解約率4.8%の衝撃…LINE公式パートナー唯一の「3カ国制覇」企業が見据える日本市場の勝算

●この記事のポイント
台湾発のAIスタートアップ、クレッシェンドラボが日本市場へ本格進出する。同社はLINE主要3カ国で唯一の公式パートナーであり、年間84.9億通の配信実績を誇る。強みはChatGPT等も取得不可能な9年分の独自行動データだ。2026年投入の自律型AI「DAAC」は、分析から実行までを自動化しマーケターの思考を代替する。解約率4.8%という驚異的な指標を背景に、日本を最重要拠点としてDX革命を加速させる。
LINEを起点に企業と顧客のコミュニケーションをAIとデータで進化させる台湾発スタートアップ、クレッシェンドラボ(漸強実験室)。マーケティング自動化ツール「MAAC(マーク)」とチャットプラットフォーム「CAAC(カーク)」を軸に、年間84.9億通のメッセージを処理し、IKEA、H&M、楽天など800社以上の企業のマーケティングを支える。LINEが浸透するアジア3カ国(台湾・日本・タイ)で唯一の公式パートナー認定を受ける、アジアを代表するMarTech企業だ。
その共同創業者兼CEOである薛覲(シュエ・ジン)氏が来日した。上海のハイテク企業でWeChatというスーパーアプリの可能性に感銘を受け、2017年に台北で創業した同氏は、通訳を交えながらも言葉の端々に確信を滲ませた。
そのクレッシェンドラボが2026年、満を持して日本市場に投入するのが自律型AIデータ分析エンジン「DAAC(ダーク)」だ。単なる新機能の追加ではない。9年間にわたって蓄積してきた膨大なLINE行動データを武器に、マーケターの「考える仕事」そのものをAIが代替する。その野心的なビジョンと、日本市場を「最重要」と位置づける戦略の核心を聞いた。
●目次
- MAAC・CAACが築いた「LINE最強の基盤」
- DAACとは何か――AIが「気づき、提案し、動く」
- ChatGPTに絶対取れない9年分の独自データ
- 転換率88.6%、解約率4.8%――日本市場で証明された勝ち筋
- 「AIを誰が作るかで、世界が変わる」――CEOが語るAIの本質
MAAC・CAACが築いた「LINE最強の基盤」

クレッシェンドラボの強さを理解するには、DAACに至るまでの「積み上げ」を知る必要がある。
2019年に発表した「MAAC(マーク)」は、LINEを通じた1対多のパーソナライズ配信を実現するマーケティングオートメーションツールだ。AIがコンテンツを自動生成し、過去の配信実績から開封率・クリック率の高いメッセージパターンを学習する。「誰に・いつ・何を届けるか」を、データが決める時代を同社はいち早く切り拓いた。
続いて登場した「CAAC(カーク)」は、1対1チャットに特化したプラットフォームだ。LINE・Instagram・Facebook・WhatsApp・SMSなど複数チャネルを一元管理し、AIが顧客の質問に自動応答。通話録音とAI要約機能も実装し、「何を話したか残らない」というカスタマーサポートの慢性的な課題を解決した。
この2製品が今や世界800社以上に導入され、年間84.9億通のメッセージを処理する。そしてLINEが普及するアジア主要3カ国、台湾・日本・タイのすべてで公式パートナー認定を受けているのは、世界でクレッシェンドラボだけだ。台湾では4年連続でゴールドパートナーの称号を維持し続けている。
「私たちはLINEの会社ではない」と薛覲CEOは言う。
「LINEを起点に、企業と顧客があらゆるチャネルでつながる仕組みを作っている。WeChatがそうであるように、1つのメッセージングプラットフォームがマーケティングから販売、サポートまですべてをカバーできる世界を目指しているのです」
その言葉通り、同社は次のステージへと歩を進めた。
DAACとは何か――AIが「気づき、提案し、動く」
MAACとCAACが「手足」だとすれば、DAACはその「頭脳」にあたる。
DAAC(Data Analytical and Automation Cloud)は、MAACとCAACを通じて蓄積された顧客行動データをAIが自律的に分析し、「次に何をすべきか」を提案。さらにMAACの配信やCAACのチャット対応へと自動実行まで繋げる、いわば「AI成長エンジン」だ。
従来、マーケターはデータを見て、会議で議論し、配信設定を行うまでに数日から1週間を要していた。DAACはそのプロセスをまるごとAIが引き受ける。過去のキャンペーンデータを学習したAIが「先月と比べて30代女性の購買率が低下しています。昨年同時期にフリースのクーポンを送ったとき回復しています。今週木曜18時に該当顧客へ配信することを推奨します」と提案し、担当者は承認ボタンを押すだけでいい。
薛覲CEOは、こう指摘する。
「日本企業は人材不足、ノウハウの属人化、意思決定の遅さという三重苦を抱えています。DAACはその三つをまとめて解決する。AIが考え、提案し、動く。人間はジャッジするだけでいいのです」
さらに2026年2月には、DAACに「AIネイティブCDP(Customer Data Platform)」機能の搭載を発表した。従来のCDPにAIを後付けするのではなく、開発段階からAIをコアに組み込んだ次世代データ基盤として、「収集→分析→実行」のタイムラグをゼロに近づける。日本における本格展開は2026年4月以降を予定しており、今回のラウンドテーブルでは日本初となるデモ画面が初めて公開された。
ChatGPTに絶対取れない9年分の独自データ

