。オートインサイト株式会社代表で技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏は、同社の成り立ちについて次のように説明する。

「CATLの前身となっているのがATLという会社です。このATLという会社は元々、TDKの中国に駐在していた社員が独立して作ったスタートアップ企業で、その後、TDKの子会社になりました。そこから分離独立して発足したのがCATLで、そこから急速に発達して、もう自動車業界ではかなり有名な会社となり、世界最大の車載電池メーカーになっています」

 CATLの設立は2011年と比較的新しいが、その成長スピードは驚異的だ。

「今、車載電池のシェアで言うと2024年に38%になっています。8年連続でシェアトップ、しかも2位がBYDで17%ぐらい、3位が韓国のLG Energy Solutionで11%ぐらいです。日本で1番シェアが高いパナソニックでさえ4%程度とCATLの10分の1くらいの規模しかないのが実態で、CATLは圧倒的な世界トップの車載電池メーカーです」

「電池の使いこなしノウハウが必要」

 では、なぜ電池メーカーがプラットフォーム事業に乗り出したのか。鶴原氏は電池技術の特殊性を指摘する。

「電池は結構使いこなすのにノウハウが必要です。例えば電池が充電する時や放電する時は熱が発生するので、それを冷却する必要があります。大体40°C以上に電池がなると劣化が進むと言われているので、それ以下にコントロールしなくてはいけません。同様に、充放電の速度をどのようにコントロールするかも重要です」

 電池の性能を最大限に引き出すには、バッテリーマネジメントシステム(BMS)と呼ばれる制御システムが不可欠だ。

「電池の技術そのものも大事ですが、電池の充放電を管理するBMS、バッテリーマネジメントシステムという制御するコンピューターがあります。搭載する電池ごとに、異なるコントロールが必要になります」

 スズキが発売予定の「eビターラ」を例に、鶴原氏は統合システムの利点を説明する。

「スズキは電池をBYDの子会社から、セル(単電池)の単位ではなく、電池パックとして購入しています。それはeビターラがスズキにとって初めてのEVであるため、電池の使いこなしのノウハウが不足していたため、冷却システムやBMSなども一体化した電池パックとして購入したほうが安心と判断したようです」

日本メーカーの中国戦略転換点

 日本の自動車メーカーがCATLのプラットフォームを採用する背景には、中国市場での厳しい競争環境がある。

「日本の自動車メーカーは中国で非常にシェアを落としています。1番シェアを落としている原因は、日本のメーカーのコスト競争力、特にEVにおけるコスト競争力が、現地のBYDやGeelyなどに対して大きく劣っているからです。いかに現地化をして、現地のメーカーに対抗できるようなコスト構造を作り上げていくかが重要な課題となっています」

 実際に、日本メーカーは段階的な現地化戦略を進めている。

「第1段階として、マツダは長安という会社が開発したEVの中身はほとんどそのまま使い、デザインや味付けをマツダ独自のものにしています。日産は、合弁先の東風汽車が開発した車を、ほぼそのまま日産のバッジを付けて売っています」

 ホンダの事例は、独自開発の限界を示している。

「ホンダは最近、合弁先と共同で新しいEV専用の工場を立ち上げて、競争力のあるEVを作ろうとしていましたが、残念ながら同じクラスの中国メーカー製EVに比べて価格が割高になってしまい、売れ行きは芳しくありません」

 この状況を受けて、ホンダも戦略の軌道修正を図っている。

「ホンダはCATLのEVプラットフォームの採用を検討していると言われていますが、いずれにせよ部品調達から開発まで徹底的に現地化しなければコスト競争力を確保できないことが明らかになり、戦略を軌道修正しているところだと思います」

 一方で、鶴原氏は市場の棲み分けも指摘する。

「こうした動きは、日本のメーカーが独自のEVの開発をやめるということを意味するわけではありません。日米欧といった先進国向けには、各社とも次世代EVの開発を進めています。しかし中国のマーケットにおいては、EVのコアになる部分も含めて現地化をしていかないと、コスト競争力が確保できないことが明らかになりました。CATLからEVプラットフォームを丸ごと購入することも、そのための手段として日本メーカー各社が決定、あるいは検討していることだと思います」

 CATLの世界展開も着実に進んでいる。

「CATLはすでにドイツに工場があり、ハンガリーやスペインなどにも工場を建設しようとしています。これまでヨーロッパの自動車メーカーは韓国メーカーの電池を多く採用してきましたが、今後はCATLを含めた中国メーカーの電池の採用を増やしていくと思われます」

 ただし、アメリカ市場では政治的な障壁が存在する。

「フォードがアメリカでCATLの技術を導入した電池工場を作ろうとして、トランプ政権がそれに対して差し止めをしました。CATLがアメリカに進出するのはかなり難しそうです」

 ここまで見てきたように、CATLは電池メーカーから総合的なモビリティソリューション提供企業への転換を目指している。電池単体の供給からプラットフォーム全体の提供へと事業領域を拡大することで、自動車業界における影響力を飛躍的に高めようとしている。日本の自動車メーカーにとっては、グローバル市場での競争力維持と技術的自立性の両立が今後の重要な課題となりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鶴原吉郎/オートインサイト代表)

鶴原吉郎/オートインサイト代表

鶴原吉郎/オートインサイト代表

1985年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社、新素材技術の専門情報誌、機械技術の専門情報誌の編集に携わったのち、2004年に自動車技術の専門情報誌「日経Automotive Technology」の創刊を担当。編集長として約10年にわたって、同誌の編集に従事。2014年4月に独立、クルマの技術・産業に関するコンテンツ編集・制作を専門とするオートインサイト株式会社を設立、代表に就任。
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