DAACの競争優位の核心は、技術ではなくデータにある。猪股唯耶日本法人代表は、こう語る。
「私たちが持っているのは、LINEのメッセージを開いたか、いつ開いたか、何をクリックしたか、その後サイトに飛んで何を見たか、このすべてが繋がったインタラクションデータです。LINEの開封データだけなら他社も持てる。しかし開封からクリック、サイト行動まで一気通貫で見えているのは私たちだけです。これをすべてDAACの学習ソースにしています」
2017年の創業から約9年。台湾・日本・タイのLINE利用企業と消費者の間で積み上げてきたこのデータは、ChatGPTにもGeminiにも構造上取得できないものだ。今から新規参入した競合が追いつこうとしても、時間的にも技術的にも不可能だと猪股代表は断言する。
「構造上も時間上も、絶対に追いつけない。これが私たちの最大の武器です」
さらに、薛覲CEOは言い切る。
「AIを使えば誰でもUIは作れる。これからのSaaSが生き残る唯一の道は、独自データをどれだけ保有し、それを独自のアウトプットに変えられるかにあります。私たちはその点で、誰にも負けないと思います」
転換率88.6%、解約率4.8%――日本市場で証明された勝ち筋
クレッシェンドラボの日本戦略は明快だ。「ランドアンドエクスパンド」小さく導入し、徐々に範囲を広げていく。
最初はLINEの1チャネルだけをフリートライアルで導入してもらう。使いやすさを実感した企業が有料契約へ移行し、SMS・Instagram・Webチャットとチャネルを広げ、MAACからCAACへ、そしてDAACへとプロダクトを拡張していく。この戦略が日本で着実に機能していることは、数字が証明している。2024年以降のトライアル導入企業の有料転換率は88.6%。解約率はSaaS業界で健全とされる5%未満を下回る4.8%。アップセル率は35.1%に達する。この驚異的な数字の背景を猪股代表はこう説明する。
「1回入れてもらえれば、必ず使い続けてもらえる自信があります。例えば何万人、何十万人に一斉配信する時、誰でも怖いじゃないですか。だから事前にテスト配信をしたい。でも実は、そういう機能が準備されていないツールが多いんです。私たちはそういう細かいところまで作り込んでいる。お客様の声をすぐ製品に反映する開発力も含めて、それが数字に表れているんです」
こうした数字が、日本市場への集中投資の根拠になっている。日本の顧客単価は台湾比で約5倍。市場規模の差を考えれば、日本での成功がグローバル成長の最大エンジンになる。猪股代表が投資家へのプレゼンでもこの数字を成長の根拠に据えるほど、日本事業はグループ全体の中で特別な位置づけだ。
「AIを誰が作るかで、世界が変わる」――CEOが語るAIの本質
ラウンドテーブル終了後、薛覲CEOに個別に話を聞いた。特に聞きたかったのはAIの未来だ。
薛覲CEOは「AIには3つのレイヤーがある」という。
「一番下がインフラ、つまり半導体。その上にChatGPTやGeminiのような基盤モデル。そして私たちのようなアプリケーションレイヤーです。今は半導体が最も利益を生んでいます。しかし半導体はやがてコモディティ化するでしょう。差別化が難しくなった時、価値はアプリケーションレイヤーに集まってきます。つまり、私たちの時代が来るわけです」
さらにAIの未来について、こう語った。
「AIは誰が作り、何を学習させたかによって、人々の認識そのものを変えてしまう。これが最大の社会リスクです。だからこそ、AIを誰が作るかが重要です」
そして、AIが人間社会にもたらす変容についても言葉を継いだ。
「これまで人間の価値は、いい学校を出たか、専門知識があるかで測られてきた。しかし、これからは、AIをどれだけ使いこなし、どれだけ価値に変えられるかで人間が分かれる時代になります。AIは単なるビジネスツールではありません。社会そのものを変えるものになっていくでしょう」
上海でWeChatの可能性に目覚め、台北でゼロから会社を起こし、LINEという日常インフラを通じてアジアの企業と消費者の距離を縮めてきた起業家は今、DAACというAI成長エンジンを手に、日本市場という最大の舞台に立った。9年分のデータと、アジア3カ国で積み上げた実績が、その言葉の確信を裏付けている。
(取材・文=昼間たかし)











